わずか130万人の電子国家「エストニア」が生んだ4社のユニコーン--現地の日本人が解説 - (page 2)

国内最有力の送金サービス企業「TransferWise」

 海外送金で気になる点は、送金手数料と手間である。そこに目をつけてエストニアで立ち上がったP2P送金サービスの企業がTransferWiseだ。

 TransferWiseは、2011年1月にTaavet Hinrikus氏 と Kristo Käärmann氏が創業した。現地では、「Skypeの時代は終わった。これからはTransferWiseだ」と言う人もいるほど、エストニアで最も期待されている企業の1社である。

 「TransferWise」は、一般的な銀行と比較して最大8倍手数料が安い、海外送金サービスだ。その仕組みを簡単に説明すると、世界中にある自社の銀行口座を利用して、その口座間で数字を移動させるイメージだ。実際の送金は、国を超えないということである。

 具体的には、送金人が自分の口座から自国にあるTransferWise口座に入金すると、TransferWiseが同額を受取人の国の自社口座から受取人の口座へ振り込む。そうすることで、送金手数料を下げ、送金効率を可能な限り高めているのである。

低価格送金サービス送金サービス「Transferwise」
低価格送金サービス送金サービス「TransferWise」

 創業者の1人、Taavet Hinrikus氏はもともとSkypeの初期の従業員だったという。そこでの経験が、彼に収益性の高いビジネス感覚を持たせたのだろう。

 しかし、TransferWiseも実はエストニア現地が本拠地ではない。本拠地はロンドンに置いておるため、「イギリスの会社だと思っていた」という声も筆者の周りでは少なくない。現在は、ニューヨーク、シンガポール、シドニー、そしてエストニアなど14箇所に事務所を構え、約2000人の従業員を抱える大きな企業に成長した。

 今後はインフラ整備にも力を入れていく方向で、銀行、信用組合、その他の金融機関がインフラストラクチャをTransferWiseのAPIに直接接続できるようにする米国の銀行向けサービスを開始している。これにより、米国での国際支払いに最速かつ安価に使用できるようになる。今後は、銀行との提携をメインに、各国へより画期的な国際送金サービスを展開していくのだろう。

若干19歳が立ち上げたエストニア版Uber「Bolt」

 「Bolt」(旧Taxify)は当時まだ19歳だったCEOのMarkus Villig氏によって立ち上げられた、シェアリングエコノミー配車サービスである。Uberと似たようなサービスとUI・UXであり、ピックアップ地点と目的地を設定すれば、アプリが計算した金額が表示され、車を選択すれば、反応のあったドライバーが迎えにきてくれる。

 他の配車アプリとの違いとしては、他のアプリの多くはクレジットカード決済にしか対応していないが、Boltは現金での支払いも可能であるところだ。現金支払いを受け付けている理由の一つは、東欧やアフリカなどのインフラが整っていない新興国をマーケットにしてきたことが影響している。

 また、Boltは配車サービスだけでなく、自社の車両管理システムを通常のタクシー会社にも提供している。既存のタクシー会社はこのシステムを利用して、通常通りサービスを提供することができる。Boltのシステムの利用料金は月額12~15ユーロほどと安価だ。これにより、Boltは各国のローカル企業とのパートナーシップもスムーズに行うことができる。

配車サービス「Bolt」
配車サービス「Bolt」

 例えばUberは、2016年にハンガリーで新しく導入された規制により同国から撤退せざるを得なかったが、Boltは現地のライセンスを持つタクシー会社とパートナーシップを結び、首都ブダペストへの進出を果たしている。

 各国の規制に可能な限り沿い、お互いの利点と意向をちゃんと理解する方が、相乗効果を生み出しやすい。各国の規制を遵守しながら収益を挙げられると同時に、わざわざ進出する国先でゼロからインフラを整えなくても済むため、コストを抑えられる。

 さらに、Boltの実現したい世界の一つに、ドライバーファーストにすることで、フェアな仕組み作りと、UXの良さを両立することがある。Uberはドライバーから取る手数料を20~25%に設定されているのに対し、Boltは10〜25%と低く設定されている。

 最近では、フードデリバリーサービスにも事業を拡大しているが、ドライバーに優しく、ということを第一に考慮しているBoltは、ドライバーや配達者への利益を高めに設定し、彼らを増やすことで高い配達効率を実現し、顧客の満足度やサービス普及につなげている。ドライバーへの支払いを高めに設定すると、短期的には自社の利益を減らすことになるが、その分サービスの普及は早まるため、そのバランスが大事である。

 また、Boltはプレスリリースで、2026年までにBolt輸送プラットフォームに自動運転車を統合するという目標を設定している。短期的には、Boltはエストニアのタルトゥ大学と協力して、適切な都市部で自動運転車を実施するようだ。基礎研究にも力を入れ始め、今後より事業が拡大していくことが予想される。

 このように、エストニアには現在4社のユニコーンが存在しているが、この4社以外にも勢いのあるスタートアップは生まれてきている。

 実際に、Skypeに貢献したエストニア人が、現在のエストニアのスタートアップシーンの盛り上げの立役者でもあり、若い世代へと資金や技術、経験を引継ぎ、政府を一緒になってサポートとブランディングをすることで、スタートアップエコシステムデザインをしている。これが本当の意味での「Co-Work」なのかもしれない。

齊藤大将

Estify Consultants OÜ 代表

エストニア・タリン在住。2016年にタリン工科大学物理学科入学。在学中にはエストニア小型人工衛星開発や修士研究に従事しつつ、コンサルティング会社を設立。現地ハッカソンでの受賞多数。2018年夏に同大学卒業後、エストニアでビジネスをする人のサポートを続けつつ、日本アニメなどのコンテンツ文化を広めるために、ベラルーシのコスプレイベントで審査員を務めたり、コンテンツ制作するなど、文化事業での活動を始める。国内外での登壇やワークショップなどの活動も精力的に行う、数々のスタートアップが熱視線を送る若者。タリン工科大学テニス夏大会で2度のチャンピオン。

Twitter @T_I_SHOW_global

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