「IPOに踏み切るかは戦略のひとつ」--メドレー代表の豊田氏が語る上場への思い

 医療に関わる人材サービスや情報サービス、クラウド診療システムなどを開発・提供するメドレーは12月12日、東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。2009年の会社設立からちょうど10年となる節目だ。

 医療・ヘルスケア業界にインターネットのテクノロジーを果敢に持ち込んだメドレーは、株式市場で資金調達し、ビジネスを拡大、加速させようとしている。

 時を同じくして、クラウドファンディングサービスのマクアケ、クラウドソーシングプラットフォームのランサーズ、クラウド会計ソフトのfreee、スペースシェアリングプラットフォームのペースマーケットら4社も同じ12月に上場している。

 昨今のテクノロジー企業においては、ベンチャーキャピタル(VC)などのファンドから大型の資金調達を重ねることで事業継続を図るのもトレンドの1つではあるが、メドレーを含む5社はVCから資金調達をしたうえで、株式市場への上場という選択肢を選んだ。

 今回、メドレーが上場を決断した理由は何だったのだろうか。メドレー 代表取締役 医師の豊田剛一郎氏にこの10年を振り返ってもらうとともに、上場への思い、そして今後の展開について話を聞いた。

メドレー 代表取締役 医師の豊田剛一郎氏
メドレー 代表取締役 医師の豊田剛一郎氏

上場は「採用力」の強化が第一の目的

——会社の設立からちょうど10周年。このタイミングでマザーズに上場した理由と、その狙いを教えてください。

 もともといくつかのベンチャーキャピタルの出資が入っている以上、どこかで何かしらのEXITが会社として求められることは前提ではありました。その中で、完全に自分たちの判断で今回の上場のタイミングを決めたという状況なのですが、その背景にはいくつか理由があります。

 まず、われわれの事業自体がかなり社会性の高いものだと思っているので、会社の見え方としては、よりパブリックになる必要性があると考えたからです。後でお話しますが、上場にはメリットもデメリットもあります。しかしそれらを鑑みた上でも、やはり事業内容からするとパブリックな会社になってしっかりと自分たちの発信力、社会的信用みたいなものをしっかり築き上げていくことが、会社にとっては人材の採用力みたいなところにも響いてくるのではないかと考えました。

 今回のIPOに関しては、こういうことをしっかりやっていますよ、ということをちゃんと世の中に対して発信し、それが響くような人たちにわれわれの会社を知ってもらってジョインしてもらえたら……という考えが強いですね。

――上場は、人材採用が一番の目的ということですね。

 採用する・したい人材が変わってきた、というのが大きいですね。いまは、どちらかというと「ベンチャーが大好き」といった人の採用のフェーズは過ぎています。安定して会社を大きくしていき、会社のビジョンや事業内容に対して共感してくれて、丁寧に長期で働いてくれる方、という人物像が合っているのかなと思っています。

 上場することによって採用面ではプラスとマイナスの両方の影響があると思っていますが、現在われわれが望む人材の採用においては、上場している方がメリットがあるだろうという判断です。

――今回の上場で市場から調達した約30億円は、人材採用などに活かしてく方針ですか。

 一番はエンジニアの採用費。あとは企業のブランディングにかけるコストなどが主な用途になっていくと思います。もちろん財務体質の健全化にも活用しますが、採用が何よりも優先すべきところになります。エンジニアを採用して次の新しいプロダクトを生み出すことが、会社の長期的な成長のドライバーになっていきます。

 ただ、いきなり何かにドカンとリソースを投入することは考えていません。既存の事業は今のペースを維持することを基本に考えています。医療介護求人サイトの「ジョブメドレー」がかなりプロフィッタブルな事業なので、その利益は堅実に積み重ねて、その利益を次の事業に投資していきます。

 次の事業というのは、ジョブメドレー自体の改修や機能改善もありますが、医療プラットフォームの拡充ですね。現在提供しているオンライン診療や電子カルテ以外にも、プロダクト群をどんどん新規で開発していきたいと思っています。

