衛星データから「駐車場向けスペース」を自動検出--3社が語る駐車場ビジネスのDX最前線

 朝日インタラクティブは9月9日、「CNET Japan Conference 不動産テック オンラインカンファレンス2020」を開催した。同カンファレンスは、「いまこそアナログ脱却でピンチをチャンスに」というテーマで、9月2日、9日、16日、23日、30日の毎週水曜日、全5回に渡るウェビナー形式で開催された。

 第2回のタイトルは「駐車場ビジネスのDX最前線」。冒頭に挨拶した朝日インタラクティブ編集統括の別井貴志は、「最新テクノロジーの力で、駐車場ビジネスがどのように変貌していくのか」と関心を寄せた。セッションのモデレーターは、NTTデータ経営研究所の川戸温志氏がつとめた。

3名のパネリストとモデレーター
3名のパネリストとモデレーター

 川戸氏は、NTTデータ経営研究所に2008年に入社。ビジネストランスフォーメーションユニット シニアマネージャーを務めるほか、不動産テック協会 顧問も兼任する。「不動産テックという言葉が出てくる前から不動産領域でテックビジネス、事業戦略立案、新規事業開発などのコンサルティングを行ってきた」と簡潔に自己紹介したのち、セッション前半のパネリストスピーチに移った。

 パネリストは3名。駐車場シェアサービスを展開するakippaで Marketing Office 兼 Active Business Operation Group グループ長をつとめる田中大貴氏、さくらインターネット 事業開発本部 クロスデータ事業部 部長の山崎秀人氏、AI技術のコンサルティング・開発を手がけるRidge-i 執行役員 事業開発部長の杉山一成氏だ。

 現在3社は共同で、衛星データとAI画像認証を活用して、駐車場用スペースを自動検出するためのプログラムの研究・開発をしている。

「アナログ営業」からの脱却に向けて

 最初に、akippaの田中氏が、自社サービスの特徴や強みを紹介した。「akippa」は、月極駐車場やマンション駐車場などの空きスペースを、15分または1日単位で予約できる駐車場サービスだ。

 
 

 ユーザー(会員)となるドライバーは、akippaで予約と決済ができ、スペースを登録する駐車場オーナーは利用実績に応じて収益を上げられる。双方とも初期費用はかからず、車1台分のスペースがあれば、空き地でも登録可能だ。

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 akippaの大きな強みは「ダイナミックプライシング」。需給に合わせた料金設定ができるため、需要が少ない時は、利用者は周辺のコインパーキングよりもリーズナブルな価格で利用しやすく、駐車場オーナーも収益向上を狙えるという。

 9月時点で会員数は累計190万人、駐車場拠点数は累計3万9000拠点におよび、ここ1〜2年で急増しているという。田中氏は「拠点数は、akippaの事業において最大といえるほど重要なポイント。現状の営業活動はアナログで非効率、まだまだ課題が多い」と言及したうえで、今回の3社での取り組みについてこのように話した。

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 「いまは拠点数を増やすために、本社の営業数名と代理販売パートナー500社以上の皆さんが、地図を持って練り歩き、空きスペースがあればすべて『akippaに登録しませんか』と提案していくというモデルなので、大変だし限界があると感じていた。衛星データを使うことで、アナログ営業から脱却して、我々の事業課題を解決できるならチャレンジしたいと考え、さくらインターネット様にご相談させていただいた」(田中氏)

衛星データを「科学から実利へ」

 次に登壇した、さくらインターネットの山崎氏は、衛星データの活用トレンドや、3社共同プロジェクトでも使われた衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」について説明した。

 もともと山崎氏は、宇宙開発事業団(現JAXA)でキャリアをスタートし、Tellusでも使われているJAXAの地球観測衛星「だいち」の防災利用や、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還業務に従事してきた。現在はさくらインターネットへ出向して、クラウドを利用した衛星データプラットフォームの開発及び、利活用促進、衛星データを活用した新たなビジネス創出を目指す取り組みを行っている。

 
 

 山崎氏によると、「衛星に搭載するセンサーは、たとえば最高で50㎝~1m程度の解像度で地上を識別できるもの、雲などの遮蔽物を貫通して地表を観測できるもの、台風など地球レベルの大きなものをとらえられるものなど、さまざまな種類がある」という。衛星データの活用事例は、地盤沈下や隆起をとらえてインフラの監視や土地の管理に活用する、海流のデータを漁場予測に使うなどさまざまだ。

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 「膨大なデータなので、すべてを人の目で見て分析していくのが難しく、最近では世界中で、衛星データとAIとを組み合わせて、評価結果だけをビジネス活用しようという流れが起きている。ここがまさに、Ridge-i様とご一緒させていただく理由でもある」(山崎氏)

 日本初のクラウドベースの衛星データプラットフォームであるTellusでは、日本の高性能な衛星データが無料で公開されている。また、Tellusに搭載された各種データを活用した解析・アプリケーション開発も可能で、必要なコンピューティング環境も提供されている。さらに、データ・アプリケーション・アルゴリズムなどのツールを利用・売買できる、マーケットプレイスとしての機能も備えている。

 Tellusは現在、経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化およびデータ利活用促進事業」の取り組みとして提供されているため、無償で利用できる。リモートセンシングと機械学習の基礎を学べるe-learningやオウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」、衛星データを使った画像解析アルゴリズムコンテストもあり、Tellus登録ユーザーは1万7000名以上、 開発環境利用者は約350名にのぼるという。

 Tellus利用促進を目的とした民間企業によるアライアンスが組まれており、ここにはRidge-iも参画している。

 
 

AIの実用化実績を活かした「衛星データ×AI画像認証」

 続いて登壇したRidge-iの杉山氏は、「AIのコンサルティング・ソリューションを開発している。創業5年目のスタートアップだが、開発した技術がすでに実用化されている点において、ユニークな存在だと自負している」と、自社を紹介。従業員43名のうち約半数がエンジニアで、その大半は機械学習を専門領域とするそうだ。

 
 

 当日は、2つの実用化実績を紹介した。1つは、ごみ識別AIだ。焼却炉内のごみを識別する「目」の役割を果たして、自動ごみ処理クレーンの動作変容をもたらす。もう1つは、創業1年目に開発した技術で、NHKで放送実績もある白黒映像のカラー化です。戦前戦後のモノクロ映像を自動でカラー化することにより作業の効率化を図った。

 
 

 Ridge-iは、Tellusアライアンスに参加していることもあって、衛星画像に対する機械学習技術の活用にも注力しているという。モーリシャスの周辺でタンカーが座礁して重油が漏れた事故では、SAR衛星(レーダー衛星)の画像を使って、オイル流出エリアを推定した結果が、記事掲載されました。また、衛星データ活用の知見をドローンに転用して、海岸に漂着した海ゴミの量を測る技術も開発している。

 
 

 「akippa様、さくらインターネット様と共同で取り組んだプロジェクトにおいても、衛星データと機械学習を組み合わせて、駐車場用のスペースを自動で検出する仕組みを構築した。おおむね、7〜8割程度の精度を実現できたと思う」(杉山氏)

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