学校や塾が明かす「オンライン教育」の実情--筑波大附属高校、城南進学研究社、Z会が語る - (page 2)

 教えること自体はAIやITで代替できるものの、そういう環境があっても生徒が自ら進んで使いこなせるとは限らない。その際に、気付きや学びの方向性を与えたり、学ぶことのモチベーションを盛り上げることが塾の役割になるのではないか、というわけだ。

 そんな同社のオンライン施策では、AIを活用したデジタル学習システム「atama+」を採用。1対2(休校期間中は1対1)の個別指導をZoomで実施し、さらに学習管理ツール「スタディプラス」で生徒とのコミュニケーションを強化した。生徒が気軽に教室のスタッフに相談したり、同じように学習している他の生徒の様子も感じられるよう、Zoomを流したままにする「オンライン自習室」も開設してモチベーションの維持を図った。

 もっと作り込んで指導内容を充実させられる部分もたくさんあったかもしれない、と振り返る村上氏だが、リソースも限られている。そこで、あえて「指導の質を上げるより、生徒とのコミュニケーションを強めに意識した」とのこと。対面指導がいずれ再び可能になったときに指導の質は担保できるとしても、今この時点で生徒がモチベーションを失ってしまえば持ち直すのは難しいと感じたからだ。

 そのため、スタディプラスを使った週次面談でしっかりコミュニケーションを取り、生徒1人1人の学習目標や進捗をあらかじめ確認しつつ、それをもとに時間・場所に囚われない“非同期”のオンライン指導を行う形にした。他の生徒の様子をうかがえるオンライン自習室で孤独感や不安感も取り除くことができ、「生徒の気持ちを切れさせないようにできたのではないか」と評価している。

週次面談によるコミュニケーションを重視した指導を行い、モチベーションの維持に力を注いだ
週次面談によるコミュニケーションを重視した指導を行い、モチベーションの維持に力を注いだ

 同社では6月1日に通常の対面指導に戻ったが、その直前に生徒と保護者にアンケートを取ったところでは、授業料が変わらないとしても「オンライン授業の継続が良い」としたのは22%。数字だけ見るとかなり低い割合に感じられるものの、村上氏は「半年前に同じアンケートを取ったらほぼゼロだっただろうことを考えると、22%はものすごく大きい」と見ている。

 塾という業界に「確実にパラダイムシフトが起きた」と改めて強調する村上氏。「オンラインで代替可能なものは緩やかにそちらに移行していく」と予測している同氏は、「オンラインで代替不可能なもの、リアルでなければできないこととは何かを考えることが、塾の現場の喫緊の課題ではないか」と分析する。

塾として、リアルの現場で何ができるのかを考えることが今後重要になってくるとした
塾として、リアルの現場で何ができるのかを考えることが今後重要になってくるとした

 PBL(問題解決型学習)、キャリア教育、プロジェクト教育といった、コミュニケーションを軸にした新しい教育手法を大胆に取り入れるなど、時代に合わせて塾のあり方も変化してかないと、生き残っていくことはできないと訴えた。

通信教育ではデジタル学習が大きく伸びる

 通信教育事業、栄光ゼミナールなどの学習塾、書籍出版などの事業を展開しているZ会グループ。近年、通信教育のZ会では小中高生向けにタブレット端末を用いて学習するデジタル教材に力を入れており、休校期間においては「Z会の通信教育」のタブレットを用いたコースや、フルデジタルの「Z会Asteria」の入会が増えたと同社の柳氏は説明した。

株式会社Z会 中高事業本部マーケティング1課の柳恵里子氏
株式会社Z会 中高事業本部マーケティング1課の柳恵里子氏
休校期間中はタブレットを用いるコースの入会が増えたという
休校期間中はタブレットを用いるコースの入会が増えたという

 自宅学習の支援を目的に提供した無料教材も、休校になった3月頃からアクセスが急増、数百万人が利用したという。2019年末に取ったアンケートではデジタル学習に抵抗のある保護者も一定数いたものの、その雰囲気が一気に変わったことを同氏は肌で実感したようだ。

無料教材には数百万人がアクセス。3月以降、多くのアクセスがあった
無料教材には数百万人がアクセス。3月以降、多くのアクセスがあった

 休校中は会員からの答案の提出率が上がり、英語のオンラインスピーキングの授業の予約も増加するといった変化もあった。学校再開後は、授業についていけないことを心配した人が、年度初めの授業内容に関する学習を希望するケースが多くなった。「大学入学共通テスト」が予定通り導入されることが決まると、受験を控えた生徒からは、不安から対策講座の申込みも増えたとのこと。

 これまで長くデジタル教材を提供してきた同社の経験からも、山田氏や村上氏が話していた通り、生徒のモチベーションの維持が課題の1つであると柳氏。学習指導からモチベーション管理まで、人がすべてを担うのは難しく、そのため「人が指導するところ」と「ITを活用するところ」を分けることで効率化を目指しているとした。

 たとえば「人」が担当するのは対面での授業や応用問題の答案の添削指導、生徒からの質問・相談への対応などが挙げられる。基本問題についてはタブレット上で完結できるようにアプリを設計しているため「IT」が担当でき、答案の提出もアプリ上からも可能にしている。学習が滞っている人に対しては自動でメール配信して学習を促す仕組みも導入している。

ICTを一層活用することで個々の習熟度などに合わせた問題を出すことができ、学力向上につなげられるとした
ITを一層活用することで個々の習熟度などに合わせた問題を出すことができ、学力向上につなげられるとした

 柳氏は、今後も一段とIT化を進めたいと話す。たとえば、生徒の学習データの収集・分析結果を指導や問題作成に活かすことができ、習熟度に応じて提示する添削問題を出し分けることもできる。オンライン授業では海外と繋がることも容易になる。こうした技術を今後も進化させ、デジタル学習のメリットを活かすことで、生徒のモチベーションを上げ、学力を伸ばす仕組みを作っていきたい、と語った。

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