2018年11月のある晴れた日、米カリフォルニア州のマウンテンビューでは、数千人のGoogle社員がオフィスから続々と外に出て、同社の本社社屋周辺に広がる庭に集まった。その後、「もう待てない!」あるいは「立ち上がろう!戦おう!」と繰り返し声を上げながら、シリコンバレーの中心を行進した。手にしていたサインには「Googleの女性社員のために立ち上がれ」「男性社員は女性社員とともにある」と書かれていた。
それは、New York Timesが、モバイルOS「Android」の生みの親Andy Rubin氏が行ったとされるセクシャルハラスメントについて詳しく報じた衝撃的な記事を掲載してから、1週間後のことだった。記事によれば、かつて共同創業者Larry Page氏の側近の1人だったRubin氏が、女性社員にオーラルセックスを強要したという。Googleが、この問題を公にしないままRubin氏を解雇した上で、同氏に9000万ドルを支払っていたことも報じられた。この記事では、男性幹部がセクシャルハラスメントを行った事例が他にも告発されており、これには同社の最高法務責任者であるDavid Drummond氏や、同社の研究所「X」のディレクターRich DeVaul氏も含まれている。
Googleの道徳に反する振る舞いを知り、抗議行動を起こそうと戦略を練ってきた同社の一般社員にとって、このセクシャルハラスメントの告発記事は転機になった。
抗議デモの主催者の1人であるCelie O'Neil-Heart氏は、報道陣に対して「あの9000万ドルで我慢の限界を超えた」と語った。同氏はその後、Googleを退職してPinterestに転職している。
1年前に行われた抗議デモは、20年以上に及ぶGoogleの歴史の中でも、主要製品のリリースに匹敵する重要な出来事の1つだった。この日、東京からチューリッヒまでを含む世界中のGoogle社員2万人が、オフィスを出て同社に対する抗議デモを行った。
The line of Googlers walking to the rally goes as far as you can see #googlewalkout pic.twitter.com/84GXSo8VaE
— Richard Nieva (@richardjnieva) November 1, 2018
これはIT業界にとっても歴史的な出来事だった。それまで、高給取りのエンジニアが社会運動に大きな関心を持つことは少なかったが、Googleで起こった出来事は、同社の外にも大きな影響を及ぼした。数年前には考えられなかったことだが、今やIT業界では、社会運動は当たり前のことになった。AmazonとMicrosoftの社員は自社の経営判断に異を唱え、米国の入国管理当局に顔認識技術を提供することに反対した。Amazonの従業員はまた、気候変動の問題について声を上げ、同社の経営陣に環境問題への取り組み強化を求めた。
また10月末には、経営陣と対立することに及び腰だったFacebookの社員もついに行動を起こした。現在のFacebookのポリシーでは、政治家が同社のプラットフォームに広告を掲載する際に、真実ではない主張を行うこともできるようになっており、この問題に関して社員が最高経営責任者(CEO)のMark Zuckerberg氏を非難する公開書簡を送ったのだ。この書簡には250人以上の社員が署名した。
しかし、これらの企業の社員が大規模な運動を行うようになる以前は、IT業界では抗議活動と言えばGoogleの社員だった。企業に多様性やインクルージョンの問題に関するコンサルティングを行っているReadySetのCEO、Y-Vonne Hutchinson氏は、Googleが伝統的に持っているオープンな文化とミッションがその一因になっていると話す。Googleは「Don't be evil」(邪悪な行為をする者になるな)をモットーにしていた企業だ。そんな会社に倫理的な欠点があることが分かれば、経営陣の判断を疑問視する社員の目には、会社の行動はさぞ偽善的なものに見えるだろう。
「最初に社会運動が起こったのがGoogleだったのは偶然ではない」とHutchinson氏は言う。「Googleが最初だったのは必然だ」
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