2010年5月26日、私はサンフランシスコにある米CNETのオフィスを飛び出して同僚2人とともにレンタカーに乗り込み、打ち合わせの場に向かっていた。1人が私にThe Wall Street Journal紙を渡して、見出しを指さした。その見出しは、AppleがMicrosoftを抜いて最も市場価値の高いIT企業になったことを伝えるものだった。
「これ、どう思う?」と同僚。
「現実味がないな」と私はかぶりを振った。
その10年少し前、Appleは瀕死の状態にあり、存続するためだけにMicrosoftからの1億5000万ドルの出資を必要としていた。しかし、2007年に「iPhone」が登場すると、Appleはモバイル革命の脚本を書き替えた。その後の数年間、さらなるApple製品がiPhoneの成功に続いた。そしてAppleのスマートフォンと「Android」搭載スマートフォンは世界中に普及し、私たちが想像もしていなかったほど生活に深く浸透した。
このため、われわれ米CNETが2010年代で特に重要なテクノロジーおよびトレンドをリストアップしたところ、その全てが直接的または間接的にモバイル革命に関わっており、うち3つはAppleおよびiPhoneと関連していたのもうなずける。
では、カウントダウン方式でそれらを紹介していこう。
何をするにしても、それを「シェアリングエコノミー」と呼んではいけない。そのような利他的なものだったことは1度もないのだ。それでも、UberやLyft、Airbnbなどのサービスは、移動手段を確保したり宿泊場所を見つけたりするのを、これまでにないほど簡単で安価にした。
スマートフォンアプリの恩恵をこれほど大きく受けた企業は、この3社および同業者である中国のDidiや東南アジアのGrab以外にあまりないだろう。2010年代の終わりまでに、Airbnbは世界の上位5つのホテルチェーンが有する全ての室数よりも多くの室数を擁するようになった。UberとLyftの乗車回数は、ニューヨーク市のタクシーの乗車回数よりも65%多い。もっとも、UberとAirbnbの成功は物議を避けることはできなかった。例えばUberは乗客への危害、Airbnbは無神経な広告で批判された。
この10年で特に論争を呼んだ“イノベーション”の1つは、Appleが2016年に下した、iPhone 7でイヤホンジャックを廃止するという決断だ(他のスマートフォンメーカーも主力モデルでこれに倣った)。Appleは、AirPodsのようなワイヤレスイヤホンへと世界を移行させようとしていた。AirPodsは2016年の発表当時、とても不格好に見え、多くの冷笑の対象となった。しかしその見た目は最終的に受け入れられ、Appleは2019年に5000万組のAirPodsを販売する勢いだ。そうなれば、競合ひしめく高性能ワイヤレスイヤホン市場の確固たるリーダーということになる。
2014年に登場した最初のスマートスピーカーに対する反応は、主に無関心と困惑だった。これはポテトチップス「プリングルズ」のような筒型の凡庸なBluetoothスピーカーであり、いくつかの基本的な音声命令に答えられるだけだった。
しかし、不思議なことが起きた。このデバイスは小型で安価になった。開発者たちは「スキル」を開発し、できることを増やした。そして人々はキッチンでタイマーを設定したり、音楽を再生したり、天気やニュース、スポーツをチェックしたりするのに、声を好んで使うということが分かったのだ。音声アシスタントのAlexaに物事を頼むことは、文化的な現象になった。以来、GoogleとAppleはAlexaに追いつこうと競い合っている。AmazonはAlexaの機能を他の多数のデバイスに拡大し、プライバシーをめぐる懸念も膨らむことになった。
Appleが2015年に同社初のウェアラブル機器であるApple Watchを発表した際、米国の警察ものコミック「ディック・トレイシー」に出てくるようなコンピューターを腕に装着することを想像したものだ。結局は「Fitbit」を少し賢くしたようなものだと分かったが、2年のうちに世界で最も売れたウォッチになるのには、それで十分だった。FitbitやGarminなど他社も人気フィットネストラッキング機器の開発を続けており、私たちが日々の運動量を増やせるよう促してくれる。段階を踏んだ目標や走行距離などの指標により、エクササイズがゲームのように感じられる。これらのウェアラブル機器は、通知のチェックも楽にしてくれる。なにせ私たちの多くは1日に50回以上もスマートフォンを確認しているのだ。
これと似た考えで作られたのが、2013年に登場した「Google Glass」だ。これは時期尚早で、一般消費者向けデバイスとしては短い間に消えてしまったが、このような拡張現実(AR)メガネは2020年代の大きなトレンドの1つになるだろう。Googleに加えてFacebookやAppleも独自ARメガネを数年のうちに発売するとみられている。
Teslaはこのリストにあるどの企業よりも販売台数が少ないが、この順位に値する企業だ。同社は100%電気で走る電気自動車や自動運転車の開発に、世界のあらゆる巨大自動車メーカーと比べても力を入れている。これにより、そうした企業のほぼ全てが両分野での取り組みを一層強化することとなっている。
2015年10月、Teslaは2500ドルの「Autopilot」アップグレードにより、「Model S」の自動車を自動運転車に変えた。このアップグレードはワイヤレスでダウンロードするもので、世界で過去最大級のソフトウェアアップデートの1つとなった。これは、Teslaがいかに競争を切り抜け、自動車メーカーというよりもIT企業のように行動しているかを示す1つの例にすぎない。とはいえ、Autopilotは複数の死亡事故で物議を醸したこともあった。これらの事故では、ユーザーがAutopilotに頼りすぎ、このソフトウェアがユーザーや周囲の人々を守ることができなかった。
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