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エストニアから「スタートアップ」が次々と生まれる理由--現地の日本人がエコシステムを解説

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 世界有数のIT企業や優秀なIT人材が集まる米国シリコンバレー。一方で、欧州のシリコンバレーを目指している小国が東欧にある。それがエストニアである。同国はいち早く電子的な行政システムを取り入れ、“電子行政”のブランディングに成功し、日本では「電子国家」と呼ばれている。

 エストニアは、人口約130万人の小国ながら、これまでに約988のスタートアップ企業がデータベースに登録されている。つまり、スタートアップを多く生んでいる国という側面があるのだ。同国を代表するIT企業であるSkypeをはじめに、オンラインカジノのPlaytech、海外送金のTransferWiseに続き、ライドシェアのBoltと、これまでにユニコーン企業を計4社も輩出している。

 なぜ、エストニアではスタートアップがこれほどまでに盛り上がっているのだろうか?その背景には国内外でのIT人材確保や教育、またインキュベーションデザインがある。

 4年前から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業した筆者(26歳)が、現地での生活やハッカソン、学生時代の体験などを通して、エストニアスタートアップのエコシステムデザインについて解説したい。ただし、あくまでも筆者の実体験に基づく内容であることをご理解いただきたい。

エストニアの「スタートアップエコシステム」とは?

 2013年以降、エストニアの資金調達は直線的に増加している。2018年には、前年と比較して21.4%増加し、スタートアップ調達額は約400億円にもなった。

 エストニアでスタートアップが盛り上がっている背景として、コミュニケーションツール「Skype」を生み出したSkypeの存在は大きい。Skypeはエストニアの歴史において最大の革新であり、その貢献度の高さから同社は国内でスターのように扱われている。

(引用:https://www.skype.com/ja/
「Skype」

 ただ、注意したいのは、国やメディアは「Skype = エストニア」というイメージで賛同しているが、実際のSkypeの創業者はスウェーデン人とデンマーク人であり、エストニアに本社が置かれていた会社でもないということである。

 エストニアの首都タリンがSkypeの開発に利用されたという背景があり、同社は創業者に加えて複数のエストニア人とともに設立されている。このことが現在のエストニアスタートアップシーンを語るのに大きく影響しているといえる。

 なぜなら、当時のSkype設立メンバーは、現在新しく生まれるエストニアスタートアップのエコシステム構築に再び投資という形で貢献しているからだ。たとえば、楽天も投資している言語学習アプリのLingivistは、元Skype開発者の1人が、創業者にアドバイスと最初の投資をしている。

引用:https://lingvist.com/
言語学習アプリ「Lingivist」

 Skypeの成功で多額の資金を得た人たちがそれを元手に新たな会社を興したり、若い世代に投資したりして、その受け皿としてコミュニティが誕生し、技術やノウハウ、人や資金を交流させて、コミュニティを育てる。そして、育った人たちがそれを繰り返す、という循環するエコシステムがエストニアには構築されてきている。その循環システム自体も比較的若い人たちで回されていることもポイントであろう。

 何度も起業を繰り返すシリアルアントレプレナー(連続起業家)が現れ、スタートアップの失敗確率を下げるノウハウが共有され、世界中の投資家から資金を集める。そのロールモデルができれば、それに憧れる人がどんどん出てくるのは当然であり、それは強い生態系になりやすい。

 また、多額の資産を得たSkype出身者が、お金だけでなくスキルや人脈も次世代に投資することで、わずか130万人しかいない小国をスタートアップで盛り上げ、それが若い世代へと波及し、さらに若い世代へ投資するという理想的なエコシステムデザインが出来上がりつつある。これは小国であることが1つのメリットとなっている。

 ネットワーク理論に六次の隔たり(Six Degrees of Separation)というものがある。これは「六人介せば誰とでも繋がれる」というものだが、今はインターネットのおかげで四、五次になっているとも言われている。東京の10分の1程の人口のエストニアでは3人程度で誰とでも繋がれるような感覚なので、容易に決定権のある人へリーチできるのである。スタートアップコミュニティにとって、多様性はとても重要であるため、様々な考えを持った人と簡単に繋がれる国の小ささは強みになるだろう。

豊富なイベントやアクセラレータープログラムも

 エストニアではスタートアップに関連したイベントやプログラムが豊富に存在する。娯楽がない代わりに、ハッカソンやネットワークイベントは毎日毎週のように開催されている。筆者は大学在学中から積極的にこれらに参加し、実際に現地ハッカソンで何度も受賞している。

現地ハッカソンの様子 現地ハッカソンの様子
※クリックすると拡大画像が見られます

 エストニア政府はFacebookやアリババなどの企業をライバル視しているのか、イーレジデンシー取得者同士のコミュニティを強化して、地域ごとのグループ向けサービスをそこから作り、Facebookのように交流を活性化して世界と戦っていく戦略をとっている。

 ハッカソンなどのイベントで優勝したチームには賞金だけでなく、1年間のメンタープログラムや投資家、必要な人材紹介などが保証される。そこから時間をかけて仕込んでいき、実際のスタートアップ企業として国一丸となってスタートさせるイメージだ。エストニアが多くのスタートアップを輩出する背景には、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育がこのように組み込まれていることも大きく影響している。

 実際、筆者が大学在学中には、アイデアソン参加後にチームを結成。講義やメンターから毎週フィードバックを受け、約3カ月のプログラムの最後に実際に投資家に対してピッチをしなければいけないため、それに備えて準備をする。優勝者は、タリン工科大学内のMEKTORY(学生と企業をつなぐ目的のイベントや企業主催のワークショップが実施されるインキュベーション施設)に半年間オフィスを借りることができたり、投資家やインキュベーターと繋がることもできる。

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