企業内に数%しかいないイノベーターをどう育てるか--Relicが定義する育成手法「IRM」 - (page 3)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2020年03月03日 08時00分
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大丸氏:おっしゃる通りです。生活者の方から直で反応を得たいときは、クラウドファンディングとか、デジタル製品であればティザーサイトだけを作って、それで共感した人はメールアドレスだけ登録してくださいね、とすることで、どのくらいニーズがありそうかはわかります。

 あとは「会社のルールが厳しく、ターゲット顧客に提案して反響を確かめられない」という問題もあります。これは顧客に仮説検証しようとアポを取ろうとすると、社内の営業部門などから「その顧客に今重要な提案をしているので勝手な動きをしないでくれ」とか、「大事なお客様だからベータ版ですらないものを売ろうとするな」とか、茶々が入ってしまうという。

 そういうときは我々のような社外の人間からアプローチする形にすれば、社内の利害関係は関係ないですよね。社内を通してやろうとすると2カ月かかっても終わらないことも、社外からなら3日で検証が終わったりします。2カ月以上もかけていたら、その間に競合が動いてしまうので全然勝負にならないですよね。

 IRMという考え方はイノベーター本人が持つものではありません。イノベーターを取り巻く、サポーターや経営陣がIRMの考え方を理解していることが重要です。このIRMを実践する人たちがIRMの考え方を理解し、イノベーター人材が各フェーズで直面する課題を理解したうえで、壁を乗り越えていけるような支援や環境を会社として用意していくことが重要です。

どんな小さな会社でもイノベーター人材は存在する

——IRMの実践者は、現在はどういう役職の方が多いですか。

大丸氏:多いのは、既存の事業部ではなく、経営企画部の新規事業開発室みたいなところに、事務局という名前で相談窓口を作るパターンですね。もしくは各事業部内に新規事業開発担当のスタッフを置いている場合は、その事業部の長が予算執行権をもったり、課題解決のサポーターを担ったりすることもあります。あるいは戦略子会社を作って新規事業開発のみ進める部門をもつケースもあります。

 もちろん、IRM実践者を社内に置きにくい場合もありますから、そのときは社外メンターや、我々のような新規事業プロセスを支援する会社をパートナーにつけることをおすすめしています。

——これら6つのステップの中で、御社に対して依頼が多い部分はどれになりますか。もしくは全てを依頼するパターンが多いのでしょうか。

北嶋氏:まるっと依頼していただくケースが多いと思います。たとえばCRM的なマーケティング施策を打つときに、一部しか手伝わないとなると、顧客の状況に合わせた最適な施策を提案できません。

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 状況に応じていろいろな施策やソリューションを組み合わせてIRMを実践していかなければならないので、部分的なお付き合いだけだと統合的に展開して価値を出しにくいところがあります。我々としてはすべてのプロセスで横断的に支援することをおすすめしていますし、実際にそういうご要望が多いですね。

 ただ、会社によってはこういった新規事業開発のプログラムを自主的に何年も実施されていて、「この部分はできているけれど、ここだけは弱い」みたいな場合もあって、そういうときは部分的にお手伝いさせていただくことはあります。

 そういう意味では、仮説検証とプロトタイプ制作からのテストマーケティングが多いですね。このあたりは細かいノウハウの積み重ねが必要だったりするので、概念としては理解できていても、自分たちではうまく実行できないことが多いんです。

——もし全面的にサポートをお願いする場合、期間としてはどれくらいになるのが一般的でしょうか。

北嶋氏:同時に並行する事業案の数にもよるのですが、早くて3ヶ月〜半年程度ですね。ある程度アイデアの骨子があって、それをこれらのプロセスに乗せていくのであれば、半年くらいあれば十分かと思います。一方で、インキュベーション戦略を踏まえたIRMの全体設計や、各事業のアイデアや構想をゼロから練るところからご一緒する場合だと半年は厳しいケースもあり、トータルで半年以上〜1年近くかかることもあります。

