「サバ一筋」の鯖やから見る、養殖漁業におけるテクノロジー活用の現状と未来 - (page 2)

「カッコいい養殖」の実現に向けたICT活用

 餌の元となる飼料については、従来は流通コストなどの問題から水揚げ後に廃棄されていた「未利用魚」に加えて、飲食店や工場などで発生する廃棄食材も活用する、サステナブルな取り組みも積極的に行っている。これは、近年高騰している飼料の代替とすることで、養殖漁業において生産コストの7割以上を占める餌のコスト削減につなげるという意味合いもある。

離島で水揚げされた青魚などは大部分が「未利用魚」として廃棄されているという
離島で水揚げされた青魚などは大部分が「未利用魚」として廃棄されているという

 また、養殖の現場となる生け簀では、水質センサーや水中カメラを導入し、NTTドコモのクラウド技術を組み合わせることで、遠隔からでも生け簀の詳細な状況をリアルタイムに把握できるようにする仕組みの導入を進めている。

 これにより病気発生の予兆を検知し、生け簀ごとの最適な養殖手法を検討することも可能になる。生け簀にいるサバ全体に適切に餌がいきわたっているかどうかも確認でき、海の汚染を最小限に抑えつつ、先述のコスト削減にも貢献する最適な給餌手法を選択できるようになるとも語る。

NTTドコモとのICT活用の取り組み
NTTドコモとのICT活用の取り組み

 こうしたICTの活用を進めていくことで、右田氏が目指しているのはサバの養殖の「フルオートマチック」化だ。「餌代が高く、生産効率が良くないので養殖が儲かっていない」ことから、効率化を進めて収益を改善できるようにする、というのも目的の1つ。だが、一番には「跡継ぎがいない」という課題の解決につなげたいという思いがあるのだという。

 跡継ぎの問題は、儲かるかどうかというよりも、養殖漁業のネガティブイメージが大きいと見ている。右田氏は「カッコよくて儲かればみんなやるはず」と考え、ICTやAIなども駆使して「手間をかけなくても生産できる養殖スタイル」を確立することで「カッコいい養殖」が実現できると期待している。

 現在はその知見を積み上げているところで、概ね3年以内には「フルオートマチック」化を実現したいと意気込む。鯖に限らず、他の魚のあらゆる海面養殖にも、このフルオートマチック化の過程で得られた技術やノウハウを適用できるだろうとも語った。

生産しやすい環境を支える“出口”も用意する

 ただ、養殖漁業にはまだ解決すべき課題も少なくない。農業のようにビニールハウスで覆ったりすることができないため天候の影響を避けにくいことが1つ。アナログな部分がまだ多く残っており、デジタル化、DXを進めることでそれらの影響を最小限に抑えられるようになる可能性もあるが、伝統的な産業なだけに、そうした新しい取り組みを懐疑的に見る同業者も少なくないようだ。

 「儲かる漁業、儲かる養殖を我々が体現して、その成功事例をオープンにすることで、(同業者が)僕らもやってみようかな、と思われるようにする」ことが打開策になると踏んでいる右田氏。そのためにも最初の生産から“出口”となる販売まで一気通貫でやり抜き、成功のモデルケースを作ることが重要だと考えている。

 そんな“出口”の1つとして、現在、生け簀にいる養殖魚を消費者がスマートフォンを使って購入できるようにするシステムをドコモと共同で開発しているところ。出口以外のところでも、ポイントサービスで社会貢献できるプラットフォームの開発を行い、さらに「移動しながら飼料となる魚粉を作るなど、移動時間(というマイナス)をプラスに変えていく物流会社」や、「養殖魚の価値を高めていけるブランディングが上手な企業」とのコラボレーションも進めていきたいと話す。

 鯖の流通を支え、売れる仕組みが整えば、自然と養殖漁業を営む人たちの意識も変わってくるはず。「生産者が生産しやすい環境を整えることで、養殖漁業はカッコよくて明るい未来になる」と語る右田氏のなかでは、確かな青写真がすでにできあがっているようだ。

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