2月18日と19日に開催されたビジネスカンファレンス「CNET Japan Live 2020」。初日のキーノートセッションに、5Gサービスの開始を目前に控えたKDDI 経営戦略本部「KDDI DIGITAL GATE」センター長の山根隆行氏が登壇。デジタルトランスフォーメーション(DX)やイノベーションを実現する組織に必要となる事柄について、自社での取り組みを交えて語った。
冒頭で山根氏は、通信領域のイノベーションである5Gに言及。「大容量データを一瞬でダウンロードでき、通信の遅延が極小化され、端末や通信につながるデバイスの数が圧倒的に増えるようになる。また、今までは通信といえば携帯電話が中心となっていたが、これからは家電や車など、様々なものが同時につながるようになる」と、5Gの世界観について解説した。
5Gはスペックが注目されることが多いが、「本質は、量、距離、数といった制約からの解放。それにより、現実空間とサイバー空間が近づいてくる。4Gまでは通信と端末はセットだったが、5GではIoT時代となり通信は徐々にデバイスから分離して生活に溶け込み、通信を意識しない時代になる。5G時代は、それを使って自分たちの生活やビジネスをどう変えていくのかが重要になる」と山根氏は語る。
一方で、IT/デジタル化の現状については、ITによる効率化の「Digitization(デジタイゼーション)」、ITをいかに活用していくかの「Digitalization(デジタライゼーション)」の時代を経て現在はDXの時代に突入している。そして、Digitalizationによってさまざまな領域で従来の形が再構築され、生じている社会現象がDXであると山根氏は定義する。
「デジタル世界と物理世界が溶けあい境目がなくなって、組織や社会基盤が変わっている。デジタルはもはや特別なことではない。元々何かがあって、それにITやデジタルを当てはめて作り上げていくのではなくて、新しいことを始めるときに、ゼロ地点からデジタルがすぐそばに当たり前のものとして存在するようになっている」(山根氏)
このように5Gで現実とサイバーが近接し、DXでデジタルと物理世界が融合して境目がなくなってきている状況で、従来の、特に大企業内で既存のビジネスを行っている組織はどう対応していけば良いのか。
デジタルとビジネスを融合しようとしても、現状では難しい。まず、デジタルを扱うエンジニア問題がある。目的達成のためには、ビジネスが分かる人とエンジニアが一緒にビジネスを作っていかなければならない。米国では7割近いITエンジニアがユーザー企業内にいるため、「新しいサービスやプロダクトを作るとき、デジタルに詳しいエンジニアが隣の席や部署にいるのでチャレンジを始めやすい」(山根氏)という。
これに対し日本では、7割以上のエンジニアがITベンダーに所属している。すると、デジタルを活用するためにはまずベンダーに発注しなければならない。発注するためには社内で承認を取るための稟議書を書かなければならない。商品はこう、相手は誰、サービスの強みは…などと書いてやっと発注できる。
「新規ビジネスはあまりにリスクが多すぎて、計画を全部最初に固めるのは不可能。そんな中で稟議を書かないとベンダーに発注もできない。こういった負のスパイラルに陥っている企業は多い」と山根氏は指摘する。
もうひとつ重要なファクターとして、山根氏は日本企業の文化を挙げる。各国の企業文化を縦軸に「トップダウン」「合意型」、横軸が「フラット型」「階層型」という4象限で表すと、米国はトップダウンでフラットなので、意思決定とアクションが速い。日本は合意型で、階層型の構造の組織。それを理解したうえで、どうやるか。
「駄目な例」として山根氏は、かつてKDDIがデジタルを活用したサービスを開発する際にとっていた手法を紹介。曰く、まず企画段階では社内で収支計画を描いて、部門の調整をして稟議を上げる。OKが出ると次にITベンダーに発注し、ベンダーの進捗を管理する。完成して運用に移ると同時に販促をかけていくという形である。このやり方には、さまざまな問題があるという。
「企画の立場だと、後から必要になると稟議を通さなければならないので、最初に『とりあえず乗っけておこう』と詰め込みすぎになる。ITベンダーは、言われたことをすべて作ることがミッションで、顧客不在でひたすら作る。完成してリリースした頃には、市場は完全に変わる。マーケティング自体も変わり、人のし好についていけない。結果、出したはいいが全然売れない」(山根氏)
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