point 0は2020年9月7~8日の2日間、これまでの成果や今後の実証実験などを発表するカンファレンス「point 0 ignite 2020 summer」をオンラインで開催した。本稿では「point 0の次なる展開に向けた新規プロジェクト発表」の概要と、ゲストトークセッションに登壇した経済産業省 大臣官房企画室 津脇慈子氏の講演をレポートする。
政府が2020年5月25日に発した緊急事態解除宣言解除から数えて約3カ月が過ぎた。「その間我々が気付いたのは、アフターコロナ禍での新たな働き方を模索し、行動していく必要がある」(point 0 代表取締役、ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター所属 石原隆広氏)ということだ。識者や企業経営者の意識にも変化が生じており、既存のオフィス一極集中型から、サテライトオフィスやソーシャルディスタンスを確保した上でのコワーキングスペースの活用を提唱し始めている。このような背景からpoint 0は、1人暮らしの若手社員や幼い子供を抱える社員、共働き世代、書斎がなく自宅勤務に向かない社員を対象とした全室個室のサテライトオフィス「point 0 satellite」を全国展開することを明らかにした。
そもそもサテライトは英語のsatellite(衛星)の名を用いていることからも分かるとおり、惑星となるオフィスを中心として衛星がごとく周辺に設置するミニオフィスである。だが、既存のサテライトオフィスはコロナ禍を想定していないオープンエリアを採用するケースが多いため、安全という観点では不安が残る。また、机と椅子のみを設置した個室の長時間利用も厳しいだろう。無人運用のpoint 0 satelliteは一連の課題を鑑み、狭い空間でも坪庭のような植栽を配置して利用者に精神的なゆとりを感じさせる個室作りを目指すという。point 0は東京・丸の内にコワーキングスペース「point 0 marunouchi」をオープンしているが、同種の心地よさをpoint 0 satelliteにも受け継ぐようだ。なお、利用者データを分析して、施設やソリューションを随時アップデートする仕組みも用意する。
point 0 satelliteの展開はpoint 0単独ではなく、全国各地の事業パートナーと連携する。point 0は企画立案から空間創出、データ分析に基づく改善提案といったサポート側に回り、各施設名も「○○○ powerd by point 0」とセカンドブランドに回るという。事業パートナー側には自社ブランドの強化やストック型事業の創出、迅速かつ低コストでの展開といった利点がある、とpoint 0は説明する。現時点では2021年春に大阪へ、今年度中に東京へ1号店の開設を予定しており、都市型は個室オフィスに加えて会議室や少人数向け個室オフィス、ソーシャルディスタンスに配慮したオープンエリアを備え、「3年間で100店舗までの拡大を目指す」(石原氏)。利用者は、point 0が発行する1つのアカウントで全国の施設が利用可能。同社はpoint 0 satelliteの運用を通じて、個人に特化した最適空間制御の検証や、個室空間におけるIoT化実践の場になることも併せて目指している。
ゲストとして経済産業省 大臣官房企画室 津脇慈子氏を招いたトークセッションのテーマは、「企業間共創の新しい形」である。point 0はオカムラやライオンなど、多数の企業が参画したプロジェクト企業であることを踏まえると、合致したテーマといえよう。津脇氏が提示した資料によれば、日本の製造業における新製品・新サービスを投入した企業の割合は米国を100とした場合、日本は78ポイント。サービス業に至っては65ポイントと著しく低い。このデータは経済産業省が「OECD Science, Technology, and Industry Scoreboard 2017」を基に作成したものだ。さらに自省の調査データを用いて、「日本のヒト・モノ・カネのリソースは大企業に集中し、新事業の観点からはリソースを死蔵している可能性がある」(津脇氏)と指摘する。このように企業が抱える課題として、「(既存企業のイノベーションを成功させるためには、)成功事例を深掘りしがちだが、本当は『知の深化』『知の探索』と『両利きの経営』が必要。これを日本でどのように実現するかが、国としても大きなテーマ」(津脇氏)と強調した。なお、チャールズ・A・オライリー氏著「両利きの経営」では、知の探索を既存の認知範囲を超えて、遠くに認知を広げていく行為、知の深化を自社が持つ一定分野の知を継続して深掘りし、磨き込んでいく行為と定義している。
モデレーターを務めたオカムラ マーケティング本部 DX推進室 室長 遅野井宏氏(point 0 取締役)が、日本で新産業が生まれにくい理由を問うと、津脇氏は「(大企業についても)個人単位では面白い活動をしている人がどんどん増えてきているが、組織としては、高度成長期以来の考え方から、まだ変わりきれていない場合が多い。いかに過去の成功モデルに捉われず、変化に迅速且つ柔軟に対応することができるか。国も企業も求められている」と状況を説明した。遅野井氏がSNSの普及を踏まえた個人間のコミュニケーションが容易である現状に言及すると、もう1人のモデレーターであるライオン 研究開発本部 戦略統括部 イノベーションラボ所長 宇野大介氏(point 0 取締役)が、「今後は人の価値を計る尺度の1つに、仲間の数が加わる」と指摘。加えて津脇氏は「社内リソースで完結することが多い。だが、世界では(業種の垣根を越えた)新しいビジネスモデルが求められている。個人レベルでは実現していても、プロジェクト化する意思決定とリソース投資を踏まえると、再利用を考えてしまう。そこを打破する仕掛け作りが重要だ」と、新規事業を妨げる一因を指し示した。
モデレーターがコロナ禍におけるビジネス環境の変化を問うと、「(昨今は)オンラインミーティングが増えているものの、『東京の人だけですよ。皆さん出勤しています』と大阪の人にいわれてショックを受けた。ビジネスとしては辛い状況にあり、今後も経済対策が必要だが、異なる側面で見れば、デジタル変革のチャンスともいえる。人のマインドや会社・社会のルール、インフラも変えなければならない。(コロナ禍が)転換点になりつつある」(津脇氏)と、地方におけるテレワークの難しさや、今後の課題について語った。最後にモデレーターが「共創を妨げる一因がセキュリティという考え方。大事な考えだが組織を超えたコミュニティーの接点を塞いでいる」(遅野井氏)と提言すると、宇野氏は「少しの工夫で改善できる。我々はその積み重ねでpoint 0を続けてきた」と可能性を提示し、津脇氏も「『怖いから閉じる』という日本企業が多いのでは。『共創』という観点から企業はいま一度見直すべき」と改善をうながした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス