在宅勤務の流れの中で、自宅でトレーニングできるオンラインフィットネスの注目度が高まっている。なかでも大きな動きが見え始めているのがスマートミラーの分野だ。米国では先駆者の1社であるスマートミラーメーカーがトレーニングウェアブランドに5億ドルで買収されるというニュースが6月に報じられ、日本国内でも同種のスマートミラーがすでに誕生している。
そのいずれにも共通しているのが、大きな姿見のようなデバイスにモニターを埋め込み、そこで再生されるビデオコンテンツを通じてレッスンを受けられるということ。コンテンツはサブスクリプションサービスとして定額で提供され、ユーザーはさまざまなタイプのフィットネスプログラムを自由に体験できるようになっている。
そして、日本でもう1つ、新たなスマートミラーが生まれようとしている。黄皓氏が経営する企業ミラーフィットが開発する「MIRROR FIT.(ミラーフィット)」だ。会社は7月に設立されたばかりだが、その経営者の名前で気付く人もいるかもしれない。そう、10月に配信されたAmazon Prime Videoの恋愛リアリティー番組「バチェロレッテ・ジャパン」に出演し、ファイナリストまで勝ち進んだ黄皓氏その人なのだ。
今回は恋愛番組の出演者としてではなく、実業家としての黄氏にロングインタビューを実施。フィットネス事業に注力する狙いや、デバイスとしてミラーを選んだ理由、国内外の競合各社への勝算などを聞いた。また、黄氏の自宅でいち早く製品化前のMIRROR FIT.のデモ機を体験できる機会を得た。写真や動画を通じて製品の特徴などもお伝えしたい。
——黄さんは現在、複数の企業を経営されているそうですが、それぞれどのような事業を展開されているのか教えてください。
私が代表を務めている会社は3社あります。上海にある貿易・物流の会社、いわゆる乙仲、フォワーダーと呼ばれる業種で、貨物の輸出入に関わる通関業務、輸送用の飛行機・船のブッキング業務、配送業務を手がけています。
日本では2016年に、パーソナルジム・エステ事業の会社を興し、「BESTA」のブランド名で国内に10店舗を展開しています。「BESTAヒューマンプロデュースサロン」というオーダーメイドのプログラムと、月額2万9800円でパーソナルトレーニングとセルフエステを受け放題のサブスクリプションプラン「KARADA BESTA」の2つがあります。
後者はおそらく同業の中では最安値かと思います。ジムのパーソナルトレーニングはだいたい1時間1万円が相場と言われていますが、当社の場合は30日間、毎日通っていただいても2万9800円です。お客様の平均的な利用回数が11〜12回ですので、1回あたり2500円前後という破格値ですね。
そして2020年7月に創業した会社がミラーフィットです。スマートミラーを使ったオンラインのフィットネス事業、オンラインのコンテンツ配信事業を中心に展開していく予定です。
——そもそも、パーソナルジムやエステの事業を始めるきっかけは何だったのでしょうか。
もともと僕は三菱商事に8年ほど勤めていたのですが、当時は忙しくて、自分の体をあまりケアできていませんでした。そんなある日、父が体を壊して倒れてしまいました。そのときに「健康はお金では買えないものだ、身体には気を使って大切にしなければいけない」と思ったのが1つです。
もう1つが、当時駐在していたメキシコから帰任して日本に戻ってきたときに、自分自身が太ってたんですよね。ボディメイクで自分を変えたくてRIZAP(ライザップ)に行ったのですが、そのときに「これは素晴らしいな」と思いました。RIZAPは人のワクワク、人生に対する明るい希望みたいなものを取り戻せる事業ではないかと。
僕自身、子どもの頃に日本に来たとき、外見のせいでいじめにあったのですが、髪型を変えたことでいじめられなくなった経験があったことを思い出しました。あれがきっかけで自信を取り戻せた。それで、人のコンプレックスを解消して、自分を大切にできる“健康”にアプローチするようなサービスを作りたいと思い、(三菱商事を退職して)始めたのがパーソナルジムだったわけです。
——とはいえ、未経験のフィットネス領域に新規参入し、事業をここまで広げていくまでにはご苦労もあったのではないでしょうか。
フィットネス事業は、参入障壁がそれほど高くはないのですが、差別化を図りづらい事業ではあります。RIZAPや24/7ワークアウトなどの大手もすでにいますし。そんな中で、我々としての売りを見せていくために、最初は「ヒューマンプロデュースサロン」と銘打つことにしました。単純に身体のトレーニングをするだけじゃなく、ヘアメイクなどをしてくれるスタイリストさんもいて、身体をトータルプロデュースしていこうというコンセプトですね。
創業から3年で会員数は増加しました。しかし、なかなか「ヒューマンプロデュース」というコンセプト自体が世間に広まっていきませんでした。時間をかけて事業を展開していますから、大きな変革を迎えられないのであればイグジットすべきかな、とも思っていたのですが、では一体何がネックなのだろうと改めて考えてみたんです。
月に10人が新たに体験に来たとして、半分の5人は入会してくださる。その5人からは「本当に良かった、人生が変わった」と言っていただけるので、サービス内容には自信がありました。でも、入会しない残り5人がいる。5人に入会してもらえない理由は何かと考えると、「お金」「時間」「習慣化」の3つがキーワードとして挙がりました。
その中でも、自分が最も大きなポイントだと思っていたのが「お金」で、金銭の課題を解決してあげなければこの事業はこれ以上伸びないだろうと考えました。ただし、広告をたくさん打って来店者数を10人から100人に増やし、50人に入会してもらうということではなく、10人が来たら9人に入ってもらえるようにしたいと思いました。
であれば、料金はニーキュッパ、2万9800円がいいと。僕の個人的な感覚で、2万円台は毎月支払い続けるには軽すぎないし、かといって重すぎもしない。フィットネスサービスに最も手を出しやすいと思える感覚値が2万9800円の、しかもサブスクリプションプランだなと考えたんです。
——業界的には安価とのことですが、利益は出るのでしょうか。
パーソナルトレーニング・エステが受け放題ですから、当然たくさんのお客様に来ていただいて、回転率は下がります。でも、2万9800円って業界ではとんでもない破格値で、日本でもっとコスパがいいと言えるジムはおそらく存在しないと思っています。それもあって、UGC(User Generated Contents)の効果がすごく出たんです。
「私が通ってるジムがとんでもないよ。今月25回通ったけどマジで2万9800円、1回1200円だよ」みたいな。そういう口コミで会員数が伸びたので、実は宣伝広告費は一切使っていません。全体的な売上は限定的ではあるのですが、宣伝コストがかかっていないため利益としては悪くありません。このサブスクリプションを真似している事業者が他にもありますが、広告費を使ったら負けです。広告費を使わないでやっていける仕組みに持っていけたのが、いま会社が伸びている1つの要因かもしれないですね。
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