——前回のイノベーション戦略の話とは違って、今回の話はすごく“人間臭い”感じがしますね。こういうところまでしっかり落とし込むんだな、と。

大丸氏:新規事業開発では、アイデアそのものに良し悪しを求めてしまうケースが多いと感じているんですけども、そもそもアイデアだけで差別化できることはほとんど無いですし、初期のアイデアはその後変わっていくものなんです。それを前提に考えると、どういう着想からアイデアにしたのかとか、どれくらいの熱量で実現に向けて走っていきたいのか、といった人間側の要素が一番の評価ポイントで、そこが成否を分ける要因になると思っているんですね。

 我々は、そういう人間をイノベーター人材と呼んでいるわけで、その人自身が気持ちよく走れるか、スタミナが切れずに最後まで松明を持ってゴールまでいけるか、というところが一番重要だと考えています。皆さんどうしても、そのアイデアが光っているかどうかで判断しがちなのですが、アイデアは変わるものだということを肝に銘じておいてほしいですね。

北嶋氏:事業1つ1つをグロースさせようとすると、事業リーダーというか、責任者にかなり依存するところがあります。そういうイノベーター人材はすごく希少なので、雑に扱うとすぐに枯渇したり、辞めてしまったりする。この層の流動性は非常に高いのです。

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 窮屈な会社だったらイノベーター人材がすぐ他の会社に移ってしまいます。オープンイノベーションも一緒で、いいベンチャー企業は引く手あまたで、お金を出すだけでは全然引っ張れない。外部のベンチャー企業と良い関係性を築いて、一緒の目標に向かって頑張れる。そういうIRMがしっかりできている会社でないと、きっといいベンチャー企業と組めないし、成果も出せないんですよね。

——イノベーター人材は1割程度しかいないというお話をされていました。話を伺っていると、その1割がいるだけでもいいのでは、と感じる会社もたくさんあるような気がします。そこにすら達してない会社は次のステップに進めないのでしょうか。

北嶋氏:これまでの我々の経験則からすると、どんな会社でも多少の前後はあれど、イノベーターや候補人材は一定数で存在するんです。全くゼロの会社なんてないんですよ。大企業だけじゃなく、皆さんがご存知無いような中堅中小企業でも、ご一緒させていただくと新規事業開発に適している人材は絶対に一定数はいるんです。それが創業者や代表であるケースは当然のことながら多いのですが。

 それに、ベンチャー企業だとすごく多いかというとそんなこともない。1つのプロダクトで急成長しているベンチャーだと、イノベーター人材が居たとしても、そのプロダクトのグロースやオペレーションに組み込まれてしまうことも多くて、自分でゼロイチの事業開発をやるチャンスが無い、経験したことがないっていう人も結構います。

 だからこそ、希少なイノベーター人材は大切に育てなければいけません。その人たちがちゃんと活躍できる風土や土壌が整っていなくて、半ば諦めていたり、途中で潰されていたりするケースがすごく多いのが問題です。

人材が会社を離れても、関係性を持ち続けられる方法を考えるべき

——たとえば他の会社でイノベーターとして活躍した人材を、どんどん自社に招き入れれば新規事業の成功確率は上がりそうですか。

北嶋氏:それは蟻の理論と一緒で、働き蟻だけ集めても結局一定割合はサボり出すみたいなことと近いと思っています(笑)。全然論理的ではないんですが、この1割というのが組織としての普遍的な黄金律みたいなものになっているのかな、と思っていますね。

 おそらくイノベーター人材が増えすぎると、逆にイノベーターを支えるフォロワーやIRM的な人が足りなくなって機能しなくなるのではないかと思います。それに、過去のトラックレコード(経歴)が必ずしもその人のイノベーター人材的な素質によってもたらされていないケースもありますので、そういう過去の実績や知名度の高い人を集めたところで機能しない、っていうのは仕方のないところもありますよね。

