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フードテックで「地球の持続可能性」をどう守るか--ニチレイや不二製油が語る - (page 2)

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外村氏:そうですね。私の肌感覚ですが、栄養とカロリーがあればよいと考える人が多かったアメリカにおいても、その食品の由来や素性、質の良さを気にかける人が、コロナの影響もあって最近特に増えた気がしています。

——コロナ禍は、食を考える非常に大きな転換点になっていると感じますが、フードテックの歴史を振り返ると、食品の安全性というより産業における効率性が重視された時代もあったように思います。いまのフードテックは、そうした潮流からは変化してきたと考えてよろしいのでしょうか?(高橋氏)

外村氏:20世紀までは、フードテックというより食品製造・加工テックだったといえます。ある会社はより安全なものを目指し、ある会社は長持ちや安さを重視していて、その結果『メーカーにとっては有利だけど、消費者にとっては危ないのでは』と、テックに対するマイナスイメージが強くなってしまったのは事実です。

 しかし、いまのフードテックの主要な分野は、フードロスをなくす、食品の素性を明らかにして安全なものを使う、美味しいだけでなく身体によいか、製造から加工や売った後まで含め『どれだけ地球に優しいか』という、サステナビリティの観点が非常に重視されてきています。また、そのためにテクノロジーを活用するという比重も、上がっていると思います。

——食品産業の目的の1つに、地球の持続可能性を守るということが、非常に大きな要素として入ってきているといえますね。(高橋氏)


——山田さん、食品の製造過程にまで消費者が目を光らせるいまの時代において、不二製油さんでのSDGsを意識した取り組みについて教えてください。

山田氏:ESG経営を実現する上での当社の重要テーマの1つは、サステナブル調達です。たとえば、スーパーマケットで売られている商品の約半分に使われているとも言われるパーム油は、マレーシアやインドネシアで世界の85%が作られています。現地の農家さんにとって重要な収入源である一方、農地開拓のための森林破壊や、弱い立場の労働者の方が人権侵害を受けるといった懸念があります。パーム油のサプライチェーンにおいて不二製油は、農園との直接取引はありませんが、2016年3月に『責任あるパーム油調達方針』を発表して、サステナブル調達に取り組んでいます。



山田氏:具体的には、森林破壊ゼロ、掘り返すと炭素が発生する泥炭地の開発ゼロ、搾取ゼロを約束して、小規模農家支援にこれまで4年間取り組んできましたが、インドネシアの小規模農家さんが約170万軒あるうち、支援できた農家さんは191軒。1社での取り組みでは限界があるので、政府や他の企業さんとの連携が必要だと感じています。

——ありがとうございます。そしてもう1つ、フードテックの流れとしては、パーソナライゼーションという別の方向軸もあります。(高橋氏)

 高橋氏は、「好き嫌いや健康状態、美味しさの嗜好は、人によってかなり違う。そもそも食べ物は、美味しいとか食べて幸せだというポジティブな感情と一緒になって初めて価値を持つ。よりみんなが幸せになれるような食生活を実現するために、技術を活用していくという領域も、フードテックに含まれている」と言及して、関谷氏が手がけた「conomeal(このみる)」について掘り下げた。

——関谷さん、conomealについて説明していただけますか。(高橋氏)

関谷氏:conomealとは、その人にあった食の情報を届けるために、食の嗜好性を分析するシステムです。これまで私たちが開発してきた、美味しさとは何かを定量化する技術と、新たな技術であるAIが結びついて生まれました。conomealによって、ひとりひとりの食の幸せを実現したいと考えています。


関谷氏:75年前、戦後の食糧難の時代に設立したニチレイでは、当初は日本全国に食糧を届けるために、長期保存するための冷凍技術を培ってきました。食の多様化など時代の変遷とともに、次に考えたことは『自社の技術を使って、どのような新しい食品の価値を提供できるのか』ということです。


関谷氏:そこで分かったことは、4つのことが満たされれば食を通じた幸せを感じられるという、食と幸福の関係です。ご馳走じゃなくても、わいわい楽しく食卓を囲むこと。食事のために必要な情報を、必要な時に得られること。食事にために必要なものを、必要なだけ買うこと。そして、情報を得るために、周りとのコミュニケーションを持つことです。これらを総合して、見えてきたコンセプトは2つ。探さなくても自分にマッチした情報が適切に届けられるという『自動マッチング』と、食べることを『楽しめる環境』です。


関谷氏:過去の行動履歴によるレコメンデーションは、食においてはマッチしません。たとえば、疲れている時と元気な時とでは食べたいものが異なる、という経験はありませんか?conomealのシステム開発は、『気持ちに寄り添うことが食には重要』という前提で進めました。このシステムを導入したのが、献立の悩みを解決するためのアプリ『conomeal kitchen』です。素材を大切にしたいとか、便利なものを上手に使って食事をしたいなどの、食に対する価値観を分析して食タイプを判定し、献立情報を提供していきます。