――メドレーが考える、上場によるメリットとデメリットについてもう少し詳しく教えてください。

 メリットとしては先ほど申し上げたような「採用力」。あとは資金の流動性ですね。資金を調達して採用や今後の成長に向けた投資をしていきながら、M&Aのような戦略も考えていくことになるので、そういった点で資金の機動性を高められるのも利点です。

 デメリットは、業績をより細かく開示しなければいけないといった点も含め、やはり上場すると社会の目、投資家の目をしっかり意識していくことになります。とはいえ、会社としては未上場の頃からガバナンスを効かせてやってきています。新規事業もきちんと計画を立てていますし、上場したとしてもきちんと説明責任が果たせるようにしています。

 もちろん上場するとより高いレベルの説明や開示が求められるとは思っていますが、予実管理などこれまでずっとそうして運用してきたので、今までの運用を変えなければいけない状況でもありません。自分たちでしっかり対応できる範囲の変化なのかな、と思っています。

――スタートアップ企業には「上場ゴール」と揶揄されるような言葉がついて回ることもあります。

 上場ゴールやEXITは、会社としての何かしらのマイルストーンではあると思います。ただ、「上場してゴール」という感覚は、株式を100%売却して自分は事業から離れる、という話であればそうかもしれませんが、今回われわれの場合は経営陣が株式をほとんど売り出していませんので、ちょっと違うかなと。

 先ほどお話したように、会社を次のステップに進めるためには上場という手段が必要かつ有効だろうという判断です。マイルストーンの区切りであり、第三者からきちんと会社として運営できています、というある種の社会的な第三者認証のような、そういう感覚もあります。けれども、われわれとしてはゴールというよりも、セカンドステージのスタートが始まったという感じですね。

――これまでにもVCから資金調達を受けてきましたが、それに加えて上場による資金調達が必要になった理由はありますか。

 今はむしろ未上場の方がお金が集まったりしますよね。バリエーションや調達額の点で言えば、おそらく未上場であることの方がメリットが大きいのではないかと思います。昔のように上場しないと資金が集まらない時代ではないので、プライベートラウンドのファイナンスをするのか、IPOに踏み切るかは、会社としての戦略のひとつになると思います。

 だから上場は、今や誰もが目指すものというより、その会社の戦略に合っているかどうかになってきていると思います。当社も未上場でのプライベートラウンドを視野に入れながら、IPOを検討していたという背景もあります。未上場でのファイナンスの選択肢も広くなってきたことが、「上場しなきゃいけない」とか「上場がゴールだ」といったように、上場の意味にズレが生じてきている要因かもしれませんね。

「事業自体がかなり社会性の高いもの」(豊田氏)
「事業自体がかなり社会性の高いもの」(豊田氏)

――2010年代のIT業界を盛り上げてきたマクアケ、ランサーズ、freee、そしてスペースマーケットの5社もこの12月に上場となり、同タイミングでの上場に何か思いはありますか。

 当然ながら上場についてコミュニケーションしていたことはまったくありませんでした。ただ、freee CEOの佐々木(大輔)さんとは仲がいいので時々会っていますし、ランサーズ 代表取締役社長の秋好(陽介)さんも、マクアケ 代表取締役社長の中山(亮太郎)さんも、もちろん知っている方なのですが、うわさで「(上場に向けて)動いている」くらいの話はなんとなく回ってくるものの、まさかこんなに近いタイミングでとは……。

 まあ、たまたまだと思います(笑)。知っている人が同じ時期に上場するのは面白いな、という感覚はありますが、逆にそれ以上の感情とか、そこから導き出される何か、といったことはあまりないですね。

――他の4社の中には、今後はより信用力が求められるので上場が必要になったという企業もありました。上場によるブランディングは医療業界では強いのでしょうか。

 医療業界で上場している会社だからお付き合いしますとか、上場していない会社とは取引できませんとか、そういうことを病院や介護施設のような事業所から言われたことはないですね。上場することで、たとえばその信用力をブーストにして営業の強化を見込むとか、そういった点ではマイナスにならないと思いますが、プラスの点で重要になるとはまったく考えていません。

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