CNET Japanでは、初となるオンラインセミナーを5月28日に開催した。テーマは、飲食店をテクノロジーでどう支援するか。新型コロナウイルスの影響により飲食業界では休業や閉店を余儀なくされ、厳しい状況下にある店舗も多い。この危機を乗り越えて「新しい生活様式」に適応しながら経営を続けていくにあたっては、いかにテクノロジーを活用するかが1つの鍵になってくることは間違いない。
同セミナーのパネリストに迎えたのは、三重県伊勢市の老舗食堂「ゑびや大食堂」を営みながら、独自の来店予測ソリューションで高効率・高収益の経営を実践してきたゑびや代表取締役社長 兼 EBILAB代表取締役社長の小田島春樹氏。そして、フードデリバリーサービス「LINEデリマ」やテイクアウトサービス「LINEポケオ」を展開するLINEの執行役員兼O2OカンパニーCEOである藤井英雄氏の2人。なお、藤井氏は6月に出前館の代表取締役社長に就任する予定だ。
飲食店がアフターコロナではどのような変革をすべきか、現場やプラットフォーマーとしての立場から意見を交わした。当日のモデレーターはCNET Japan編集長の藤井涼が務めた。
的中率90%以上という脅威的な高精度で来客数を予測し、マーケティングや店舗経営に活かすことで圧倒的な売上、利益率を達成しているゑびや。しかし、それほどのテクノロジーを駆使してきた同社であっても、この新型コロナウイルスによる客足の大幅減と、それに伴う急激な売上減の回避は不可能だった。
影響が顕在化する直前の2月までは昨年比で平均105%の売上を達成していたものの、3月には同75%減、4月には同95%減、そして5月はついに同99%減と、売上が全く立たない状況に陥った。店舗が観光地にあるだけに、3月末頃からの外出自粛、4月以降全国に広がった緊急事態宣言がダイレクトに売上に響いた格好だ。
しかしながら、当の小田島氏は慌てることなく、状況を冷静に見つめていたようだ。来店予測ソリューションのセンシング機能を用いて常時分析している店舗周辺の通行量は、2月は昨年比3.3%減に止まっていたところ、3月になると同20.5%減、4月は90.3%減、5月は97%減となっており、単純に周辺を訪れる客足が遠のいたことが売上減につながっていることがわかる。
こうした客観的なデータがあることで、同氏は「今後(自粛が明けたのに)売上が戻っていかなかったとしても、店舗の問題なのかマーケットの問題なのかをしっかり切り分けでき、どう対策すればいいのか決めることができる」と前向きに捉えていた。
では、店舗内で食事を提供しないフードデリバリーやテイクアウトには、新型コロナウイルスはどう影響したのか。3月に「出前館」への出資を発表したLINEは、同社のフードデリバリーサービス「LINEデリマ」のプラットフォームで出前館とも連携し、テイクアウトサービスの「LINEポケオ」と併せて、需要が高まる同市場で攻勢を強めようとしているところ。当然ながら、デリバリーやテイクアウトに関わるユーザー動向などのデータも収集している。
LINEの藤井氏によると、4月前半の緊急事態宣言の発令以降、飲食店からのデリバリーサービスへの出店に関する問い合わせが急増し、ユーザーのデリバリー需要も4月中旬から日を追うごとに拡大していったという。テイクアウトについても、飲食店からの問い合わせやユーザーからの注文数が増加しただけでなく、20代の利用者の割合が向上し、家族の分を購入するニーズが増えたことで客単価がアップするという動きも見られたという。
実店舗運営がメインのゑびやでは大幅な売上減となった一方、LINEが手がけるデリバリーやテイクアウトの市場は活性化したこの数カ月間、両者は売上アップなどに向けて何らかの対策・施策をとっていたのだろうか。
まず、小田島氏のゑびや大食堂は、あっさり「休業する」ことを決断していた。といっても、どのタイミングで休業し、どうなれば営業を再開するべきか、きっちりデータに基づいて指標を設定し、実践していたと話す。
具体的には、営業をそのまま続ける場合と、休業して厚生労働省が給付を進める雇用調整助成金を用いた場合とで、どちらの方がメリットがあるかを前年同期比の売上減少率との兼ね合いから算出。同社では周辺通行量から実際の来客者の入店率を割り出しており、周辺の通行量が1日当たり2000人を切るようであれば営業をやめて雇用調整助成金に頼るのがベストと判断した。
その後の営業再開については、基となるデータや状況の変化も考慮に入れた結果、通行量1500人以上を判断の目安とした。実際にその基準を上回った後、5月27日に営業を再開すると、周辺店舗がまだ休業中だったこともあり、通常の5倍もの来店があるという想定以上の結果に。小田島氏は「データを持っていることが有効に機能した。ずるずる営業していると赤字が続いてキャッシュを消失していたので、早めの休業ができたのは良かった」とし、改めて「データを持っていると強い、と痛感した」と振り返った。
また、店舗は休業していても、今後の情勢によっては飲食店の経営自体が不可能になることも考え、いざというときには従業員が他の業界にスムーズに移れるよう各種スキルアップ研修も実施していたとのこと。経営者学、アイデア研修、接客、データ分析、英語、中国語、心理学など多様なプログラムを用意し、もちろんオンラインでの研修も取り入れた。いずれはこの研修プログラムを社外向けにサービスとして提供していくことも考えているという。
他方、LINEでは、デリバリー・テイクアウト利用を促進するための補助制度を打ち出した各自治体との連携を強化。デリバリー・テイクアウト利用時に使える割引クーポンに対応する形で参画することで、間接的に飲食店をサポートした。結果的には自治体との連携キャンペーンを実施していた地域は取扱高が他と比べて増加しており、LINEデリマでは開始前と比べて300%もの伸張を見せたエリアもあったという。
デリバリーについては感染防止の観点から「非接触デリバリー」にも取り組んだ。利用者が注文時に備考欄にその旨を記入することで、いわゆる「置き配」にも対応できるようにし、LINE Payなどによるキャッシュレス支払の促進にもつなげた。ステイホームの流れから出前館のテレビCMなどへの出稿量を増やし、若者向けにYouTubeやSNSでの拡散プロモーションも展開して、デリバリーの一般への浸透も図ったとのこと。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス