この「テレコラボ戦略」の連載も今回で11回目。前回は、このコロナ禍の副産物的に「つながる機会」と「自由」の2つが増大したことを説明しました。
コロナによって
(1)物理移動がなくなった
(2)「周囲の目」がなくなり同調圧力が弱まった
(3)リモートで会うことが一般化・常識化した
(4)VIPでもリモートならコンタクトしやすい状況が生まれた
ことなどがその要因です。
今回は、コロナ禍によって増大した、つながる機会と自由を活かして人生の可能性を広げる「個人としてのテレコラボ戦略」について説明したいと思います。
まず全体像を簡単に説明すると、コロナによって増えた、つながる機会と自由をつかって知見と人脈を拡張し、それらを仕事や人生の充実に活かそうというのが「個人のテレコラボ戦略」の概略です。
わかりやすく言うと、自分の専門とは異なる領域の専門的な知見を持つスペシャリティの高い人材とつながり親しくなる機会が、コロナ前とは比較にならないくらい容易かつ高頻度で得られるようになりました。それを活かせば、仕事も人生もうまくいく可能性をぐっと高められるということ、いわば「オープンイノベーションの民主化」です。
そして会社としては、そうした個人のテレコラボの成果をいかに企業活動にとりこんでいくか、また、テレコラボに長けた人材を人材育成と採用の両面でいかに増やしていくかというのが「会社としてのテレコラボ戦略」になります。
先日発表されたヤフーの「副業人材(ギグパートナー)」の募集はまさにテレコラボ戦略そのものでしたが、この中でもオープンイノベーションという言葉が使われていました。
テレコラボ戦略は「つながりを作る」インプットのフェーズと「 つながりを活かす」アウトプットのフェーズに分かれます。つながりを作るインプットフェーズでのアクションは、これまで連載でも書いてきた内容がたくさんあります。
たとえば
自分が信頼してもらえる状態を作ることです。そのコツは以前詳しく書きましたのでこちらの記事をご参照ください。
コロナ禍をきっかけに爆発的に増えたのがオンラインイベントです。こうしたイベントは自分の世界を広げる良いきっかけです。特に自分の本業ではないジャンルのイベントに参加すれば、新たな刺激や知見も得られますし、自分の専門分野でないからこそ、その場で希少な存在となり、良いつながりも構築しやすくなります。
オンラインイベントに参加してバーチャル名刺交換するだけでは信頼関係までには発展しにくいものです。相手の立場を理解する姿勢を積極的にみせること、そして相手の役に立つことを率先して行う「ギブファースト」を実践することで、信頼をゆるぎないものとし、いつでも相談や依頼ができる一段高い関係性の構築を目指しましょう。
ギブファーストといっても具体的にはどうすればいいか、後述する「パスを回す」というのもありますが、参加するだけだったオンラインイベントを自分で開催してみてもよいかもしれません。イベント主催の仕方などについてはこちらの「コミュニティづくりの教科書」に詳しく書かれています。
また、オンラインイベントのオペレーションについては僕の会社フィラメントでの経験をこちらの記事「ド素人がオンラインイベントを成功させた4つの秘訣」に詳しく記載しています。
経営学の世界では「埋め込み(embeddedness)理論」という考え方があります。上司・部下の関係のような組織上の関係ではないけれど、何度か一緒にビジネスをしたりしてそれなりの相互理解と信頼がある関係(これを「埋め込まれたつながり」といいます)では、利他性が発揮されやすくなるという理論です。
自らが率先して利他的な行動をすること、ギブファーストを心がけることで、埋め込まれたつながりを作っていくのです。そして、この姿勢は、次の「つながりを活かす」フェーズでも非常に重要になってきます。
テレコラボを上手く進めている人を見ていると共通するマインドセット、心構えがあることに気づきます。その心構えをサッカーに例えると「パスを回す」意識です。人とのつながりを作るということはコミュニケーションというパスを通じて、さまざまな知見や支援を回しあう関係性を作るということです。
相手の力量に合わせてパスを回し、信頼を醸成しながら、ゴールという成果に近づけていくサッカーのゲーム感覚は、テレコラボのコミュニケーションワークとよく似ています。パスをもらうためには「良い位置」にいる必要がありますし、「あいつにパスしたら活かしてくれそうだ」という信頼も必要になります。
実はコロナ以降で一気に重要になってきたのが、この「パスを回す意識」です。リモート環境ではお互いの考えていることが伝わりにくいので、自分に来たボール(知見や情報や人のつながり)はとりあえず誰かにパスをしてみて、反応を見ながら次の展開を考えるといった臨機応変なマインドがとても大事です。
「つながりを活かす」アウトプットのフェーズでも、パスを回すのは重要です。社外で築いたつながりは、あらゆる方向にパスしてみましょう。僕が知っている仕事のできる人たちは大抵、社内・社外問わず縦横無尽にパスを回すのが本当に上手です。
個人と会社を自在に渡り歩いて、ギブファーストの精神でまずパスを回すことを実践しています。自身の利益を顧みないことで逆に周りからの信頼が増し、あの人のために何かしてあげたい、ギブしたいと思わせる関係性と共通認知が生まれていきます。
東日本大震災の時にもそうでしたが、今回のような社会的危機には心が荒む情報が社会にあふれるため、その反動として公共善に資する行動・利他性の強い行動が注目されやすくなります。社会全体が利他的な行動を希求する中で、ギブファーストな行動の価値が高まるのではないかと思います。
ちなみに僕は前職の大阪市職員時代にこの「パス回し」を極めることで、多くのつながりを獲得し、これによって公務員からの起業に成功しました。僕は当時、非常につながりを作りやすい特殊なポジション(オープンイノベーション担当)だったので、他の人が同じことをするのは難しかったのですが、コロナによる社会環境の変化により、誰もが当時の僕のように豊かなつながりを作れるようになりました。まさにオープンイノベーションの民主化です。
つながる機会と自由が増えたことを活かして多くの方々とつながり、そこから得た知見や人脈を縦横にパスしつつ、自分のゴールも意識する。僕がかつてオープンイノベーション担当として実行していたことを、今の社会環境とオンラインという手段に置き換えて組み立てなおしたのが「テレコラボ戦略」なのです。
≪第12回に続く≫
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」