次に、三菱電機 未来イノベーションセンターのグループマネージャーの山中聡氏が、三菱電機の取り組みについて語った。
5年前に未来イノベーションセンターを設立した際、本間氏に手伝ってもらったという。「本間さんにフレームワーク通りやれと言われても、できなかった。最初は新規事業のことを何もわかっていない状態で、1年ぐらいで頓挫しかけたが、5年間やり続けてきたことは結果として大事なことだった」と山中氏。
未来イノベーションセンターは、開発本部の中にあるデザイン研究所の下に作られた組織。かなり階層の深いところにある位置付けだ。
「通常、こういう部署は経営企画室の直下に作るが、三菱電機では、もともと開発部門で各部署の相談を受けたり、技術開発をしていたため、開発部門の中に設けた。この部署で研究までできるのはいいことだと思っている。ただ、開発本部で研究もするため、自前主義を地で行くような組織。我々の部門だけがスタートアップとのオープンイノベーションを進めており、開発本部にいながら、外から技術を持ってきて、各部署に紹介していると周りから敵視されている(笑)」と山中氏は語った。
今は2つのフレームワークで活動しているという。1つは、インバウンド型オープンイノベーション(テックソーシング)。各事業本部に対し、何が欠けているのかをインハウスコンサルティングなどをしながら明確化。社外のアクセラレーターやベンチャーキャピタルなどとベンチャー企業を探して、最終的には共同研究や実証実験を行う。
もう1つは、研究所との取り組みとなるアウトバウンド型のオープンイノベーション。研究所の技術を外のベンチャー企業と連携して、新しい事業や事業機会に取り組んでいる。スタートアップとPoCなどをやりながら共同研究や実証実験を行っている。
未来イノベーションセンターの役割は、事業本部や関係会社とスタートアップをつなぐ橋渡しだ。「事業本部の人たちは既存のオペレーションを回しているだけなので、PoCもビジネスモデルもわからないため、そこをちゃんと通訳する。またスタートアップには、なぜNDAに時間がかかるのか、事業本部側はどう思っているのか、など直接聞けない部分を伝える役目を担っている。これをボトムアップ的に始めている。ここ3、4年で事業本部の認知度も高まり、しっかりサイクルが回せるようになった」と山中氏は語った。
ここからは本間氏がナビゲーターとしてパネルディスカッションが行われた。
――新規事業創出活動でうまくいっていることとは?
峯藤氏 新事業創出活動という定義が大変で、うまくいっている、いっていないは受け手の感情や物差しに依るところが大きい。特に三菱電機の場合は、“新規”と大々的に掲げようとすると、既存の事業本部の方々からの反発がある。そのため、あえて新規事業ということを表に出さなかったり、既存事業の延長線上のような言い方をしながら潜って取り組んでいる。成果が出てから新規事業というタグを付けるやり方だ。
山中氏 社内から声がかかるときは、何かスタートアップを紹介してほしい、と言われる。でもよくよく聞いてみると、スタートアップを探してほしいのではなく、事業的に課題を抱えているだけということもある。その部分を我々のチームがしっかり掘り下げて、その結果スタートアップにつなぐことも、社内の違う部署とつなぐこともある。本来の課題に立ち返ることが、うまくいっていると思う。
――大企業のコンサルをする際、新しい事業を起ち上げるときは、アイデアレベルまでを社内で検討し、実務に入る段階で別会社化している。スタートアップはだいたい2~3人だけで始めるが、社内の組織だと「会社が助けてくれる」という甘えが生じやすい。別会社化することで、スモールスタートではじめて、外部から資金調達しないとつぶれるという状況を意図的に作り出している。別会社化すると、と本体のからの意思決定は必要なくなるため、意思決定を早くする意図もある。
峯藤 確かに大企業の中にいると自分自身にかかっている人件費はあまり意識をしなくて済む。数カ月取り組んで成果が出なくても、会社は潰れない。いいことでもあるし、悪いところでもある。
――イノベーションの組織で苦労することは?
峯藤 基本的に製造業はオペレーションがすべてで、既存事業、フレームワーク、業務から構築されているため、少しでもはみ出ようとすると、何故こんなことしているの? と問われる。我々が気をつけていることは、まず既存のオペレーションがどう回っているのかを理解すること。経理や契約業務を基礎から学び、社内担当者と対等に話せることが重要だ。
――マネジメントする立場として苦労することとは?
山中氏 本間さんはトップマネジメントが大事と話していたが、三菱電機ではトップマネジメントが弱い。しかし、未来イノベーションセンターという組織が我々には必要だと思っているし、どんな風に開発本部長に伝え、社長まで上げるのか。そのための仕込みは必要。それが楽しさであり苦労でもある。
峯藤 トップマネジメントが弱いと言うと誤解を招くかもしれないが、基本的にはオペレーションの中ですべてが完結するようになっており、トップが変わっても現場が動ける組織として完成している。現時点では新しいことがしにくいというデメリットもあるが、そういう組織体制になっていると理解して欲しい。
――最後に最近のイノベーションの潮流は。
峯藤 技術ベースでスタートアップを立ち上げる企業が多い。大企業は、今までマーケティングや企画が重要視されていたが、最近はコーポレートR&Dのような研究開発組織が事業をデザインし、技術を開発してプロトタイプを作り、世の中に出していく。一体型のリーンというイメージだと思っている。
山中氏 今までは、シェアリングサービスなどビジネス初のイノベーションが主流だったが、最近はディープテックなどに投資を始めた。海外でもそういうスタートアップが増えてきている。中国ではディープテックに投資するファンドも出てきており、今その辺りが熱い。三菱電機のような研究や技術を大切にする会社としては、いい流れだと感じる。
峯藤 海外のスタートアップの方と話しをすると、技術者であってもファイナンスの話ができたり、投資回収の意識を持っていたりと、自分の専門外の知識を1つでも多く身につけようとする姿勢がある。かつ技術にも優れている。
――海外へ行くと、エンジニアであってもマーケティングを理解していたり、ベンチャー企業や経営者としっかり会話できる方が多い。日本もようやくその領域へ来ているのではと思う。今後のみなさんに期待したい。
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