食に関するテクノロジーによって、大きな変革が起きているいま、「フードテックと持続可能社会」をテーマとしたパネル討論が、10月14日に開催された朝日地球会議で行われた。
登壇したのは、スクラムベンチャーズ パートナーの外村仁氏、ニチレイ 技術戦略企画部 事業開発グループ アシスタントリーダーの関屋英理子氏、不二製油グループ ESG経営グループ CSRチーム アシスタントマネージャーの山田瑶氏の3名。
話題のバーチャルカメラアプリ「mmhmm(んーふー)」を使って、サンフランシスコから参加した外村氏は、「米国に住んで21年目。スクラムベンチャーズでは投資、スタートアップの目利きを担っている。大好きだったフードが非常に盛り上がってきており注目している」と挨拶し、当日はフードテックの概況を分かりやすく解説する役割を担った。
「ニチレイで3年前に立ち上がった新規事業創出をミッションとする部署に、初期メンバーとして参画した」と自己紹介したのは、関屋英理子氏。個人の食の好みを分析してレシピなどのおすすめ情報を提供する「conomeal(このみる)」の開発を手がけており、当日はフードテックにおけるパーソナライゼーションの重要性と可能性について話した。
不二製油グループの山田瑶氏は、「2015年に入社し一貫して、人権や環境に関する取り組みを行ってきた」と挨拶。コーディネーターの高橋氏からも「SDGsと会社を結びつけることができる第一人者のおひとり」と紹介され、フードテックによる持続可能社会の実現について、企業体としてどのように取り組んでいるかを赤裸々に語った。
コーディネーターは、ローンチしたばかりの新メディア「SDGs ACTION!」で編集長を務める、朝日新聞社総合プロデュース本部メディアディレクターの高橋万見子氏が担当した。
パネル討論は、「フードテックとは何か」「何のためのテクノロジーか」「食がつなぐものとは」という、3つのテーマで構成された。高橋氏が3者にテンポよく質問を投げかけ、「いまフードテックをどのように捉え、個人としては何をすべきなのか」を具体的に紐解いた。
——フードテックとは、何でしょうか?(高橋氏)
外村氏:この5年ほどで、食品業界にAIなどのさまざまな技術者や資金が流れ込んで、業界は大きく様変わりしたが、細かいことを話す前に、まずみなさんに試してもらうのはいかがでしょう。
外村氏の提案を受けて、運ばれてきたのは2つのハンバーグ。1つは和牛100%、もう1つはインポッシブル・フーズが開発した植物ベースの肉。関屋氏と山田氏が実際に試食して、クイズに答えた。
関屋氏:下が和牛100%のお肉かな?味は両方ともお肉だけど、上の方が少し硬い。
山田氏:上の方がお肉?下の方が香ばしい感じがする。
解答は割れたが、ふっくらしている下のハンバーグが牛肉とのことで、関屋氏が正解。外村氏は「アメリカではスーパーのお肉売り場から、牛肉や豚肉がだいぶ減ってきて、植物由来のお肉がたくさん出てきている」と説明した。
——「フードテック」とは、イコール植物性代替肉と考えてよいのでしょうか?(高橋氏)
外村氏:いえ、いま注目されている一例として植物性代替肉を挙げましたが、フードテックはもっと幅広いです。いろんな産業から技術者やテクノロジーが入り込んできて、ライフスタイル全般に広がっていると言ってよいと思います。直近の動向を把握できる情報としては、新しい食産業の創出を目指す「Food Tech Studio - Bites!」の開始、2年前から開催してきて2020年も12月に予定している「Smart Kitchen Summit Japan」、2ヶ月前に出版された書籍「フードテック革命」などがあります。
外村氏:なかでも、こちらのフードイノベーションマップが一番分かりやすいです。ご覧いただくと分かるようにフードテックとは、調理の仕方、パーソナライゼーション、いかにフードロスを減らすか、地球環境に優しくするかなど、かなり幅広いのです。
