インキュベーション施設やアクセラレータープログラムはエストニアにいくつかあるが、その中でも代表的なTehnopolについて紹介したい。Skypeの本社は現在ルクセンブルグにあるが、エストニア国内のメインオフィスは、筆者の母校であるタリン工科大学に隣接する場所にある。このタリン工科大学はSkypeに続く企業を育てるべく様々な仕掛けをしている。
Tehnopolの歴史は1998年にさかのぼる。当初はタリン工科大学が設立した施設で事業サポートと起業する人々のネットワークを作ることが目的だった。現在はエストニア政府、タリン政府が参画し、機能がどんどん強化されており、新しいスタートアップが生まれるための仕組みの基盤を構築している。
テック系イベントやビジネスイベントを通して、起業家が作りたいサービスや世界観に賛同するメンバーを集めたり、繋げたりする。さらに、それに必要な資金や人脈を供給したり、トレーニングをしたり、ビジネス知識をメンタリングしたりもする。実際にハッカソンなどのイベントに出していくことで、世間の反応や問題点を洗い出し、長いスパンをかけて洗練していく。施設内にはコワーキングスペースも設けており、登録者や企業は様々な人と繋がることも可能だ。
Tehnopolに登録されると、最初のシード投資先を見つけたり、市場に到達するために1年で最大1万ユーロ相当の専門知識がチームに投資される。
より具体的には
といったサポートを受けられる。
加えて
といったオファーもある。
こうしてTehnopolはすでに230を超えるテクノロジーベースの新興企業と協力している。投資額は1800万ユーロに達し、そのうち60%が現在も事業を続けている。特にICT、グリーンテクノロジー、ヘルステクノロジーの分野について活動はアクティブなようだ。
もちろん、インキュベーション施設に登録したり、アクセラレータープログラムに参加しただけで成功するわけではない。むしろ失敗するチームの方が多い。ハッカソンで優勝したチームが実業でうまくいっている例はまだほとんど見たことがない。このようなシステムはあくまできっかけや方法の1つであり、それ自体は本質ではない。
重要なのは、そういった機会を国や団体が国民に提供して、それが当たり前な社会を組み立て、自然と国民のリテラシーやモチベーションを底上げしていることだ。人々はそれを自由に利用し、成功した人はまた次の世代へ同様の投資を行うといった、エコシステムを実現していることだろう。
齊藤大将
Estify Consultants OÜ 代表
エストニア・タリン在住。2016年にタリン工科大学物理学科入学。在学中にはエストニア小型人工衛星開発や修士研究に従事しつつ、コンサルティング会社を設立。現地ハッカソンでの受賞多数。2018年夏に同大学卒業後、エストニアでビジネスをする人のサポートを続けつつ、日本アニメなどのコンテンツ文化を広めるために、ベラルーシのコスプレイベントで審査員を務めたり、コンテンツ制作するなど、文化事業での活動を始める。国内外での登壇やワークショップなどの活動も精力的に行う、数々のスタートアップが熱視線を送る若者。タリン工科大学テニス夏大会で2度のチャンピオン。
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