2月に「ビジョナル(Visional)」をホールディングカンパニーとした、グループ経営体制へと移行したビズリーチ。同社はその3カ月前の2019年11月に、ヤフーを傘下に持つZホールディングスと合併事業会社「スタンバイ」を設立した。それから1年が経ち、新生スタンバイが本格始動する。
スタンバイは11月9日、求人検索エンジン「スタンバイ」とヤフーが運営する「Yahoo!しごと検索」を12月1日にサービス統合することを発表した。これにともない、Yahoo!しごと検索はサービスを終了し、求人検索機能はスタンバイに移管される。ただし、スタンバイに掲載される求人情報は、これまでYahoo!しごと検索でも掲載されていたため、求人掲載面での変化はないという。
合弁会社のスタンバイが生まれてから1年、どのような準備をしてきたのか。また、ビズリーチの代表を退いた南壮一郎氏が、スタンバイの代表取締役として、求人検索に注力するのはなぜか。ビジョナルの今後の展望もあわせて同氏に話を聞いた。
——2019年秋にZホールディングスとスタンバイを設立しました。改めてその経緯や、この1年間はどのような準備を進めてきたのか教えてください。
私は2009年にプロフェッショナル領域の働き方に合わせた、新しい転職プラットフォームを目指してビズリーチを起業しました。企業が直接求職者のデータベースにアクセスし、主体的に求職者にリーチできる概念をもたらしたのはビズリーチの技術革新です。その想いが、「ダイレクトリクルーティング」という単語に現れています。
ただ、「プロフェッショナル=マス向け」ではなく、ビズリーチは非正規社員を網羅していません。言い方を変えれば、ビズリーチは人材紹介の領域をデジタル上で実現したチャネルですが、スタンバイは求人広告の領域で特化型検索エンジンを実現するビジネス形態。バックエンドはクリック広告なんです。
インターネット広告の歴史をたどると、枠掲載型の純広告からパフォーマンス型といわれる成果報酬型、次のデータを活用したカスタマイズに移っていきました。スタンバイが歩んでいる道のりも同じです。
5年前の2015年に求人領域に特化した検索エンジンであるスタンバイを作りました。次のステージに進むためにはビズリーチの一事業部ではなく、分社化し、Zホールディングスと合弁した方が事業として有益ではないかとの結論に達し、先方との話し合いの末に合弁化に至りました。
スタンバイはプロダクトドリブンな事業なだけに時間がかかります。プロダクト的にも技術的にも積み重ねを続けた結果、次の成長ステージに進むため、資本構成を変えたのが2019年末の出来事でした。
当然ながら(発表直後から)急にスタートはできません。PMI(経営統合、業務統合、意識統合の3段階からなる合併後の統合プロセス)に務めながらA/Bテストを実施し、何が有益なのか仮説を立てて検証を重ねてきたのが、この1年間ですね。
創業から5年間で「ようやくスタートラインに立てた」というのが正直な感想です。我々がやってきた、そしてやるべきことは「土台を作る」こと。ビズリーチでもやってきましたが、オンラインマーケティングやPR、本質的なユーザー体験、採用の成果にコミットし、勝負のタイミングを迎えたら適切に挑戦します。その意味では、いまはスタートラインに立つ前ともいえますね。
今回、Yahoo!しごと検索をスタンバイにブランド統一しますが、1つずつなすべきことを実現し、大きく投資するタイミングを迎えるまで足元を固めている状態です。大規模なトラフィックに耐えるために、バックエンドのインフラストラクチャーやシステム構成なども準備しているところです。
——Yahoo!しごと検索と統合する、スタンバイならではの強みは何でしょうか。
スタンバイが、日本語に特化した求人検索エンジンであることです。(競合となる)グローバルの検索エンジンはいくつもの言語に対応しなければなりませんし、ローカライズの負担も小さくありません。
我々としては、検索エンジン自体に各社で大きな差はなく、ポリシーが異なる程度と捉えています。UI/UXや日本人の働き方、仕事の探し方などは網羅していきますが、本質は検索ポリシー。検索効率に尽きるでしょう。現状の善しあしではなく、日本初や日本語にコミットした求人検索エンジンに注力するのがフェーズ1です。
