オープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」が運営するオープンイノベーションカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2020→2021」が2月26日に開催された。大企業の中で、スタートアップや大企業同士も含めたオープンイノベーションによる共創が注目されているが、実際に合弁企業を設立するまでにはどういった経緯があったのか。
そのメリットやデメリットなどについて、無人決済システムを手がけるTOUCH TO GOとエレベーター内プロジェクション型メディア事業を推進するspacemotionの代表らが語り合った。
JR東日本とサインポストが50%ずつ出資した合弁会社TOUCH TO GOの代表取締役社長を務める阿久津智紀氏は、「無人決済システムを作っており、髙輪ゲートウェイで実証実験の店舗を運営している」と事業を説明した。
「お客様が買い物するときに(バーコードなどを)スキャンすることなく、フリクションレスで買える仕組みを作っている。現在、首都圏のオフィス人口が減っている中で、小売り業者にシステムソリューションを提供するという仕事をしている」(阿久津氏)
三菱地所 DX推進部 主事/spacemotion 代表取締役社長CEOの石井謙一郎氏は、三菱地所のDX推進部に所属しながら、兼務出向という形で三菱地所の子会社のspacemotionという会社のCEOをしているという。
「spacemotionではエレベーターのかごの中でプロジェクターを使って扉の内側に動画コンテンツを投影し、テレビと同じようにニュースや天気予報などが流れる合間にテレビCMのような形で広告を入れ、その広告料でマネタイズしていくエレベーター広告事業を進めている。spacemotionは三菱地所が51%、テクノロジースタートアップの株式会社東京が49%を出資する合弁形式で運営している」(石井氏)
TOUCH TO GOの阿久津氏は「JR東日本でスタートアップの方と新しい事業を作ろうというところからスタートした」と語る。
「2017年にサインポストと画像技術を使った無人決済店舗の実証実験をし、翌年にももう1回行ってうまくいった。だいたいオープンイノベーションだとここでお互い頑張ってねとなるか、出資をするパターンが多い。しかしこのビジネスは両者にとって本業のビジネスではないので、運営する母体を作らなければならないということになった。親会社からある程度の保護を得ながら、合弁でカーブアウトして大きくなっていく戦略を取るために合弁会社を作ったというのが経緯だ」(阿久津氏)
もともとの課題としては、新幹線のホーム売店などの売上が下がって店舗の経営が維持できないという問題を、何かしらのソリューションで解決したかったという。
一方、spacemotionの石井氏は「たまたま合弁形式に行き着いた」と語る。
「私は2017年からDXに向けた取り組みをしている中で、さまざまな事業化案件を検討していた。そんな中で、今取り組んでいるエレベーター広告の市場が中国でかなり盛り上がってるという情報を入手した。エレベーター広告は“不動産×広告”なので、三菱地所と親和性がある事業だなと考えた。そこで私1人で事業検証に向けた計画を立て、実証実験の検討を進めていった。VCの方に事業計画をプレゼンしたところ、面白いし三菱地所がやる意義もある一方で、まったく同じことを考えている天才東大生がいると聞いた。それでその天才東大生に会いにいったのが、この合弁会社を作るファーストステップになった」(石井氏)
合弁会社を設立した狙いについてTOUCH TO GOの阿久津氏は、「僕らがやろうとしてるのは先行投資型の事業だし、今の環境をうまく使った方がいいので、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)から出資してもらう形で会社を作った」と語る。
「通常のCVCだとサインポストに出資するという選択をすると思うが、サインポストは小売りのノウハウは分からないし、僕らは小売り側のバックエンドのシステムの話は分からない。お互い持ってるものを掛け合わせるというのが今回の狙いだ」(阿久津氏)
spacemotionの石井氏も、お互いの強みを掛け合わせることが狙いだと語る。
「最初は軽いノリでエレベーター広告事業を検討し始めたが、一番ハードルになったのがエレベーターのかごの中は電波が届かない弱電波環境になるということだった。そこで安定的に24時間365日、コンテンツを遠隔配信する技術がすごく難しかった。僕らの合弁パートナーの東京はそのニッチなところを3年間ひたすら研究していた。そこはもうどれだけ頑張っても自分たちのケーパビリティでは到底追いつかないなと考えたので、お互いのいいところおをかけ算して、合弁形式で事業を推進しようという判断になった」(石井氏)
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