「食べる」がつなぐもの

 conomealの説明を受けて高橋氏は、食べることを中心にさまざまなテックがつながっていく未来について、議論を深めていった。

——山田さん、conomealの説明を聞いて、いかが思われましたか?(高橋氏)

山田氏:これは新しい体験ですよね。何か食べたいけど何を食べたいのかよく分からないときに提案してもらえると、ありがたいなと思います。今後の展開としても、ウェアラブルデバイスなどヘルス系のものとのコラボなど、可能性が大きいと感じました。

関谷氏:はい、まさに。ほかにも、たとえば冷蔵庫とコラボすれば、食材の在庫も配慮した提案もできるなど、いろいろと新しいテクノロジーの活用ができると考えています。

——いろいろな技術をつなげていくと、「無駄にしない食生活」が実現できるということですよね。外村さん、パーソナライゼーションは、すごく重要なキーワードですね。(高橋氏)

外村氏:そうでうすね。いままでは、食品だけではなく洋服や靴などあらゆる商品で、製造側の都合で最大公約数的に売りやすい製品を作り、消費者がそれに合わせるというやり方でした。しかしこれからは、個人データの活用や需要に合わせたオンデマンド製造が可能になり、嗜好や持病など個別の事情に合わせてスーパーパーソナライズされた食品が、もっと出てくるのではないでしょうか。実際ここ数年で、何億通りもあるシャンプーや香水などが開発されているし、食がそうなるのも時間の問題かなと思っています。


——生産者にとっても意味があるように感じますが、その点はいかが思われますか?

外村氏:この地域にこのタイミングでこういうものが必要な人がこれだけいる、ということをあらかじめ把握した上で製造や流通できれば、生産性向上ひいてはフードロスの削減にもつながりますよね。結果として、パーソナライゼーションは、個人のためだけではなく、地球全体のためになっていくと思います。

——究極の個に近づく技術がつながることで、全体におけるウェルビーイングが促進されていくという循環が、生まれる可能性ができている。(高橋氏)

外村氏:はい、個々人の健康増進、医療費削減、カーボンフットプリントも少なくなる、そうした方向に日本の企業も含めていま世界は向かっています。たとえば、カナダでは2021年までに、使い捨てプラスチックの使用を全面禁止する方針を打ち出しました。リサイクルや分解できる素材の開発などでお茶を濁さず、若いリーダーが国家単位で使用禁止を発信し始めたというのは、2020年のトピックス。サステナブルな方向へと牽引する言動をしていくことは、企業ポリシーとしても大事かなと思いますね。


 終盤に差し掛かったところで、視聴者へのアンケートも実施された。山田氏が「環境問題や人権問題のない原料を使ったサステナブル食品は、値段がやや高くなるわけですが、実際そうしたものを買いたいと思うのかどうか」と、疑問を投げかけたのだ。

 アンケートの質問はこちら。普通のチョコレートと、1つ購入するとタンザニアの子どもたちの教育支援寄付をできる少々値がはるチョコレート。差し入れに50個購入する際、どちらを選ぶかという質問だ。


 結果は、回答者の67%が、高い方のチョコを買うと答えた。つまり、サステナブルな社会を作っていくため、支払い金額が上がっても支援につながるチョコレートを購入するという。


 山田氏は「意外だったが、勇気をいただいた」とコメント。外村氏も「びっくりしたのと同時に、非常に嬉しい」と話した。高橋氏は、「こうした小さな行動のひとつひとつが、持続可能性を担保した商品やサービスの開発をしていこうという、企業側のモチベーションにつながっていくと思うので、この結果は嬉しいし大事にしていきたい」と述べて、登壇者に本日の感想を求めた。

山田氏:今後は、子どもたちへの食育を通じて、サステナブルな原材料について訴求していきたいと改めて思いました。また個人的には、いただきますと言って食べることで、目の前にあるものの背景に興味を持って接していきたいと思いました。

関谷氏:食は、誰にとっても身近なものであるがゆえに、社会や時代背景と密接に関わっています。いま、食品産業がお届けするものの価値が変わってきていますが、これに立ち会っていることに誇りを持って、これからも取り組んでいきたいと思いました。

外村氏:長年のアメリカ生活で寄付文化を目の当たりにして、『普通の人が身の丈にあった貢献をするということが大事なのだ』ということを教えてもらったのですが、このことは、フードテックにも言えることなんじゃないかと思いました。いまのフードテックは、世の中をよくするために進んでいます。私たち消費者も、生産者のためになることをする、無駄にならないことをする、プラスチックボトルを減らすとか、少しでも自分のできる範囲で何かをしていくことが大事なのだと思います。

 高橋氏は、「明日の自分をちょっと変えるようなヒントが、このセッションの中に見出していただけたとしたら大変嬉しい」と話して、パネル討論を締めくくった。

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