——なるほど。フードテックとは、かなり広い範囲を指すのですね。日本のフードテックの状況はどうなっているのでしょうか?(高橋氏)
外村氏:実は、50〜60年前のフードテック元祖企業は、ほとんど日本の企業でした。先ほどハンバーグと一緒に出たチーズも、実は大豆由来の微生物で発酵させた純植物性で、不二製油さんの製品です。
——山田さん、不二製油さんという会社について、教えていただけますか。(高橋氏)
山田氏:不二製油は、B2Bの植物性食品素材メーカーです。大豆のほかにも、パーム、カカオなども扱っております。本日提供させていただいたチーズは、大豆を豆乳クリームと低脂肪豆乳に分解するという技術を用いて、アミノ酸を多く含む低脂肪豆乳を発酵させて作ったものです。
山田氏:不二製油は50年以上、『人と地球の健康に貢献したい』という一心で、大豆事業を続けてきました。赤字の時代も続きましたが、将来人口が増えて食糧が不足したときに大豆はきっと役に立つ、孫の代には事業価値を証明できると信じてやってきました。
山田氏:いまの課題は、国内外への発信です。技術があっても、消費者に食べ続けていただいて、それが価値にならなければ、社会課題は解決できません。2019年にオープンした店舗『UPGRADE』には、植物性食品の美味しさのアップグレードのみならず、人や地球の健康もアップグレードしていきたいという想いを込めています。
——大豆のウニは食べてみたいですね。まさに最先端の技術という印象ですが、外村さん、日本企業の全体像についてはいかが思われますか?(高橋氏)
外村氏:この4〜5年で、アメリカ、ヨーロッパ、シンガポールなどでフードテックが急速に広がった勢いと比べると、日本はやや遅れた感もありますが、もともと底力があるので、全力で追いついて行こうという意気込みを感じています。
高橋氏は、「日本と欧米の温度差には、フードテックの背後にある社会的課題に対する認識や危機感とも関係しているのかもしれない」と述べて、2つめのテーマへと話題を転換した。
——フードテックに対して日本では、「食べ物に人工的に手を加えてしまうのは…」と、ネガティブな印象や抵抗感を抱く方が多いように思いますが、関屋さんはこの感覚についてどのように受け止めていらっしゃいますか?(高橋氏)
関屋氏:20年前にニチレイへ入社した当時は、冷凍食品を食べることに対して罪悪感を持つ方は多くいらっしゃいました。消費者の方々は食品加工への抵抗感がある、とずっと感じてきました。
——外村さん、我々の世代では分かる部分、ありますよね(笑)(高橋氏)
外村氏:私の親が冷凍商品をお弁当のおかずに入れるときは、“ごめんね”みたいな感じでしたし、手作りではなく簡単に済ませることへの罪悪感があったのかなと思いますが、若い世代の方はどうなのでしょうか?
山田氏:私は、冷凍食品に対する抵抗感はゼロです!めちゃくちゃお世話になっています。働きながらきちんと食事を作るのは、本当に難しい。
——いまや女性が働き続けるのは当たり前ですから、どれだけ手間をかけずに美味しい食事をいただけるかは重要視されていますし、だからこそ『食品が安全である』ということは、非常に大事になっていますが、関屋さんはいかが思われますか?(高橋氏)
関屋氏:私たちに身近なコンビニで買ったお惣菜なども、加工されたものですね。食品メーカーとしては、加工は安全に食べられる商品を提供するために、非常に重要な要素だと捉えています。
外村氏:近年のアメリカでは、食品の由来や、品質の管理、いつまでフレッシュな状態だったのかということほうが、食の安全という観点でも健康という意味でも、天然や手作りであることよりも大事だと捉えられていますね。
——トレーサビリティですよね。アメリカでは、やはり食に対する科学的根拠というか、由来や成分などが分かる商品が求められているのでしょうか?(高橋氏)
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