台湾デジタル担当大臣オードリー・タン氏が語る--市民と創るポストコロナ時代のスマートシティとは

 千葉県柏市を舞台に公民学連携による未来の課題解決型まちづくりを推進している柏の葉スマートシティは、ポストコロナ時代の未来と都市を語り合うオープンイノベーションフォーラム「柏の葉イノベーションフェス 2020」を10月24日から11月3日かけてオンラインで開催した。ここではコロナ禍でいち早くデジタルを活用した感染対策への取り組みで注目を集めた、台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏を迎えた初日のOPENING TALKの内容を紹介する。

 柏の葉スマートシティでは、4つあるまちづくりのテーマの1つに「データ利活用」を掲げ、街の担い手となる市民を巻き込んでエンパワーすることが重要だとしている。そうした活動をすでに実現しているのが台湾だ。コロナ感染拡大前にマスクの在庫を見える化するシステムは、オープンデータを活用した市民の力によって短時間で構築された。

 こうした市民の活動をエンパワーメントできたのは、35歳でデジタル担当大臣に就任した若き天才、オードリー・タン氏の存在が大きいとされている。中卒でインターネットの世界に飛び込み、シリコンバレーで働き、AppleのSiriの開発にも関わったという経歴を持つ人物は、2016年に台湾でのデジタル担当政務委員として史上最年少の閣僚となる以前から台湾のシビックテックに貢献し、コミュニティの中でもよく知られる存在だった。

台湾デジタル担当大臣オードリー・タン氏
台湾デジタル担当大臣オードリー・タン氏

――最初にこれまでのプロフィールを教えてください。

タン:私の活動はすべて公開していて、透明性のあることがバックグラウンドでもあります。簡単にプロフィールを紹介すると、14歳で中学校を辞めて、オンラインでコーネル大学の授業に参加していました。その頃にはインターネットの社会ではなぜお互いがすぐ信頼しあえるのかというところに興味があり、透明性を担保することが重要だと考えるようになりました。オンラインを通じたいろいろな学びの中からたどり着いたのが、Fast、Fair、Fanの3つでした。台湾でブロードバンドにアクセスできるのは重要な権利であり、できなかったら私の失策だと考えています。

――台湾ではマスクアプリがいち早く開発されるなどオープンイノベーションのスピードに驚かされました。

タン:台湾では1月にコロナの感染が問題になり始めた頃は、マスクが平等に配布されないのではないかという不信感からパニックになりかけました。数値モデルで市民の3分の1がマスクと手洗いをすればパンデミックは防げるというのがわかり、そうした科学的な知識も販売とあわせて提供することで、信頼感を高めようとました。その時にオープンデータで30秒毎にマスクの在庫がほぼリアルタイムでわかるマップアプリを市民とg0V(ガブゼロ:台湾のシビックテック活動組織)を中心に公開し、透明性を高めたのです。3月には市民の4分の3がマスクを着けられるようになり、感染が拡大する恐れはなくなったのです。

――システムは誰に声をかけて作ったのでしょうか。

タン:2400万人、つまりコロナと闘った台湾人全員と答えています。最初から完璧なシステムではなく、市民の声を取り入れてブラッシュアップできたからです。オンラインだけでなく、防疫緊急電話「1922番」(政府が設置したコロナに関連するあらゆる質問に対応する電話窓口)からの意見も反映するなど、幅広い声を取り入れることで上手くいきました。

――ほかにもITを使って感染を防ぐシステムを活用していますが、プライバシーを提供することへの抵抗はなかったのでしょうか。

タン:公共衛生とプライバシーはゼロサムで対立します。ですがプライバシーに対する台湾の考え方はとてもシンプルです。データは収集するけれど必要のない情報は集めないし、GPS情報も使いません。台湾国民は全民健康保険制度のもと健康保険カードを所有していて、マスクを購入する時も使いました(注:健康保険カードにICチップが搭載されてマスクの購入履歴が管理できる)が、パンデミックは非常事態だから個人データを吸い上げてもよいという判断は絶対にしません。

 いわゆるデジタル検疫についても、罰則を設けると感染経路が水面下に隠れてしまい、統制が取れなくなるのは以前にHIVの対策で経験していたので、それもしていません。代わりにソーシャルディスタンスを取る方法を提案することで利用に協力してくれるようになりました。システムを運用するには利用者である市民を信頼することも大事なのです。

――ソーシャルイノベーションは市民を巻き込む活動にしていくのが大事ということですね。

タン:中央政府が問題を解決するのに私たちのやり方に従えと言うのではなく、その逆にいろんな違った見方から意見を話し合い、技術を使って対応するという流れが重要です。台湾では11の省庁がソーシャルイノベーションに関わり、5つの市町村の地域イノベーターとオンラインを通じて話をしています。物理的に集まって会議もしていて、そこで議論されたことを大きくしていくのが大事だと考えています。ばかげたような意見でもその人の立場で考えると実は正しい見方をしていることもあります。つまり、どんな声にも目を背けず新しい考えを教えてくれる人たちであると考えると社会は進んでいく。それは教育の場も同じです。

――大勢の人が関わることによる弊害はないのでしょうか?

タン:いろんな意見がたくさんあるというのはシグナルであってノイズではありません。それらをスコアリングして共通の価値を見出すコレクティブ・インテリジェンス(集団的知性)が重要で、それこそがシビックテックなのです。どのような方法で行うのかについては詳しくは私のTwitterに掲載してますので、ぜひ読んでみてください。

――もしタンさんが日本のデジタル大臣に就任したら何をしますか?

タン:台湾と同じことをします。ITでもデジタルでも人が重要だと定義します。また、IoTはインターネットと生き物、VRはバーチャルリアリティではなくシェアリアリティというように、人を中心にした言い方に置き換えてみたりします。

 またこういう考え方もします。デジタル技術を使うのが難しいと言われたらやり方を教えればいいけれど、本当の問題は使えないのではなく、便利でも使いたくないからかもしれないと。例えば私はメディアリテラシーという言葉をメディアコンピタンスと言いますが、それはインターネットの一方的に利用するのではなく、作り手として貢献者でもあるべきだと考えているからです。

――日本をたびたび訪れているそうですが、何か印象的な体験はありますか?

タン:私はコンピュータ使う時はできるだけディスプレイに触りたくないと思っていたので、シャープがスタイラスを使うザウルスを作った時は素晴らしいと思いました。(笑)

――最後に講演のテーマであるエンパワーピープルについてメッセージをお願いします。

タン:みなさんに私の大好きなレナード・コーエンさんの詩を贈ります。「すべてのものには割れ目がある

 そこから光がさす」(講演での通訳)、「ものにはすべて 裂け目がある そうして 光が差し込むのだ」(文芸春秋著作での翻訳)

 つまり、スマートシティが完璧であれば市民は参加する余地がありませんが、割れ目があれば何とかしようと市民が参加してよりスマートになると思います。そして、何よりも楽しんで参加しないとだめですよ。

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