point 0は2020年9月7~8日の2日間、これまでの成果や今後の実証実験などを発表するカンファレンス「point 0 ignite 2020 summer」をオンラインで開催した。本稿ではゲストトークセッションに「協創が起きる日常はこう楽しもう」と題して登壇した圓窓(えんそう)代表 澤円氏の講演をレポートする。
琉球大学客員教授や数多くのベンチャー企業で顧問を務める澤氏は、2020年8月31日で日本マイクロソフトを退社。自称“ぼっち社長”として多方面で活躍している。先月8月には新著「個人力」を上梓し、個人の力が持つ重要性について次のように語った。「日本人は価値観をアウトソーシングしすぎるクセが付いている。たとえば終身雇用や年功序列など、正解は誰かが用意してくれて、それに自分を合わせれば幸せになれる図式が昭和の時代から続いていた。先日89歳で亡くなった父は年金が手厚く、悠々自適の生活を送った。あの成功体験を見ると、アウトソーシング=ハッピーと勘違いしかねない。だが、(今は)もう無理なのに、無理だということを受け入れられない層が存在する。(変化を)現実のこととして理解することが必要」と、今のあり方を指摘する。
一方で「思考を省力化できるのは確かに楽。だが、多様性や新型コロナウイルス感染症の蔓延で社会が変化し、2020年はインターネット登場以来、25年ぶりにリセットがかかっている状態。当時はインターネットが登場しても、仕組みは分かっても何を生み出せるのか分からなかった。その時点でさまざまなアイデアを考えついた人々が現在のサービスを生み出している。コロナ禍は不幸な出来事だが、今後は自分の頭で考えることができれば面白くなる」と、現状が一種のチャンスであることを指し示した。
モデレーターを務めたオカムラ マーケティング本部 DX推進室 室長 遅野井宏氏(point 0 取締役)は「答えのない迷路のような印象を受ける。複雑に考えすぎか」と質問すると澤氏は、「複雑に考える必要はない。『好きなモノは好き』という話。先日のインタビューでも『組織内で好き嫌いは表現しにくい』という質問を受けたが、僕が同意するわけがない。質問返しをするとインタビューアーは答えられなかった。『大人げない』とか『組織に波風を立てる』というが誰も不幸になっていない。人生は『好き・嫌い』で分かれる。だから、好きなことに集中し、嫌いなところから自分を遠ざけることが、ハッピーに生きるための大原則」と述べた。
とはいえ組織に属していると、自身を強調する弊害があることは現実にある。それは企業を集団社会に置き換えても同様だ。澤氏は著書の「個人力」で、「あくまでも自分で(ありたい自分を)定義し、自分で言語化する」ことの重要性を強調している。自身を強調することに対しての抵抗感を澤氏は、「見えざる何か。誰に説明を求めても明確にならず、答えを持っている人はいない」と表現し、「企業は概念的な存在。その中で見えざるルールを優先してきた」(澤氏)が、コロナ禍で崩れ去った。そのため我々は「1人ないし(家族などの)最小単位で仕事をしていると、否応がなしに“個”を意識させられる。素の状態で働いていると、“何のために働くのか”を突きつけられる人も多い。自分の人生を照らし合わせて、今の自分がハッピーなのか1度疑ってみる」(澤氏)。誰しもが実現できるかは難しいが、その点についても「今の世の中に必要なのは正解の塊である『地図』ではなく、大まかな方向性を把握して冒険するための『コンパス』だ」(澤氏)と指摘する。
話が価値観の多様性や、核となる自身の能力など多岐にわたり、自身が何に依存しているか言語化することの重要性に話が及ぶと、共にモデレーターを務めたライオン 研究開発本部 戦略統括部 イノベーションラボ 所長 宇野大介氏(point 0 取締役)も、「在宅勤務期間に何をしたいのか書き出したが、もっと仕事や人生を楽しみたいことに気付いた。それを皆で楽しめることが自身のやりたいこと」だと語った。その発言に対して澤氏は「すると企業の肩書きが本当に必要か否か分かる。企業に属しているとアセット(資産)を自由に使える権利を与えられ、『企業は利用するもの』だと思っている。当然ながら(属している以上は)企業に対する貢献も必要だし、そのバランスが取れるのなら会社員(の継続)で構わない。自分も会社員が嫌ではなかったが、より一層、外に時間を割り当てたいと考えた」と日本マイクロソフトを退社した理由の一端を語った。さらに「企業に属している以上は貢献を求められ、不得手なタスクもゼロにすることは難しい。ゼロにしたいと思った時点で退社しても構わないと思った。また、(役割を)他の人に譲ることのプラス効果も大きい」(澤氏)とした。本トークセッションは澤氏が日本マイクロソフトを退社して約1週間後に開催されたが、現在の状況を「(退社および起業という)判断がいかに正しかったか、DNAレベルで叩(たた)きつけられている」(澤氏)そうだ。
遅野井氏が「我々のような企業に属している人間でも個の力は重要」とコメントを寄せると、澤氏は「当然ながら企業も仕組みとしてサポートしなければならない。乱暴な言い方だが、『社員本人の意向を完全に無視して人事部が決める人事異動は犯罪』だと思っている。人事異動は(社員の)生活基盤に大きな影響を及ぼし、盲目的に(企業を)信じさせてきたのが昭和の時代。(現在は)『人生の選択権は社員にある』という認識が(企業に)あればよい。(転勤を好まない社員の判断を)評価に影響させずパフォーマンスと企業への貢献度を経営判断できない企業は淘汰されていくと思う」と指摘した。
続いて話は“マネジメント”に移っていく。「マネジメント=管理と同一性だと認識されがちだが、本来のマネジメントは上司がチームメンバーの先回りして、邪魔な要素を取り除き、(メンバーが)全力疾走できる状態を作ること。だが、日本の管理職はこのようなトレーニングを受けていないから、全力疾走しているメンバーを呼び止めて確認ばかり。これが全体のスピードを遅くしている。『報・連・相』も報告は自動化し、連絡もツールで構わない。メンバーが相談したいときに(上司が)横にいる状態。これがマネージャーの仕事だ」(澤氏)と論じた。
本トークセッションはpoint 0 marunouchiで開催したが、モデレーターから会場の感想を問われた澤氏は、「空間として大事な居心地の良さがある。居心地の悪い場所に人は寄りつかない。心理的安全性の担保は存在意義として絶対条件になる」と述べた。話がオープンスペースと雑談力の重要性に及ぶと澤氏は、「雑談力は日本古来の組織の中だけに属していると培われない。名刺の力で語るのではなく自身のアイデアだけで語ること。シリコンバレーのミートアップでも大学や企業名は重要ではなく、アイデアや社会貢献がイノベーションを起こすといったカルチャーがあるため、ちょっとしたエレベーターピッチやパーティーの発言で周りの耳目を引けるかが重要。自身の興味範囲で構わない。家庭で観たNetflixの話と自身の業務をつなげて雑談に持っていくこともできる」と協創を生み出す雑談力を得るためのポイントを披露した。
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