大企業で新規事業が“難航”する理由--それを覆したKDDI流の組織メソッドとは - (page 2)

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サービス開発の手法と組織をアジャイル型に刷新

 そこでKDDIは、サービス開発の方法を変えた。Agilityの高いサービス開発、つまりアジャイル開発である。通常の開発方法はリスクが大きすぎるので、小さく作って何度もリリースするスタイルに変更。経営的な視点でも、小さくリリースすると小さいながらも売り上げが立つので、サンクコスト(埋没費用)が1回回収できるというメリットがあるとする。

 ただ、それを現状の企業文化のなかでやろうとすると無理だったので、組織もアジャイル開発型に合わせて変えた。元々企画部と開発部と運用部、それぞれミッションがばらばら。企画部は、ビジネスの成功がミッション。開発部は、企画部からの発注を期日通り守ること。運用部は、できたサービスが障害を起こさないこと、クレームがないこと。それだとうまくいかないので、各部門の人たちを1つのチームに入れて、そのチームにミッションと権限を与え、スモールチームで自律的な開発を行う形に変えたのである。

階層組織での管理型開発からスモールチームでの自発的開発にシフトした
階層組織での管理型開発からスモールチームでの自発的開発にシフトした

 開発チームにはまず、「何を作れ」ではなく、「こんな価値を実現してくれ」という発注が来る。それをメンバーの中で話し合って、今週何をするか決めていく。決まったら1週間でモノを作って1回リリースし、ユーザーからフィードバックを得てまた翌週何を作るかを決める。これを完成まで繰り返していく。

 デジタル時代のサービスには、「誰のどんな課題を解決し、幸せにできるかが求められる」と山根氏はいう。そこで企画は、「デザイン思考」に基づいて行っている。サービスを作ったらどんな人が使ってくれるのかを細かく想像していくほか、街中に出てインタビューもする。インタビューは、人の深層心理を探る「共感インタビュー」というもので、答えてくれた人たちの価値観を組み合わせて潜在的な価値を見出していく。

 最初は5人の1チームで始めたが、通常の開発よりも期間が3分の1、コスト半分程度でできるという成果が確認できたため、今は200人の20チームに拡大しているという。そこからは、電気の見える化サービスのアプリ「auでんきアプリ」などが誕生している。

5G/DX時代のサービス開発拠点「DIGITAL GATE」

 もう一つ大事なのは、何かをする時にゼロから作ることはないということ。つまり、オープンイノベーションである。その文脈でKDDIは、5G/DX時代のサービス開発を顧客やパートナーと一緒に実施する共創スペースとして、東京・虎ノ門に「KDDI DIGITAL GATE」を開設している。「KDDIが6-7年かけて取り組んできたことを、法人顧客のビジネス開発のために一緒に行っている」(山根氏)という形だ。

2018年9月に東京・虎ノ門に開設した「KDDI DIGITAL GATE」
2018年9月に東京・虎ノ門に開設した「KDDI DIGITAL GATE」

 DIGITAL GATEでは、ユーザーとKDDIのエンジニア、ファシリテーターが小規模のチームを組み、アジャイル開発やデザイン思考を活用して、企画、プロトタイプ開発・検証からサービス展開の判断まで3-5週間のサイクルで回していく。

 プロダクトは、短期間でユーザー中心にデザインしていく。まずワークショップを開き、皆でサービスを利用するユーザーにとっての課題や価値を見極める。開発は、「価値の実現」をタスク分解してやることを決め、全員で同じコード開発をする「モブプログラミング」で行う。出来上がったものは、機能ではなく価値の実現で判断する。プロトタイプは現場に持っていき、エンドユーザーに見てもらって翌日に改善するというサイクルを繰り返す。この間には仕様書も再稟議もなく、スピード感をもって開発できる。

KDDIメンバーとの共創アジャイル開発で早期サービス開発を実現する
KDDIメンバーとの共創アジャイル開発で早期サービス開発を実現する

 「サービスを考えるときに最初からデジタルがある状態で考えると、こういうことができる」(山根氏)のである。またその際に、DIGITAL GATEには5G環境をはじめとするKDDIのリソース以外にも、パートナーのIoTやクラウド、AI、セキュリティなどの技術が集まっているので、開発の手間を省ける。

 講演ではアジャイル開発が奏功した事例として、転職サービスのパーソルキャリアとの開発事例を紹介。同社は、企業の人事部向けサービスとして、中途採用者のモチベーションを見える化するサービス開発を企画。担当者が毎朝、虎ノ門からプロトタイプを持って企業の人事部を回り、意見を聞いて夕方戻ってきて翌日の開発にフィードバックさせていた。元々は大企業向けに売ることを考えていたが、中堅中小企業の方が中途採用者が抜けた際の影響が大きいことなどから、サービス開発の方針をピボットしたという。顧客の真のニーズに近づいたサービスを開発できた事例だ。

パーソルキャリアは開発サイクルを回す中で方向性を変えて成功を収めた
パーソルキャリアは開発サイクルを回す中で方向性を変えて成功を収めた

 サービスは、その後約5か月の内製開発を経て商用サービス「HR Spanner」としてベータ版をリリースし、数多くの企業が利用しているとのこと。

 ほかにもDIGITAL GATEには、開始約1年半で約360社が来場し、案件としても30件以上の事例があるという。取り組みを拡大すべく、拠点を沖縄と大阪にも拡大している。

大企業には大企業なりのやり方がある

 DX時代の新規事業創出は、「大企業がスタートアップと同じやり方で正面から戦う必要はない」と山根氏はいう。そこで同氏は、DIGITAL GATEの活用を絡めて下記のように提案した。

  「大企業が新規事業に挑戦する際には、大企業の強みである既存のアセットをすぐに使える状態にしておくことが大切。そして、既存事業と新規事業を分け、DIGITAL GATEでマネジメント重視型よりも自律型かつAgility重視のスタイルで、限られたリソースの中で少しでも多くのものを生み出す」とし、「生み出したものの中から優れたものが出てきたら、それを拡大させる。拡大させるためには、事業部に持ち帰る際にモノだけ渡すのでなく想いを持った人ごと行かせること。そこで既存事業として拡大し、それをまたアセット化して次の新規事業開発から活用できるようにしていく。このエコシステムを構築すれば大企業の強みをフルに活かしながら新規事業開発と既存事業の拡大が両立できる」(山根氏)とし、講演を締めくくった。

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