120年続くライオンの新たな挑戦「イノベーションラボ」--企業文化の変え方とは

 2月19、20日の2日間に渡って開催した本誌主催イベント「CNET Japan Live 2019 新規事業の創り方--テクノロジが生み出すイノベーションの力」。1891年に創業し、127年の歴史を数えるライオンは新規事業創出を目指すイノベーションラボを設立した。所長の宇野大介氏による基調講演「ライオン イノベーションラボの挑戦」の概要を紹介する。

ライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 所長の宇野大介氏
ライオン 研究開発本部 イノベーションラボ 所長の宇野大介氏

 ライオンは2018年、2030年に向けた新経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を策定した。これは「健康、快適、清潔・衛生を通じた新たな顧客体験価値の創造」を通じて顧客の心身を健康的に維持することを意味する。だが、120年強という長い歴史は企業文化や体制を保守的にさせるに充分な時間だった。

 研磨剤や歯ブラシといったヘルスケア製品を中心に展開する同社だが、自社変革の象徴となるのが研究開発本部に所属する「イノベーションラボ」だと宇野氏は語る。研究開発本部は経営ビジョンを実現するために「顧客の共感につながる体験価値つくり」「オープンイノベーションによる研究開発のスピードアップ」を使命に掲げるが、そのためにイノベーションラボは、「イノベーションの量・質・スピードを高めるための全社のハブとなり、従来の事業部、開発研究所体制を超える"驚きのある"新規事業の創出を目指す」(宇野氏)。

「危機感」と「閉塞感」から変革へ

 ライオンが変化に向けて動き出した背景には、安泰と言われていた日用品市場に対する「危機感」と社内的な「閉塞感」の2つがあった。「生活必需品として120年続けてきた研磨剤・洗剤などの日用品事業も、人口減少を迎える次の100年、同じやり方で続けられる保証はない。また、創業からは年月が経ってしまい会社組織が大きくなっているがために、現場が新しいことに取り組みたいという意欲を持ち、そのアイデアを持ち寄っても全社視点でのルールの中では先に進めるのに時間とスタミナがかかってしまう」(宇野氏)大企業病とも言える企業文化が散見されていたという。

 この危機感を持った同社経営陣号令のもと、2018年1月に立ち上げたのがイノベーションラボである。前述のとおり、同社はR&D部門を保有しているが、同ラボは「体制」「ゴール」「文化」の3点において大きく異なる。まず体制は従来のピラミッド型の上意下達を廃し、ネットワーク型に変更。ラボ内で生まれたアイデアを提案した者がリーダーとなり、メンバーを募集する。これは新人でも管理職でも変わらない。ネットワーク型組織に変更するにあたり、宇野氏はメンバーに「既存事業に関わる仕事はしない」「起業家を目指そう」「僕のことを『所長』と呼ぶのは禁止!」を宣言し、現在メンバーからは「宇野さん」と呼ばれている。

 次のゴールだが、ラボ設立当初からゴールを定めるのは難しい。そこでデザインシンキングを用いて皆の方向性や将来展望を共通化するビジョンを作成した。現在は下図に示したポスターをオフィスに貼ってイノベーションラボの行動指針となっているという。文化については宇野氏が身に着けている青色のユニフォームが現している。

 「江戸川区平井にある研究開発本部に属する人間は白衣を身に着けている。これは、実験をすることが業務の中心だから。新規事業を手掛けるイノベーションラボの僕たち自ら実験するフェーズを手掛けているわけではないので白衣にこだわる必要がない。悪目立ちする意図もあった」と宇野氏はユニフォームの意味を説明する。

イノベーションラボの精神を形にしたポスター
イノベーションラボの精神を形にしたポスター

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