2020年は、新型コロナウイルスの流行によりテレワークの普及が加速し、特に緊急事態宣言が出された時期には、多くの人がテレワーク、そして在宅勤務を経験したものと思われる。それ以降も、地域や業種によって頻度に差はあれど、テレワークを取り入れた勤務形態を取る企業も出てきている。少なくとも、テレワークが大きな関心事として注目された1年だったことは間違いない。
今回、2020年におけるテレワークの動向を振り返りつつ、2021年の展望について、ブイキューブ代表取締役社長の間下直晃氏に聞いた。同社は、「V-CUBE」のブランドでウェブ会議やウェブセミナーシステムのほか、スマートワークブース「テレキューブ」などを展開しており、テレワークの普及に力を入れている。
――もともと、2020年は東京オリンピックの混雑対策としてテレワークの推進が叫ばれていました。しかしながら予期せぬ状況となって、テレワークが劇的に着目された1年だったかと思います。間下さんから見て、想定した状況と今の現状について、どのように感じているでしょうか。
2018~2019年ぐらいから東京オリンピックの混雑対策として、テレワークの推進が少しずつ言われていたかと記憶しています。ただ、2020年初頭に感じていたのは危機感でした。「日本は変わらない。オリンピック程度では変わらないよ」と。1~2歩は進むかもしれないけど、劇的な変化は起きないだろうと。東京オリンピックが開催されても、さらに5年から10年経過しないと、テレワークが当たり前のように使われないと感じていました。
これが新型コロナの流行と緊急事態宣言が発令されたことによって、東京オリンピックで1歩程度進むと考えていたテレワークが、100歩ぐらい進んだ状況になったと思っています。ブイキューブとしては、15年かけて2~3歩ぐらいは進めることに貢献できたと思っていますが、春先からの数カ月で100歩ぐらい進んでしまって。驚きを通り越して、かえって無力感があるぐらいです。文化はそんな簡単に変わらないものですけど、こういうことでガラッと変わると実感しています。
正直、戸惑っているのも本音としてあります。以前から私たちが目指していた世界ですし、それこそ15年前から訴えていたことが、実現したと言っていい状況になりましたから。ただ、急に変わりすぎてしまって、なんだか信じられないぐらいの気持ちなんです。グラフでいうところの、斜線で変化してほしかったのが、ほぼ水平で推移して急に垂直へと変わったぐらいの状況なので。
苦労しながらビデオ会議システムなどを販売してきました。担当者を説得して使ってもらって、それで理解してもらえても、そこから社内に浸透するというところのハードルも高くて。過去の解約理由で一番多かったのは、運用断念でした。担当者や経営者はいいと思って導入しても、社員が使わず運用されていないから解約されるという。やはり、みんなで一斉に使われないと難しい。国や業界団体が半強制的にさせるぐらいのことが起きないと難しいと思っていました。でも日本人は変わり始めると早いし、対応力も高い。なんだかんだ言って、なんとかするのが日本人であると感じています。
いわゆるアナログ世代が未だに多く、その層が世論と会社の経営を握り続けています。まだ高度成長期の成功体験を引きずっているところもありますし。その観点で行けば、今は日本が大きく変わるチャンスですし、そのチャンスを生かしている会社もあります。もちろん厳しい業界もあったり、変われないところをどう救済していくか、ギャップを埋めていく工夫や施策は必要ではありますが、ネットリテラシーを持った層が次第に上にきますので、抵抗感も薄まって、いろいろな変革が進んでいくものととらえています。
――多くの方が、緊急事態宣言を機にテレワークを経験することになりました。
そうですね。これで特に大きかったのは、在宅で勤務することよりも、コミュニケーションについてリアルとオンラインを組み合わせる世界というのを、みなさんが一斉に体験したことです。ウェブ会議システムを使った社内でのコミュニケーションは、その会社がやる気になればできることです。でも生産性を上げるには限界があります。社外とコミュニケーションできるようになることが、一気に広がるためのドライバーだったんです。
私たちも長くテレワークやウェブ会議システムを活用していて、社内オペレーションは問題なくできています。でも、社外ではリアルでの対面が結局求められています。ウェブ会議を検討してもらっても、「ちょっと来てほしい」と言われるんですね。これでは全く変わらないと感じていました。
