——最近は不動産、それも「トータルビューティーマンション」を手がけられたそうですが、その意図を教えてください。
パーソナルトレーニング・エステの事業を始めたとき、僕は「このサービスは必ず人にとって必要なものであり、受け入れられるものだ」と確信していました。でも、そこには「お金」というハードルがあって、それもある程度解決して10人中8人に入会してもらえるようになりました。でも、まだあと2人が入会してくれないんですよ。これはなんやと(笑)。
そこには、家から遠い、通う自信がない、忙しいといった、「時間」と「習慣化」の課題がまだ残されていたんですね。よしわかったと、だったら家の中に作ってやろうと。お金の問題を解決し、移動の手間も省いて、家にジムを用意して、パーソナルトレーニングも、エステも、ホワイトニングのサービスもつけたら、もう言い訳できないよねと。それでジムがあるマンションを作ったんです。
——家自体をジムにしてしまうことで、言い訳をできなくしてしまったわけですね(笑)。実際に、そのマンションの入居状況はいかがですか。
マンションの企画自体は2年前から動いていて、2020年10月1日に竣工して、それと同時にほぼ満室になりました。賃貸で竣工前から部屋が埋まり始めるって、通常はありえないんですよ。まだ完成していない物件を押さえるなんて普通は分譲マンションだけなんです。だから相当話題は取れたのかなと思います。
——それはバチェロレッテ・ジャパンの放送の影響でしょうか。
バチェロレッテ開始前です。だから皆さんによく、バチェロレッテに出演したのはマンションを売るための宣伝なのではと邪推されるんですけど、放送前に部屋が全部埋まっているんですよ。だから宣伝する必要は全くありませんでした。
——このマンション自体の魅力で満室になったということですね。ちなみに、どういった方をターゲットにしていたのでしょうか。
僕の当初のイメージでは、婚活をしたい20~30代の渋谷などで働く女性。美容や見た目に気を使っていて、それこそ恋愛を楽しみながら結婚に向かっているような人でした。ところが、実際にはカップルとご夫婦が多かったですね。僕の分析では、1人で一部屋に住むより2人で一部屋に住んで、2人ともサービスを受けられるのが割安に感じられたからだろうなと。部屋も少し広めですので。
——一番最初に手がけた不動産事業としては、かなりの成功ですよね。
不動産という業界では最近行き詰まり感があったんです。これまでは床を大理石にしたり、無垢の木材を使ったりして、ハードウェアの豊かさを追求していたのですが、そういうハードウェアで賃料を上げるのが難しくなっていました。
それに対して今回のマンションは、パーソナルトレーニング・エステというソフトウェア・サービスで周辺の賃料相場より20~25%ほど上げているんです。それでもすぐにほぼ満室になりました。サービスを利用しない人にとっては割高です。でも、普段からパーソナルジムやエステなどを利用している方からすると、すべてのものが1カ所にあったほうが効率がいいですよね。家賃込みの料金になっていて、総合的には6割ほどコストカットできているだろうと思います。
提携した不動産のデベロッパーさんにとっても、今回のプロジェクトはかなり大きな成功体験になったと思います。もちろん第2弾、第3弾も仕込んでいますよ。
——それでは本題に入りますが、なぜジムやマンションに続きスマートミラー「MIRROR FIT.」を作ろうと考えたのでしょうか。
これまでお話ししてきたように、ジムに通えないという人の3つの課題を解決してきました。しかしながら、たとえばそのためにマンションを日本中に作るには相当な時間とコストがかかってしまうので、現実的ではありません。でも時間がないこと、習慣化できないことを言い訳にしている人はまだ全国にいる。だったら家に本格的なトレーニング体験ができるデバイスがあれば、いよいよ言い訳ができないだろうと(笑)。
でも最初は、その具体的な方法がわからなかったんです。どうすれば自宅で最高のトレーニング環境を作り、トレーニング体験をさせられるのか。そんなときに起きたのが新型コロナウイルスの蔓延です。パーソナルトレーニング・エステのお店は2カ月間臨時休業することになりましたが、人間は外に出ることを絶対にやめないので、混乱が落ち着いたら戻ってくるだろうとも思っていました。
しかし、それだと外部要因に自分の事業を左右されてしまう。いつまでもこの状況が続いたときに会社を畳めばいいのかっていうと、そういうわけにはいきません。だから、コロナがあってもなくても、人が本当に求めている体験価値の高い自宅トレーニングをどうやったら実現できるだろうと考えたんですね。
そのときにふと思い出したのが、米国の大手トレーニング機器(エアロバイク)のPelotonと、スマートミラーのMIRRORでした。でも、Pelotonのマシンは大きくて、米国の広い家で使うのが前提です。それに飽きられたときには邪魔になってしまいます。じゃあ鏡はどうかなと考えると、日本のどの家庭にも存在していておかしくない。大小あれど、自宅には必ず置いておきたいものの1つなんですよね。日本の生活習慣や住宅環境に適していると思って、鏡に目をつけました。
それに、日本の医療費はいずれ足りなくなってくる。そうなったときに、今までみたいに国が医療費を肩代わりするのではなく、予防医学的に病気になる人を減らす方法しかなくなります。スマートミラーというデバイスは、習慣化の中で自分を健康にしていけるので、日本を待ち受ける高齢化社会にもマッチしているだろうとも考えました。
——会社設立は2020年7月とかなり最近なのですね。
他の事業が忙しくて、製造メーカーを探し出すような余裕もなかったので自分の中では頓挫していました。しかし、僕と同じ早稲田大学ビジネススクールでMBAを学んでいた3人から、サロン向けのスマートミラーの事業をしていてフィットネスにも展開したいのでアイデアがほしいと相談があって、なるほど、それだと。
僕は鏡以外のすべてを持っているから一緒にやろうと。それで新たに法人を作りました。ただ、サロン向けに作っていたスマートミラーの製造コストがかなり高かったので、中国の製造メーカーに片っ端からコンタクトをとって、作れるところを見つけて、MIRROR FIT.を3カ月かけて作り上げました。
——3カ月はかなりの短期間ですね。ちなみに海外のスマートミラーとの差別化という点ではいかがでしょうか。
先行者利益というものがどの分野にも存在します。少なくとも米国のMIRRORが、いま日本に目を向けていないことはいろいろな調査からわかっています。もしMIRRORが日本に上陸したとしても、最大の弱みは、中に映っているトレーナーが全員外国人であることです。筋肉の作りや身体の構造、手足の長さからして違うので、同じことをやるのは日本人には無理なんですよ。
だから僕らは日本人に適した、日本人の体型で再現できるトレーニングコンテンツを入れていきます。サービス内容で言うと、動画コンテンツによるレッスンプログラムは他社製品にもありますが、それに加えてトレーナーのマッチング機能を搭載する予定です。
日本ではパーソナルトレーナーが毎年5000人から1万人誕生していると言われています。彼らはジムで働いていたりするのですが、教えていない時間も長く、それによって給料が低い人も少なくありません。被雇用者としての立場が非常に弱いんです。
でも、彼らが自分の知識や時間をフル活用できるプラットフォームがあれば、それを試したいと考える人は必ずいるはずです。自宅にいる主婦も、パーソナルトレーニングを受けたくないのではなくて、行く時間がないだけなんですよね。そういうトレーナーとユーザーがマッチングするようになったら、大きな市場を作りだせるんじゃないかと思います。さらにマンツーマンレッスンも可能にするつもりなので、そこも他社との違いになりますね。
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