特許を取りたいけど、どう進めるべき?--スタートアップのための「特許なんでも相談室」

大谷 寛(弁理士)2020年02月06日 08時00分

 新連載「特許なんでも相談室」では、スタートアップの方々からいただいた特許にまつわる質問や疑問に、大谷寛弁理士が分かりやすく回答していきます。第1回は特に寄せられることの多い、このご質問から。

Q.「サービスの反応がよいのでそろそろ特許について考えたいと思います。どう進めたらいいですか?日本では他に例のないサービスです」

A.「特許に取り組むのはすでに難しくなっているかもしれません」

キャプション

【解説】

 特許は、権利化を望む発明を記載した特許出願を行い、審査を通過することでなされます。その際の主な審査項目として「出願日において新しいか」という点があります。スタートアップの方に説明して驚かれることが少なくないのですが、自らの行為によって出願日前に発明が公開された場合にも、原則として新しさを失ってしまいます。

 たとえば、ローンチに先だってLPでサービスについて説明したり、潜在的な提携企業に事業内容を説明したりした場合、そこで説明した範囲で新しさが失われてしまいます。これは、特許制度というものが、これまでに知られていない新たなコンセプトを社会に開示することの対価として、一定期間そのコンセプトを支配するための排他的な権利を付与することを趣旨としているからです。したがって、サービスの反応がいいということですので、すでに顧客の目に触れていて新しさを失っている可能性が高いです。

 例外はあります。出願日前に自らの行為で権利化対象の発明またはその一部が開示された場合においても、その行為から1年以内であれば、審査上開示されなかったこととみなされることがあります。米国の制度ではこの例外措置が受けやすいのに対し、日本を含む米国以外の制度では、多くの場合、行われた開示行為のすべてを特定して定められた期間に手続を行うことが要求されます。

 ローンチとともに大きくプロモーションをしていくスタートアップにおいて、一切の漏れなく手続をすることの負担は大きく、あくまで例外として理解しておくべき措置と言えます。実際、必要な場合にはこの手続をするのですが、スタートアップにおいてすべての開示行為を把握できていないことが多く、漏れがないことを慎重に確認します。

 そもそも「新しさ」を失うとはどういう意味かという点もよく聞かれます。これは「守秘義務を負わない者が知らない」ことと理解して概ね問題ありません。よくあるケースは、顧客からのフィードバックをクローズドでもらい、プロダクトをアップデートしてから正式にローンチするという流れの中で、顧客に守秘義務を負ってもらうことで、新しさを維持して特許制度を利用する選択肢を維持しつつ、PMFを目指していくことができます。

 「クローズド」と言っても守秘義務がきちんと課されていない場合には開示したと評価されてしまうおそれが高いことから、注意が必要です。NDAは手間で煩雑という声を聞くことがありますが、積極的に活用したい場面ですね。

 また、「新しさ」は世界基準であることから、日本では他に例がなくても海外ですでにあるサービスを参考にしているような場合には、特許的な意味での新しさはない可能性があります。

 特許制度を利用して自社が生み出した新たなコンセプトを中長期的な権利として形にしていくことを優先するか、積極的に早期に世に打ち出していき、短期的な事業の成長速度を優先するかのバランスが問われることになります。

CNET Japanでは、スタートアップの皆様からの特許に関する疑問を受け付けています。ご質問がある方は、大谷弁理士のTwitter(@kan_otani)までご連絡ください。

大谷 寛(おおたに かん)

六本木通り特許事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。

2016年12月-2019年12月 株式会社オークファン社外取締役。

2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。

2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。

2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。

事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。

Twitter @kan_otani

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