KDDI∞Labo中馬氏が語る5G時代のオープンイノベーション--「∞の翼」で “新産業の共創”を

 KDDIは、2011年に国内携帯事業社初のインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」を発足。2012年には、コーポレートベンチャーファンド「KDDI Open Innovation Fund」を立ち上げた。さらに、2019年4月から随時募集している「5Gプログラム」では、国内大手企業46社が集う「パートナー連合」とともに、スタートアップの支援や5G時代の事業共創に取り組んでいる。

KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏
KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏

 そして2020年3月には、いよいよ5Gの商用化がスタートする。超高速・大容量な通信が可能になることで、スタートアップと大企業の事業共創やオープンイノベーションは今後どう変わっていくのか。KDDI ∞ Labo長の中馬和彦氏に話を聞いた。

PoCから「本気の事業共創」へ

——KDDI ∞ Laboは2011年から進化を続け、イノベーションへの向き合い方も年々変わっている印象を受けます。改めて、現在の活動について教えてください。

 KDDI ∞ Laboは、スタートアップを支援するためのアクセラレーターとして2011年に始まりました。パートナー連合と呼ばれる大企業のアセットやノウハウと、スタートアップが提供する新しいサービスや技術を組み合わせて、事業共創を目指すプラットフォームです。

 当初はKDDI単体で始めたスタートアップ支援プログラムでしたが、賛同企業の輪が広がり、現在46社の国内大手企業にご参加いただいています。いま大企業で、オープンイノベーションはブームです。この1年だけで、パートナー企業は14社も増えました。

——1年で急増していますね。世の中の潮目が変わってきたと感じますか?

 そう思います。これまでは、大手広告代理店やテレビ局など、サービス業やITに強い企業が多かったのですが、最近では金融や製造業もかなり増えました。

 「現状のままの成長曲線では厳しい」。これは、どの企業も共通認識です。経営企画の中に新しい室を設置したり、新規プロジェクトを立ち上げたりするなど、オープンイノベーションに対する積極姿勢を感じます。

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 しかし、オープンイノベーションとは具体的に何をやるのか、事業共創とはどうやって進めるのか、メソッドが不足している大企業が多い印象です。いろいろと検討した結果、最終的にKDDI ∞ Laboに辿り着かれた企業もあります。

——KDDI ∞ Laboの活動で特に工夫していることは何でしょうか。

 毎年やることを変えていますが、昨年度からはPoC(Proof of Concept:概念実証)を禁止しました。せっかく数ヶ月に渡り一定のリソースを割いて取り組んでも、PoCを実施した結果を発表したあと収縮するのを見て、「PoCは事業共創なのか?」と考えたときに、私はちょっと違うのではないかと思ったからです。

 また、年次テーマを決めた採択もやめて、通年随時募集に変更しました。スタートアップを支援することに変わりはありませんが、大企業の課題ありきでスタートアップのアイデアや技術を採用して事業を共創する方向に切り替えまして、常に事業の種を探していけるようにしています。

 「∞の翼(無限の翼)」と呼んでいますが、右側に大企業がいて、左側にスタートアップがいて、双方1社対1社ではなく複数社同士で一緒に新しい産業を共創することを、いまは目指してやっています。

シナジー問わない「スタートアップファースト」を徹底

——KDDIならではの、スタートアップ支援の強みはありますか?

 僕らは、基本的にKDDIとのシナジーを問いません。たとえば、「auのお客様だけとしかビジネスしない」とした瞬間に、成長を阻害しているので、オープンイノベーションとしてそもそもおかしいと思っています。

 社長の高橋(KDDI代表取締役社長の高橋誠氏)は、「スタートアップファースト」だと、よく言っていますが、スタートアップがまず中心にいて、彼らのビジョンに共感し、僕らのアセットを掛け算することでより大きくなるポテンシャルがある人を応援しようという考え方です。

 新しいものとは、自分たちの価値観を覆して起こるものです。オープンイノベーションで苦労されている話を聞くと、本業の周辺領域を手がけてコンフリクトした、経験上の先入観が働いて、「これはない、あれはない」という決めつけが起きたといったことがあるようです。

——なぜ、大企業でありながら、KDDIは自社とのシナジーを求めないスタイルを貫けるのでしょうか。

 ひとえに社長の高橋が、「EZweb」を立ち上げるときに築いた体制が、いままで受け継がれていることが大きいです。彼は「これからは携帯電話事業者が、コンテンツに接するようになる」と考え、音楽レーベルやテレビ局の方々と一緒に新しいことをしていくために、ドレスコードやワークスタイルを彼ら寄りに変えていき、KPIも本社とは別のものを取り入れました。それが今ではライフデザインになり、何千人規模にまで成長したのです。

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——すごいですね。まさにオープンイノベーションの先駆けでは?

 「自分たちのスタンダードではなく、外のスタンダードに自分たちから合わせていく」という考えです。かつ、彼はコラボレーションの人間で、そのとき旬な人と、相手が小さかろうが大きかろうが対等に組んで、一緒に新しいものを生み出してきました。

 こうした文化が15〜6年前から、脈々と続いているわけです。僕はKDDI ∞ Labo長のほか、投資の責任者でもあり、KDDIが新しいビジネスフィールドを広げていくためのアライアンス戦略も担っていますが、「対等」のスタンスは徹底するよう心がけています。

xR領域の次は、「リアル系」に注力

——前任の江幡智広さんからLabo長のバトンを引き継いで2年が経ちますが、どのような変化がありましたか。

 これまでのオープンイノベーションは、インターネットの世界の話でした。いまはインターネットとリアルが融合してきて、BtoBの側面が強くなっています。しかし、リアルも含めた新しいイノベーションやビジネスモデルを、ゆくゆくはBtoBtoCに繋げていかなければと考えています。消費者にベネフィットがあるものでなければ、やはり大きなビジネスにはならないので。

——投資スタイルはどのように変化しましたか。

 これまではゲームやコンテンツなど、インターネットの特定領域を支援していましたが、いまはリアルも含めてほぼ全ての領域が投資先になってしまいます。しかも、どれが当たるか分からない。

 逆にいうと、僕らが分かるものでは駄目。「あるところまでは理解できるけれど、そこから先は見えないな」というものに全張りして、伴走しながらいけそうだと判断したらメジャーに入れていく、勝負をかけるところは一気にドンと投資するようにしています。

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——特に注力している領域はありますか。

 1つはxRです。VTuber、VRの会議システム、コンテンツなど、プラットフォームレイヤーからコンテンツレイヤーまで、2019年はおそらくKDDIが日本で一番、xR領域に投資したのではないでしょうか。

 もう1つは、不動産、ホテル、街、列車、農業といった「リアル系」で、今後の注力領域です。特徴的な事例は、シェアフロント型コンパクトホテルを展開するHosty(ホスティ)さん。訪日外国人向けの完全無人ホテルで、僕らのITが生き、IoTを提供でき、クレジットカード登録でau Payを使えば両替せずに観光もできる、エコシステムになる可能性を秘めている点は面白いです。

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