ソフトバンクは2月4日、2021年3月期第3四半期決算を発表した。売上高は前年同期比5.2%増の3兆8070億円、営業利益は前年同期比5.8%増の8415億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会で、代表取締役社長執行役員兼CEOの宮内謙氏は、すべてのセグメントで増収増益を実現しており、とりわけヤフーと法人事業が大きく伸びて業績をけん引していると説明。ヤフーに関しては、巣ごもり需要によるEコマースの大幅な伸びで、ショッピング取扱高が前年同期比54%増と大幅に伸び、売上高、営業利益ともに前年同期比15%増を記録したという。
また法人事業に関しては、やはりコロナ禍によるデジタライゼーションの需要が急拡大したことで、IoT、セキュリティなどのソリューション事業が急速に伸びているとのこと。実際、ソリューション関連の売り上げは年平均で15%の成長を遂げているという。
そこで、他の事業に関してはコスト効率化で人材を削減している中、法人事業だけはコンサルティングを中心とした人材を増強しているとのこと。とりわけ今後は、3月に経営統合予定のZホールディングスとLINE、そしてPayPayなどが持つ国内での豊富な顧客タッチポイントを生かしたデジタルマーケティングや、2020年に移転したソフトバンク本社ビルのIoTなどに関するノウハウを活用した、スマートシティ関連ソリューションなどに力を入れて事業拡大を図るとしている。
流通事業に関しても、文部科学省の「GIGAスクール構想」の整備に関する事業を、法人事業の舞台と協力して受託。200を超える自治体から100万台以上の端末を受注したことで大幅な伸びを記録したという。
そして成長領域となる新事業に関して、宮内氏はスマートフォン決済の「PayPay」の現状について説明。登録ユーザー数が3500万、決済回数が5億回を突破するなど好調に推移しており、「ある証券会社から、上場すると“でかい”という話を持ってきてもらっている」と、すでに上場に向けて声をかけられていることも明らかにした。あくまで証券会社のセールストーク込みだとしながらも、その規模は「1000億というレベルじゃない」と宮内氏は話す。
それら事業の好調で期初予想より業績の進捗率を達成していることから、宮内氏は2020年度の通期業績予想を上方修正すると発表。売上高が期初予想より2000億円増の5兆1000億円、営業利益が500億円増の9700億円になると予想している。
宮内氏は上方修正の理由について、「期初はコロナでマイナスになると厳しく見ていたが、逆にデジタル化でプラスが大きくなった」と話す。宮内氏がソフトバンク上場時に宣言していた、主力の通信事業を基盤としながら、ヤフーなどのインターネット事業、そして「PayPay」など新領域の事業を増やして成長する「Beynod Carrier」戦略が功を奏し、好業績につながったようだ。
実際、宮内氏によると、同社の売上高比率は2020年度の計画ではモバイル通信料収入が売り上げ全体の28%で、それ以外の売上が7割強に達するとのこと。菅政権による値下げ要請を受けて業績への影響が懸念されているが、事業の多角化によってそれを吸収しているという。
宮内氏はその通信事業に関して、コロナ禍でモバイル通信料などが落ちたものの、サービスなどが伸びて増収を維持したとしている。スマートフォンの累計契約数も、「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEモバイル」の3ブランド合計で8%増の2541万件となり、学割施策の好調で「1月の数字を見たら、新規契約数が前年より5割アップしている」(宮内氏)とのことだ。
さらに宮内氏は、2月1日に開始したワイモバイルの新料金プランについて説明。最も安価な「シンプルS」は固定通信や家族に係る割引を倍増し、適用すれば月額900円で利用できることから「楽天モバイルの(新料金プランの)値段にも負けない」と宮内氏は自信を示す。それに加えて2月下旬以降には「iPhone 12」「iPhone 12 mini」をワイモバイルブランドで販売することを明らかにし、春商戦に向けて積極攻勢をかけていく考えを示した。
