“借り物競走”ではない合弁会社の価値--大手企業の合弁会社社長らが語る設立のリアル - (page 2)

出資比率1%の差に大きな意味

 TOUCH TO GOとspacemotionでは2社の出資比率が異なる。

 「うちは基本的にリスク事業なので、どちらにも連結しないようにしようということで50%にした。もめたときに、基本的にはどちらが責任を取る、連結するという話にならないように、イーブンにしたのもある」(阿久津氏)

 「どちらがイニシアチブを持とうという協議は合弁パートナーとしていたが、最終的には三菱地所グループの将来的な柱となる事業に育てるために、三菱が51%を取らせてもらおうという判断になった。リスク事業だが、そのぐらいの覚悟を持ち、三菱地所グループが一丸となってこの事業に取り組むというメッセージだ」(石井氏)

 TOUCH TO GOは合弁会社の設立にゴーサインが出てから約半年かけて設立にこぎ着けたが、spacemotionは「合弁会社を作ろうと打診をしたのは確か2019年9月で、それから2カ月後には会社を作った」(石井氏)という。

 「私の取り組みの例外的なのは、社内新規事業提案制度みたいな枠組みでやっている事業ではなかったので、普通に経営会議などに諮っていくプロセスを踏まないといけなかった。なので早い段階で社長にも話しにいったりと、パワープレーも使った。当時の担当役員の専務に中国で本場のエレベーター広告を見てもらい、その場で合弁パートナーの東京にも会ってもらうということを強行した。その場で会食もして専務から、もう合弁会社作りなよといったサポーティブな環境を存分に使わせていただいて、一気に起業に向かった」(石井氏)

 TOUCH TO GOの阿久津氏は「基本的にCVCからの出資なので、本体に対して意思決定を諮らなくていい仕組みにはなっているが、かなりリスキーなので結局ほとんど取締役会と同じルートで説明をした」と語る。

 「中間を抜けるのがめちゃくちゃ大変だったが、上の役員に行くと『そんな金で夢買うなら安いじゃないか、早くやれよ』と逆に怒られる。これは多分大企業冥利だが、そういった意味では普通に背中を押していただいたので非常にありがたいと思っている」(阿久津氏)

 一番苦労したポイントについて、TOUCH TO GOの阿久津氏は次のように語る。

 「大企業の金を使ってやろうとすると、周りにはIT、法務などプロフェッショナルがいるため突っ込みどころが多く、そこに対して適宜ちゃんと回答しなければならない。生み出すまでは、そこにすごく苦労した」(阿久津氏)

 spacemotionの石井氏は「合弁だからという苦労はないが、会社を設立する前の実証実験、PoC(概念実証)、PoB(ビジネス実証)みたいな期間は大変だった」と語る。

 「エレベーター広告は、日本ではまだまだ未成熟市場なので、その市場があるかどうかの検証だったり、われわれのプロダクトが不動産オーナーに刺さるのかどうかみたいなところに結構労力をかけたりする必要があった」(石井氏)

“借り物競走”ではない合弁会社の価値

 合弁会社設立のメリットについて、TOUCH TO GOの阿久津氏は「僕ら小売りのノウハウやアセット、場所と、スタートアップ側の技術を寄せていくことで、お互い強くなれるのが一番メリットだなと思う」と語った。

 JR東日本スタートアップとサインポストでPoCを実施したときよりもその実感は深まっているという。

 「(PoCの時点では)ここまで奥に入らないし、結局僕らがこれをやるときには技術陣を採用しなければならないとか、本当に中身の技術まで入っていかければならなくなる。オープンイノベーションで会社と会社で付き合ってるよりは、かなり同じ釜の飯を食ってる感がある。しかも僕らのプロパー、つまりTOUCH TO GOとしての社員も雇っているので、彼らの人生もかかっている。そのリスク感も普通の事業とは違う」(阿久津氏)

 spacemotionの石井氏は「よくオープンイノベーションは借り物競走だみたいに例えられるが、まさにその通りだなと思っている」と語った。

 「個人的には1+1が3だったり、時には100になることがあり得るのが合弁会社のメリットだと思っている。例えば私は三菱地所しか知らないのでずっと不動産の仕事をやってきて、不動産のことは結構詳しい自負はあるが、広告のことはやはりよく分からない。

 一方でspacemotionの広告主営業をやっている取締役の杉山くんは実は大学4年生だが、彼はもともとWebマーケティングの世界で大学1年生ぐらいから活動しており、会社も1社イグジットしている非常に優秀な人で、学ぶところはすごく多い。

 三菱地所も(株式会社)東京に感化されて“東京ナイズ”されていかないといけないし、逆に東京もまだまだ足りてないケーパビリティがあると思うので、そこを僕らの方から補完してあげて、お互いアップデートしていく。それが1+1がお互い2になって総量が増えるような、歯車がうまくかみ合う形になるといいのかなと思いながら仕事をしている」(石井氏)

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