楽天は2月12日に2020年12月期の連結業績決算を発表した。売上高は前年同期比15.2%増の1兆4555億円、営業損益は938億円と、通期でも通期でも赤字決算となった。赤字の要因は携帯電話事業などへの先行投資によるものだという。
そのモバイル事業を展開している楽天モバイルは、1月29日に新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表しており、1GB以下であれば月額料金が0円になるという大胆な施策で大きな注目を集めた。
同社の代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏はその導入背景を改めて説明。コロナ禍で世界が苦しむ中にあって「原点に立ち戻ってフェアに、できるだけ安く、利用条件に合わせた料金設定にしたい」と話し、戦略的な狙いだけでなく、楽天グループのファンを醸成する狙いも大きかったとしている。
三木谷氏によると、その新料金プラン発表後の申込数は「4倍近い」そうで、楽天モバイルの累計申込数は2月8日時点で250万を突破するなど獲得ペースが加速しているとのこと。一方で加入者の増加にともないローミング費用が微増しているほか、基地局整備に関する費用も増加しているという。
同社はエリア拡大を5年前倒しで進め、2021年夏頃には人口カバー率96%を実現するとしているが、加入者の急激な増加に対応するべく通信品質を向上させるため、人口カバー率96%達成時の基地局数を当初計画の2万7397局から、4万4000局に増やして密度を高めることを明らかにした。そのため当初計画よりも設備投資額は、当初予想の6000億円30〜40%増加するとしている。
その分、当面は赤字幅が拡大するというが、三木谷氏は「今年がボトム」と話し、当初計画通り2023年には黒字化を実現する計画であるという。さらに三木谷氏は、契約数で「4位にとどまるつもりはない」と話し、さらなる加入者の獲得に向けて拡大を続けていくとのこと。現在のペースでの申込数が続くとよりインフラ投資が必要になるが、「それは嬉しい悲鳴かなと思う」と答えた。
また人口カバー率96%を超えた後のエリア拡大については、地上での基地局整備に加え、楽天が出資する米AST&Scienceによる中軌道衛星を活用したエリア整備の、双方を組み合わせて進めたいとの考えを示した。一方で5Gのエリアに関しては「将来4G並みにしていく」と回答するにとどまり、具体的な計画の言及を避けた。
携帯電話事業による赤字が続く一方、その投資を差し引くと、同社の事業全体では大幅な増益決算になっているとのこと。実際、主力事業の1つであるFinTech事業に関しては、クレジットカードの年間ショッピング取扱高が11.6兆円と、シェアが5年で2倍に達したほか、会員数も2020年11月に2100万を突破。年間でも256万会員増加するなど、国内他社との差を広げ成長が加速しているという。
また、もう1つの主力事業であるEコマースに関しては、コロナ禍での巣ごもり需要などもあって、2020年度の国内EC流通総額が前年同期比19.9%増の4.5兆円に達したとのこと。売上、利益も前年同期比で、それぞれ35.1%、70.3%と大幅な伸びを記録したという。
コロナ禍による外出自粛などで大きく落ち込んでいた「楽天トラベル」に関しても、第4四半期に「GoToキャンペーン」の影響で回復を見せ、そのチェックアウト流通総額は前年同期比2桁増を達成するなど回復傾向にあるとのこと。さらに国内延べ宿泊数のマーケットシェアで国内トップレベルの20.8%のシェアを獲得するなど、市場での存在感を高めているという。
Eコマース事業の伸びについて三木谷氏は、1つに楽天モバイルの加入者が「楽天市場」における1人当たりの平均月間流通総額が44%伸びるなど、楽天のエコシステムを強化していることを挙げている。そしてもう1つは紆余曲折の末に導入された「送料無料ライン」の浸透だと三木谷氏は話しており、細かなサポートなどによって現在では9割程度の店舗が、送料無料ラインを採用するに至っているとのことだ。
なお、楽天は2020年11月16日には、投資ファンドの米コールバーグ・クラビス・ロバーツと、スーパー大手の西友に共同出資することを発表している。楽天はすでに西友とネットスーパー事業を展開しているが、今後はリアル店舗とオンラインを融合するデジタルトランスフォーメーション(DX)のプラットフォームを構築、それを国内の他の小売り事業者へと広めていくとしている。
三木谷氏は「他のスーパーと敵対したくない」と話し、西友にこれ以上の出資をする考えはないとのこと。プラットフォームに加えクレジットカードやポイントなどの事業を組み合わせ、「広く薄くやっていく」(三木谷氏)ビジネスにしたいと考えているようだ。
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