その楽天モバイルに転職したソフトバンクの元社員が1月に逮捕された件について、宮内氏は「はっきり言って、あってはならない話」と、長年培ってきた4Gや5Gの基地局設置に関する重要なノウハウを不正に持ち出されたと説明。それらの情報が楽天モバイルの事業に不正利用されないよう、民事訴訟を提起する予定だとしている。
また宮内氏は、菅政権による一連の値下げ要請について「よくよく考えたら非常にいいことだったかもしれない、肯定的に思っている」と回答。解約料や番号ポータビリティの手数料無料化や、「Softbank on LINE」のブランドコンセプトを基に新たに設立する新料金プランなどによって、「ネットワーク品質の高さを考慮すれば、世界一値段が安いという世界が実現できたのではないか」と評価した。
ただ新料金プラン投入による値下げの影響は、主として2021年度に大きく出てくると考えられるが、宮内氏はその影響について「コンサバに見て、営業利益が少し落ちると思う」と答える。顧客獲得の積極化やコスト効率化、事業の多角化などでそれを補うとしているが、「今季みたいに(利益が)ドカンと伸びるというのは行かないだろうと思う」と話した。
一方、5Gの進展については、かねてより2021年度末までに約5万局の基地局を設置して人口カバー率90%を目指すとしているが、その後は2025年度頃に約20万局、2030年度頃に約35万局を設置する予定とのこと。とりわけ5Gは自動運転など、法人事業の成長にも影響してくることから「計画は前倒しするかもしれない。投資の手は緩めない」と宮内氏は今後も力を入れていく考えを示した。
なお、ソフトバンクは4月1日付で代表取締役社長執行役員兼CEOに、現在代表取締役副社長執行役員兼CTOを務める宮川潤一氏が就任。宮内氏は代表取締役会長に、現在取締役会長の孫正義氏は、創業者取締役になるという人事を発表している。
そこで今回の決算説明会では、新社長となる宮川氏が同社の今後の方向性について説明した。宮川氏は現在のソフトバンクグループに当たる旧ソフトバンクが、ADSLによる固定ブロードバンドサービス「Yahoo! BB」で通信事業を開始した時代から、ボーダフォンの日本法人を買収しての携帯電話事業への参入、そして5G時代を迎えた現在までを振り返り、ソフトバンクが現在の社会基盤となったインターネットを身近にすることに力を注ぎ、環境を整えてきたと話す。
そして今後の5G時代、ソフトバンクは「ネットワークの提供だけでなく、プラットフォームの提供事業を始める」と話す。モバイルエッジコンピューティング(MEC)やネットワークスライシングなどの技術で、5Gが通信だけでなくプラットフォームとしての構造を持つことを生かし、総合デジタルプラットフォーマーとなってソフトバンクを大変革していきたいという。宮川氏は「テクノロジーを羅針盤に、挑戦し進化し続ける企業にしていきたい」と意気込みを語った。
ちなみに、宮川氏の社長就任が、宮内氏や孫氏から告げられたのは2020年11月末頃とのこと。ソフトバンクはこれまで強力な営業体制が事業をけん引してきたが、両氏から「これからはテクノロジーで思い切り引っ張っていけ」という言葉をもらったことから、技術畑の宮川氏が社長就任を受けるに至ったとのこと。
一方の宮内氏は、社長交代に至った理由について「企業は永遠のバトンタッチリレーだと思う」と話す。同社の指名報酬委員会で次世代の人材育成に関する提言があったことに加え、上場時に打ち出したBeyond Carrier戦略が一定の成果を収めたこともあり、ソフトバンクが通信事業者からプラットフォーマーへと転身を図る上でも「今のタイミングを逃したら(社長交代は)ないと思っていた」と思い、交代に至ったという。
ただし、宮内氏はリタイアするのではなく、今後も会長職としてソフトバンクの事業に携わる。主としてソフトバンク・ビジョン・ファンドなどと連携しての新規事業開拓に集中して取り組みたいとしている。
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