新型コロナウイルス感染症対策により休校措置が取られたため、各学校はオンラインへの切り替えを余儀なくされた。グーグルが提供する「Google for Education」は学校生活をサポートするツールのひとつだ。突然のオンライン化に学校はどう対応し、どんな気付きがあったのか。
グーグルは6月11日、公立高校、私立中・高校の2校の先生を招き、Google for Educationを活用した遠隔学習に関するオンライン記者説明会を開催した。
Google for Educationとは、ノートPC「Chrome Book」、教育機関向けGoogleツールパッケージ「G Suite for Education」、クラス管理や授業が実施できる「Google Classroom」など、同社による教員、学生、研究者向けのプログラムの総称だ。
Google for Education APAC統括 Colin Marson氏は、「アメリカやニュージーランド、そしてスウェーデンやカナダ、オランダなどにおいては、Chrome Bookがもっとも使われているデバイスとなっている。Google Classroomは3月初めには世界中で5000万人の人に使われていたが、3月の終わりには1億人に到達した」と、コロナ禍において急速にユーザー数を伸ばしたことを明かした。
同社は今年の3月から「Google GIGA School Package」を提供している。chomebook、G Suite Education、Kickstart Program(現地研修)を組み合わせて、文部科学省の推進するGIGAスクール構想を実現するものだ。4月にはユネスコ教育情報工学研究所の支援を受け、教員と保護者に在宅学習を行う上で活用できるツールや情報を紹介するウェブサイト「家から教えよう」を公開している。
「Googleのツールは、先生方が教育の体験を変革する上で役立つだけでなく、先生方の時間の削減や、コラボレーションの強化にも使っていただける。また、生徒さんたちがもっと学んでみたいという好奇心を刺激するようなものになっている」とMarson氏は述べた。
ところで、Google Classroomがどのようなツールか、導入した学校以外は知らないかもしれない。Google Classroomは、課題の一元管理ができる授業支援ツールだ。ホーム画面には「ストリーム」「授業」「メンバー」「採点」のメニューが並ぶ。
「Meet」のリンクをクリックすると、メンバーでビデオ会議「Google Meet」を簡単に利用できる。「ストリーム」は先生と生徒が書き込むことができる掲示板のような機能だ。「授業」にはGoogleドライブに保存したファイルを課題をとして掲出できる。「メンバー」からはクラス全員にBccでメールを送信する機能も備わっている。
そして、Google Classroomは各アプリとの連携にも優れている。Meetでの授業、Googleフォームでの健康状態調査、YouTubeでの動画視聴、スライドでの共同作業だ。
Googleフォームはビジネスで馴染みがある人も多いと思うが、教育現場ではテストの作成に利用できる。回答方式も、単一、記述式など選択でき、自動採点や自動集計、回答をリアルタイムで把握できる点もメリットだ。また、Googleフォームでテスト中に答えを別のタブで検索しないよう、タブが開けなくなる「ロックモード」も用意されている。
説明会では、実際にGoogle for Educationを導入している埼玉県立越谷南高等学校の勝部武先生と平原雄太先生が、ICT活用の経緯や変化、活用事例について述べた。
勝部先生によると、埼玉県立越谷南高等学校には課題があったという、それは、生徒の主体性を育むことと、自立心を養うことだ。生徒に対しては、自ら進んで学んでほしい、また自ら考えて行動してほしいと願っていた。しかし、実際には、大学入試に対応できる学び、全員に理解させなければならないなどの理由で、効率重視になったり、半強制的に学習させるなどの指導になっていたという。
そんな中、コロナ禍で臨時休校となり、3月から生徒はほぼ学校に来られなくなった。そこで、Google Classroomを4月9日から導入した。その際、埼玉県が教育行政重点施策に位置付けているICT環境の整備事業、そして校長がICT教育への取り組みとしてGoogle ClassroomやG Suite for Educationなどの研修会を参加していたことから、スピード感を持って導入できた。「今思えば、この研修が大きなアドバンテージだった」と勝部先生は振り返る。
子どもたちに会うことができなくなった先生たちは、積極的にGoogle ClassroomやG Suite for Educationを学びだした。5月の連休明けには、Google for Educationのさまざまな機能のうち、共同編集機能を使って課題を同時に作る人、クラス内で交換日記や自己紹介動画を作成する人、カレンダー機能を使って生徒自身にスケジュール管理を行わせる人、テレビ機能を使って個別相談に応じるもの人など、さまざまな機能を使いこなす先生がどんどん増えてきたという。5月末の時点で、319ものオリジナル動画が完成した。
勝部先生は、「私たち越谷南高校の課題は、生徒の主体性と自立心を育むための手立てをなかなか改善できなかった。しかし、幸か不幸か学校がないことで、自然と先生方の手立てや指導手法が変わっていった。また、生徒自身の学びの姿も変えてくれたと思う。動画を見て、課題をやり、もう一度動画を見るなど、自分のペースで学習を進めるといった学習サイクルのマネジメントも生徒自身で行わなければならない状況になったことで、教師も生徒も主体的な学びへのアプローチの仕方やヒントを見つけた」と、この数カ月を振り返った。
今後、通常授業を再開しても、動画で授業を補完したいといった声も教師から挙がっているとのことで、「今後もチャレンジを続けていきたい」と勝部先生は語った。
続いて、平原先生が活用事例を説明した。クラス経営では、生徒達が自己紹介動画を撮影し、担任が編集してClassroomで公開した。「普通に動画を撮る子もいれば、スライドやアニメーションを作成する子もいて、とても個性的で面白いものができあがった」と平原先生。また、進路希望調査票をGoogleドキュメントにし、ウェブ個人面談はMeetで行うなど、ツールを活用していったという。
教科指導については、YouTubeに動画を作成し、Classroomで配布をした。「双曲線という数学の曲線を折り紙で作るような活動があるが、普段の授業では、このような実験を取り入れることは進度の関係で難しい。しかし、この状況を逆手にとり、自宅で取り組める動画をということで実施した」(平原先生)。
平原先生は「フォームに授業の理解度やわかったこと、わからなかったことなど記述させることで、生徒のメタ認知能力の向上も図った。さらに、授業評価や改善点なども加えることで、教師である私自身の成長にも繋がった」と、導入により、生徒、教師の両方が向上することができたと述べた。
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