デジタル一眼をウェブカメラ化するだけでは飽き足らない人には、シネマ画質での環境構築もオススメしたい。
先述のOBSには、Logで収録された映像にLUTを当てる機能が搭載されている。通常、カメラで撮影される動画は、明るいところから暗いところまで(この幅をダイナミックレンジと呼ぶ)を一度に収録することが難しい。Log収録では、幅広いダイナミックレンジを特殊なガンマカーブで記録し、LUT(ルックアップテーブル)と呼ばれるデータを使って、特定の色域に変換することができる。狙った色味へのカラーグレーディングがしやすいため、映像業界などでよく使われている。
最近では、市販のカメラにも搭載されるようになり、ソニーは「S-Log」、パナソニックは「V-Log」、キヤノンは「C-Log」、富士フイルムは「F-Log」と、各社が独自のLog形式を持っている。特に、ソニーはLog対応カメラを最も販売してきたメーカーでもある。2014年に発売したフルサイズミラーレス「α7S」「α7 II」、2016年発売のコンパクトカメラ「RX100m4」あたりからS-Log対応モデルを発売している。
OBSでは、「.cube」というBlackmagic Designの動画編集・カラーグレーディングソフト「DaVinci Resolve」用のLUTファイルを読み込むことができる。今回は、ソニーが配布している「S-Log 2」から「Rec.709」という業界標準の色域にコンバートするLUTを使用し、「シネマティックビデオ会議」を試してみることにした。
ここではATEM Miniを利用した場合の想定を紹介する。まず、カメラの設定からだ。ソニーの場合は、「ピクチャープロファイル」からS-Logを選択する。「PP7」がS-Log 2、「PP8」「PP9」がS-Log 3だ。一覧からPP7を選択し、露出を2段上げれば準備OK。OBSを起動し、「ソース」から「映像キャプチャデバイス」を選択し、名前を「ATEM Mini」と入力して新規で追加。デバイス一覧から「ATEM Mini」を選択するとカメラの映像がプレビュー表示されるので、そのままOKをクリックするとソース一覧にATEM Miniが追加される。細かいが、「詳細設定」で色空間を「709」、色範囲を「全部」にするとベターだろう。
ここからLUTを当てる作業だ。ソース一覧にあるATEM Miniを右クリックすると、「フィルター」という項目が出てくる。そこから、用意したLUTファイル(今回は『From_SLog2SGumut_To_LC-709_.cube』をチョイス)を参照すると色味が変わることに気づくはずだ。あとは、この映像をバーチャルカムとしてビデオ会議サービスに読み込める形に変換するだけ。プラグインが正常にインストールされていれば、「ツール」に「Virtual Cam」が追加されているはずだ。この項目から、バーチャルカムを立ち上げれば設定完了となる。
上の動画は、YouTuberのdrikinさんと、LUTを当てた状態でZoomでのビデオ会議をテストしてみたものだ。照明(SOONWELL FB-11)の色温度、ホワイトバランスの調整が完璧ではないため、色味が薄いトーンになってしまったが、服のディティール、肌のトーンなど、一般的なウェブカメラとはまったく異なる画質であることがおわかりだろう。この映像はdrikinさん側で録画したものであり、筆者の映像はZoomを通したものだ。配信データが圧縮されたとしても、いわゆるデジタル一眼ならではの“味”を感じることができる。
新鮮に見えるデジタルカメラのウェブカメラ機能だが、実は昔のデジタルカメラには割と搭載されていた機能である。私が初めて購入した富士フイルムの「FinePix F601」という2002年発売のカメラにもウェブカメラ機能が搭載されていたし、今はなき三洋電機の「Xacti」シリーズにも一部搭載されていたモデルがある。カメラのウェブカメラ機能搭載を個人的にはずっと待ち続けていたのだが、まさかこのような形で脚光を浴びるとは思わなかった。
外出自粛のなかでカメラを使う機会が減っていることもあり、ウェブカメラ化が新たな活用の場になれば、ライブ配信を始めたい人などを含め新しいユーザーを獲得できるチャンスにもなる。冒頭にも述べたが、カメラ最大手のキヤノンがデジタル一眼のウェブカメラ機能を提供したことで、カメラメーカー各社にも続いてほしいと願うばかりである。
【5月3日13時40分追記】ACアダプターの互換品を使用することで、故障した際に修理が受けられなくなる可能性がある旨を追記しました。
【5月4日14時30分追記】Cam Twistの解像度設定で、720pなどQVGA以外の解像度も選べることが判明しましたので、一部表現を修正しました。
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