この求人検索エンジンの品質を担保したら、前述したインターネット広告のビジネスモデル変移を踏まえ、ユーザーごとに表示される広告が異なるようにパーソナライズ化を目指すのがフェーズ2です。ここでZホールディングスの資産を活用して、ユーザーに最適な求人情報を推奨します。それが「なりたい姿」ですね。
——大きく成長させたビズリーチの代表を退任し、ビジョナルの代表となった南さんが、スタンバイへ注力する理由を聞かせてください。
おっしゃるようにグループ経営体制の目玉となる、ビズリーチとHRMOS(ハーモス)事業を中心としたHRTech領域は多田さん(ビズリーチ 代表取締役社長の多田洋祐氏)にすべてお任せしましたが、スタンバイは私がやりたいことの1つです。おそらく、HR Techに関する最後のお仕事だと思っています。今の時代に残していける最後のお土産ですね。
求人検索エンジンは「Indeed(インディード)」さんが新しい時代を切り開いてくれましたが、まだ二番手がおりません。僕は各業界が盛り上がり、変革するには素晴らしい二番手が欠かせないと考えてきました。我々としては彼らに感謝しつつ、後ろについていきながら、フェーズ1の実現を目指します。これは人材業界で育ててもらった自分ができる最大の恩返しだと思っています。
2019年のインタビューでもお話したように、HR Techからさらに領域を広げていくためにグループ経営体制に移行させました。あの後に発表した(M&Aした物流企業の)「トラボックス」も周りから、「まさかトラックか」といわれましたが、僕からするとマーケットプレイスとクラウドをつなげるHR Tech領域で実行してきたエコシステムの構築と変わりません。
マーケットプレイス型の企業がクラウドの業務管理とつなげていく手法はあまり見かけませんでしたので、このエコシステムをどの領域で実現しようか、この数年間考えていました。
この着想をM&A領域で実現するのが、(事業承継 M&Aプラットフォーム)の「ビズリーチ・サクシード」です。M&Aをいかにデジタルなエコシステムに変えていくか取り組んでいる最中ですが、もう1つが物流領域のDXでした。DXという言葉が一人歩きしていますが、業界のプレーヤーがコミットして自ら新しい仕組みを作っていくのが本当のDXだと考えています。(HR Tech以外の領域で)エコシステムを構築していくことを、「次の10年の宿題」にしようと決めました。
——M&A、物流に続き、南さんが「次にやりたいこと」はもう決まっているのでしょうか。
「次々と」がキーワードですね。我々は新規事業を開発する際には、国や社会の課題を注視してから始めています。たとえば、(ビズリーチを創業した)11年前は労働生産性が国の大きな課題でした。M&Aも後継者不足問題や事業承継問題があります。物流業界を選択したのも、業界の生産性を向上させないと日本自身が生き残っていけないからです。
我々が取り組む課題というのは、国のレポートに出ています。官僚の皆さんが時間と労力をかけて作っているレポートを読めば、ビジョナルが取り組む次の領域が見えてきますよ。
2019年に提供を始めたオープンソース脆弱性管理ツール「yamory(ヤモリー)」のサイバーセキュリティ領域も面白いですね。これだけモバイル化が進み、リモートワークが当然となり、クラウドベースのサービスが増えていくと、セキュリティの問題は避けて通れません。世界でもホットな分野ですし、日本でも2014年にサイバーセキュリティ基本法が成立しました。我々としては注力分野の1つですね。
このほか、コロナ禍によって変わらざるを得なくなった非デジタル領域として、建設や不動産にも大きな可能性を感じています。教育分野では大学も面白いですね。これまで対面授業が当然でしたが、オンライン授業で何のための学費なのか、何のための大学なのか存在意義を問われています。
ある意味でコロナ禍は日本全体の生産性を高めるチャンスだと思っています。スタンバイに関しては、ぜひこの1年間の動向に注目してください。
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