「早期にテクノロジーを活用していくためにも、また業界、業種の境界があいまいになる中で、あらゆる企業と協調していく意味でも、オープンイノベーションという考え方はマスト。やるかやらないかの議論ではなく、必ずやらなければならないという認識でこの3年間取り組んできた」と橋本氏。「自分たちだけでは過去の成功体験や常識にとらわれ、既存の枠を超えていけない。枠を飛び超えるためには、外と組むオープンイノベーションが必要」というのが、これまでの経験から行き着いた答えだという。
京急では「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」とのビジョンを掲げ、ベンチャーキャピタルとともに、スタートアップの掘り起こしからフェーズに応じたアプローチを展開している。たとえばシード期にはベンチャーキャプタルを通じた間接投資、アーリーステージやミドルステージにはアクセラレータープログラムを通じた協業や実証実験、さらに互いにメリットがあれば直接投資も行っている。
アクセラレータープログラムではスタートアップに対し、「鉄道会社の経営基盤を活用してもらうことで、新しいイノベーションを社会実装していくこと」を価値として提供。またプログラムの実施にあたっては、経営陣や事業部門を積極的に巻き込む工夫もしているという。「採択企業を決めるときや評価するとき、必ず経営陣に入ってもらって、京急グループとしてコミットしている」(橋本氏)。そうすることで事業部門の協力も得やすくなり、京急の強みである様々な顧客接点をスタートアップに活用してもらいやすくなるという。
京急のアクセラレータープログラムは、現在3期目を迎えている。これまでタクシー相乗りマッチングアプリの「nearMe.」や、傘シェアリングサービスの「アイカサ」、荷物一時預かりサービスの「ecbo」、ヘリコプターシェアリングサービスの「AirX Inc.」をはじめ12社と協業、8件の実証実験を行ってきた。また品川に、モビリティ関連のスタートアップが集うオープンイノベーション拠点も開設。スタートアップ同士や、他企業とつながれる場として活用されている。
「オープンイノベーションにあたって最も大切なのは、ビジョンを持つこと」と橋本氏。京急として何がやりたいのか打ち出すために、経営陣も巻き込みながら1年かけて考えたのが、前述の「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」というビジョンだ。「ビジョンを掲げることで、それを旗印にいろんな人に集まってもらえる。また同じビジョンのもとに集った仲間として、目指すところを共通言語として持ちながら取り組める」(橋本氏)。一方で大手企業の担当者には、スタートアップを理解して寄り添うことが求められるという。「情熱を持った担当者を企業とスタートアップの間におくことが、オープンイノベーション成功の突破口になる」と橋本氏は語る。
橋本氏は、「京急のオープンイノベーションがうまくいっているか、成否が問われるのはこれから。モビリティの先にどんな顧客体験を提供できるか。本当に必要なサービス、コンテンツを生み出していけるかというところに競争力が生まれてくる。最終的にはそれが、沿線に暮らす顧客の豊かなライフスタイルへとつながっていく」と語った。
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