数年前まで、世界のスタートアップの中心地はシリコンバレーだった。しかし、今やスタートアップの盛り上がりは世界各国に波及し、様々な国と地域にスタートアップの中心地が構築されてきている。その中でも、最も勢いのある国の一つがエストニアだろう。
前回の記事でお伝えしたが、同国は電子的な行政システムを取り入れ、日本では「電子国家」と呼ばれている。国家が安全で信頼できる個人情報管理システムを提供する“OS”として機能し、その上でスタートアップという“アプリケーション”が実装された国だ。
また、スタートアップ自体をこの国の第一産業のように盛り上げ、世界中から注目されたことで、人口約132万人という小国にもかかわらず、すでにユニコーン企業を4社も輩出している。
4年前に日本から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業した筆者(26歳)が、これらのエストニアのユニコーン企業をご紹介しよう。
「Skype」について言及せずに、エストニアのスタートアップシーンについて語ることは不可能である。P2Pのオンライン通話システムであるSkypeは、実はエストニアから生まれたサービスだ。
そして、国への貢献度の高さから、エストニア国内で同社はスターのように扱われており、当時のSkypeのメンバーは現在新しく生まれるエストニアスタートアップのエコシステム構築に再び貢献している。Skypeはエストニア最大の革新なのである。
しかし、ここで注意していただきたいのは、国やメディアは「Skype = エストニア」というイメージで賛同しているが、実際のSkypeの創業者はスウェーデン人のNiklasZennström氏とデンマーク人のJanus Friis氏であり、エストニアに本社が置かれていた会社でもない。
では、なぜSkypeはエストニアが生んだというイメージがついたのだろう。それには、エストニアの首都タリンがSkypeの開発に利用されたという背景がある。同社は創業者に加えて、Ahti Heinla氏、Priit Kasesalu氏、Jaan Tallinn氏などのエストニア人とともに設立された。KazaaというP2Pテクノロジーを、Skype2人の創業者と共に開発し、その技術がのちのSkype開発に再利用されている。
その背景が、エストニアがSkypeを生んだ国として脚光を浴びた理由の一つであろう。Skypeは言わずと知れた、「ビデオチャット通話と音声通話の機能を備えたインスタントメッセージングアプリ」だ。2014年には、国際電話の約40%がSkype経由だったとされている。
同社は2003年の創業からわずか2年後の2005年に、eBayによって26億ドルで買収された。その後、2009年にSilver Lakeが統率する投資家グループにより買収され、さらに2011年には、Microsoftが同社を85億ドルで買収した。
ちなみにエストニア国内のSkypeオフィスは、筆者の母校であるタリン工科大学のキャンパス内に置かれている。
エストニア2つ目のユニコーン企業は、オンラインゲーム会社のPlaytech。ゲームソフトの開発・提供のみならず、事業者に対して、プラットフォームやサービスを提供したり、最先端の付加価値ソリューションを提供したりしている。
オンラインゲームとはいえ、その内容はカジノゲームがもともとメインだったようだ。会社自体の歴史は1999年からスタートしており、若いスタートアップが多く生まれるエストニアにしては、長く続く会社の一つでもある。
Playtechは、2001年に最初のカジノ製品を発売し、それ以来、デジタルゲーム業界向けの、ウェブ/モバイルアプリの世界最大規模の国際的デザイナー、開発者、およびライセンサーに成長する。そして、2006年3月には、約9億5000万ドルの評価でAIM市場に上場。さらに、2012年にはロンドン証券取引所に上場した。
今ではヨーロッパを中心に数多くの拠点を持ち、世界でも最大級のオンラインカジノゲームメーカーとして、その名は知られている。ただ、2006年のインターネットギャンブル施行法の成立後、同社の株式は1日で40%以上も下落した。
PlaytechもSkype同様、起業したのはエストニア人ではなく、イスラエル人のTeddy Sagi氏という人だ。彼は、Playtechの創業者であるだけでなく、ロンドンの代表的な市場「Camden Market(カムデン・マーケット)」のオーナーでもあり、過去には米経済雑誌のForbesで「世界大富豪ランキング・ギャンブル・カジノ業界編」の上位にランクインした経歴を持つ。
SkypeやPlaytechの歴史的背景とエストニアで開発を行おうとする人たちの様子を見る限り、「人材費を抑えて開発ができる拠点」としてエストニアがこれまで利用されてきた傾向が強いのかもしれない。
Playtechは、ゲームを様々なオンラインカジノやブックメーカーに卸しており、イギリス最大規模のブックメーカーであるウィリアムヒルや、同じくイギリス発祥で業界最大級のオンラインカジノBet365で遊ぶことができる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果