——それとは反対に、イノベーター人材として育ったはいいものの、会社を自分で立ち上げるなどして次々に辞めていく、みたいなこともあるのでしょうか。また、その場合会社として対策できることはあるのでしょうか。

北嶋氏:大企業ではまだ実例としてはそこまで多くない気はするんですけど、それは私としては完全には防げないと思っています。ですので、辞めてしまう人との関係性を持ち続けられるようにするスタンスでいた方がいいと思うんですよね。無理に社内で囲い込もうとしたりせずに、ビジネスパートナーとして関係を持ち続けるとか、出資するとか。

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 たとえば起業したいと考えている人のなかには、自己資本で独立性を保ってやりたいという人もいれば、あまりそこにこだわりはなくて社長という肩書きで一度やってみたい、とシンプルに思っている人もいます。そういう人材は既存の部門の中間管理職にするのではなく、子会社を作って社長のポストを与えるというやり方で、完全に会社から離れてしまわない仕組みを作るのがいいですよね。それを上手にやっている大企業もあります。

——ところで、イノベーター人材とIRM実践者はそれぞれ何人ずつくらいの構成がベストだと思いますか。

北嶋氏:もちろん場合によりますが、事業開発を行うチームは、経験則的には3人くらいが一番いいですね。1人だとリソースが不足しますし、全然進化できないんですよね。2人だと揉めたり意見が割れたりするケースが多いので、奇数をおすすめしています。ただ5人だと多すぎるので3人。IRM実践者は1人でもできますけど、ノウハウを貯めていくという意味では2、3名いたほうがいいように思いますね。

大丸氏:理想的には、事業リーダーとしてひと回りした人がIRM実践者になることですね。それができている会社はごくまれで、だいたいは事業リーダーとしての経験のない人がIRM実践者になる。なので、事業リーダーに対して「それくらいできるんじゃないの」みたいに上から目線で言ってしまうことがあります。そうすると事業リーダー側としては、「やったことないくせに」みたいに反発する気持ちが生まれてしまう(笑)。

——プロ野球の名選手が名監督になるとは限らない、みたいな、そういう難しさがありそうですね。

北嶋氏:事務局に対して不満が溜まっているプロジェクトチームは多いですね。どうしても事務局という立場で上から物を言ってしまう人が多くて、それが軋轢を生む原因になるんですよね。でも私はコミュニケーションの仕方で解決できると思っています。経験がなくとも、IRMの考え方に基づき、イノベーター人材や事業リーダーに対するリスペクトが根底にあれば、そういった問題は低減できると思っています。

——新規事業開発の成否にも、半分くらいは人間関係が影響してきそうですね。結局のところ、イノベーター人材の育成で一番の重要なポイントとは、どういうところになるでしょうか。

北嶋氏:それはもうIRMに尽きると思います。これからの会社のイノベーション創出力は、現場や組織という観点では、このIRMが全て。これはオープンイノベーションであってもクローズドイノベーションであっても同じで、社内外のイノベーター人材から選ばれるような会社にならないと、イノベーター人材はどんどん流出するし、オープンイノベーションでも手を組んでもらえない状態になります。そうすると、長い目で見た場合、企業のイノベーション創出力はどんどん落ちていくんですよ。

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 なので、企業はイノベーター人材がとにかく希少であることを理解しなければいけません。日本全体で不足している希少な人材です。その希少性とかリスペクトを忘れてはいけなくて、彼らにどうポテンシャルを発揮してもらうか、彼らとどう関係性を構築していくかという課題に応えるために、「CRMのイノベーター人材版」としてこのIRMを定義しました。この考え方が概念として今後重要になってくると思っています。

第1回:新規事業は「インキュベーション戦略」で勝敗が決まる--Relic北嶋氏、大丸氏に聞く方程式

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