でも今は企業だけではなく、政治家や行政でもオンラインで会議するようになって。私自身も、これまではシンガポールやアメリカに滞在していても、会うためにその場へと行かなければいけないという状況があって、年間で50万キロぐらい移動していました。でも今は細かく移動しなくても、1カ月ぐらい滞在できるようになったので、効率は大きく上がりました。
こういう状況を受け入れられるようになったことが大きいと感じています。あくまで一個人の体感的な数字ですが、緊急事態宣言によって7割ぐらいは浸透して、確かに戻りつつありますけど、戻って3割というぐらい進歩しています。一度経験しているので、日常的なコミュニケーションにウェブ会議システムが加わったことが大きいですね。
――テレワークは本来、場所を選ばない働き方ができることをメリットだと考えていますが、緊急事態宣言のときには、事実上在宅勤務だけの働き方となりました。これにメリットを感じた方もいれば、かえって働きにくいと感じた方も少なくないと思っています。
緊急事態宣言の影響もあってか「テレワーク=在宅勤務」というイメージがついてしまったところはあります。でもそれは誤解と言いますか、テレワークというのはそんな狭い話ではなくて、在宅勤務はあくまでテレワークで働く形のひとつにすぎません。
今回は在宅勤務でやらざるを得ない状況になりましたけど、全員がいきなり在宅勤務で仕事を進めていくということは無理があります。ブイキューブ社内でも、完全に在宅勤務になっている人は数人程度で、本来は使い分けるべきなものです。
でも、在宅勤務でできることとできないことが、経験をしてわかってきたと思います。先入観で在宅勤務なんて絶対できないと思われたことがあっても、意外とできることがあるとわかったところもありますから。経験してみないとわからないものなのです。
そしてテレワークの有効性を体現し、これまでの働き方に疑問をもった人もいるでしょう。逆にそういった人たちからすると、特に能力のある方だったら、必ず出社しなければいけないという会社に、残る必要もなくなっていくわけです。
――テレワークを含めて、多様な働き方ができるかどうかによって、採用に影響を与えるということも、聞かれるようになってきました。
もともと2019年の段階から、働き方改革の名の下で採用マーケットも変わってきました。新卒社員からの質問に「御社の働き方はどのようになっているのですか」という、昔ではありえない質問があったんです。就職氷河期で買い手市場だったころには考えられなかったことですね。企業でも働き方を選べる環境を整えないと、人材が獲得できない時代になり始めています。今回の状況で、多様な働き方ができる会社は増えたと思いますので、そこで差が出てくると思います。
ひとつ心配なのは、そこで格差が生まれること。対応できる会社とそうじゃない会社が生まれてきています。特に地方を中心についてこれていない部分もあります。そこで頑張って変化している会社もありますけど、差が開き始めています。底上げのための仕組み作りや文化の醸成、制度作りなど、全体をよくしなければいけないと感じています。
――緊急事態宣言以降、頻度に差はありつつもテレワークを継続している企業もあれば、オフィスに人を戻しているところもあると思います。これはどのように見ていますか。
確かにそれはありますし、オフィスに従業員を戻したという報道も多々見受けられます。でも、オフィスに戻していても、オンラインで会議や打ち合わせをしていますね。ですので、「在宅勤務はうまくいかない」ということとセットでうたわれているのは、少しミスリードな気がします。いきなり全員が在宅勤務でフルに活動するというのは夢物語でしかないです。
オフィスに出社する人がいても、顧客との会議や打ち合わせがオンライン化していて、コミュニケーションは大きく変化しているんです。オフィスに戻ることについて、古い方式のように取り上げられているのですけど、そのように見えているにしても、オンラインでコミュニケーションしているわけです。このような報道を見て、中小企業の方々が「何も変える必要はない」と感じてしまうことに危機感があります。
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