全日本空輸(ANA)、京浜急行電鉄、横須賀市、横浜国立大学は2月7日、移動弱者を対象とした「Universal MaaS」の社会実装に向けた連携を開始すると発表した。
Universal MaaSは、障害者や高齢者、訪日外国人など、移動にためらいがある人でもそれを楽しむためのサービス。プロトタイプでは、車いす利用者向けと、駅や空港などの事業者向けに、それぞれモバイルアプリを提供する。
利用者側は、空港から目的地までの経路検索や、空港や駅構内・施設周辺のルート案内を受けられる。また、利用者側が使用している車いすなどの情報は、事業者側のアプリで確認が可能。利用者の現在位置情報の確認機能、空港や駅、施設への接近通知機能とあわせ、事業者側が車いす利用者に対応しやすい環境をつくる。
車いすを利用する人が電車に乗車する際は、まずは駅で乗車列車の調整、降車駅への連絡といった業務が必要となっていた。利用者側からは、窓口で時間が取られ予定が読めない、トイレに行きたくなっても途中下車できない、などの課題があるという。一方の事業者側でも、到着時間や必要な介助内容といった情報が不十分な場合があり、こちらも十分なサービス提供への課題がある。これは空港やホテルなどでも同様で、これによりハンディキャップのある人は、移動をためらってしまうという。
車いす利用者の立場からUniversal MaaSプロジェクトに協力している堀江奈穗子氏は、Universal MaaSによって乗車列車の調整などの時間が短縮され、「時間がはっきり読めて行動しやすくなった」と喜びを見せた。これまでは、駅や空港の窓口に着いた段階で、乗車のための調整が始まっていた。そのため、調整に時間が掛かることもあり、移動には数時間の余裕を取っていたという。
また堀江氏は、ルート案内にも期待を寄せた。バリアフリーに配慮し、エレベーターが多数設置されている施設では、逆にどのコースを通れば負担が少ないのかがわかりづらいという。今回のアプリでは、実際に車いすが通れるルートを実地調査し、最短ルートを提示。利用者の負担削減を実現している。
全日本空輸 代表取締役社長の平子裕志氏は、Universal MaaSの取り組みについて「1企業だけでは限界がある。産学官のシームレスな連携が必要だった」と述べ、「事業者側だけでなく、利用者と一体となって作り上げるものと確信している」と期待を寄せた。
京浜急行電鉄 取締役社長の原田一之氏は、「駅から一歩出た途端に段差がある、などの問題もあり、駅だけがバリアフリー対策をすればいいわけではない」とし、「全ての交通が連携していかなければ、移動がスムーズな世界にはならない。行政とも連携し、規制も取り払って連携する必要がある」と語った。
原田氏はさらに、「京急沿線では人口減少などの課題が顕在化してる。この取り組みが移動をためらう人の助けとなり、観光客の回遊性向上に繋がるものと期待」と語ったほか、今回の連携で都市の課題解決モデルを共に創造し、全国で採用されるモデルを作り上げていきたいとの考えを示した。
各者は、さまざまな利用者や各事業者での試用を重ね、2020年度内の社会実装を目指す計画だ。
このUniversal MaaSを考案したのは、全日本空輸 MaaS推進部の大澤信陽氏だ。大澤氏は、90歳を超えて車いす生活となっている自身の母親が、「他人に迷惑を掛けたくない、嫌な思いをしたくない」との思いから、孫へ会いに旅行することをためらうしていたと、そのきっかけを説明した。
車いす利用者が交通機関やホテルなどの施設を利用する際は、電車の上下車や車いすの機内持ち込みなど、事業者側と調整をする必要がある。しかし利用者にとっては、この点がネックとなってしまい、移動をためらうポイントとなっていた。大澤氏は、「ANAやホテルは、そういった情報を最初に入手する場所にいると気づいた。その情報を、他の事業者や施設に伝えればいいのではないか」と考えたという。
利用者自身で入力した情報により、自身の移動がスムーズになること、またサービス提供側も効率良く業務を遂行できることは、ユニバーサルデザインに当たるとの思いに至ったという大澤氏。「移動に不自由を感じる大勢の人が、移動を実現することで笑顔や生きる証、生き甲斐を得てもらいたい」と考え、このユニバーサルデザインとMaaSを掛け合わせたUniversal MaaSをANAの社内ベンチャープログラム「ANAバーチャルハリウッド」に応募。これが採択され、2018年度より活動を始めた。
今回提供するアプリは、車いす利用者向けのものとなっている。しかし大澤氏は、音声入力や目線入力など、さまざまなハンディキャップを持つ人でも利用できるアプリの構想を説明。また、「アプリが答えではない」とも発言しており、さまざまな観点からアプローチする姿勢を見せた。
「障がい者や健常者という言葉を調べると、非常に曖昧」と語った大澤氏。ハンディキャップが無い人でも、筋肉痛となれば移動をためらうことを例に挙げ、それを「移動躊躇層」であると説明した。
その上で、「車いす用だったエレベーターはスーツケースを持つ人にも使われ、便利になっている。そのようなMaaSを作りたい」とし、ユニバーサルデザインで作り上げるMaaSによって、誰もが移動を諦めない世界の実現を目指したいと語った。
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