HAL東京、東京モード学園などを運営する学校法人日本教育財団は、2020年4月に新たな大学制度である“専門職大学”として「東京国際工科専門職大学」を開学する。日本で初めて工学分野および情報分野で文部科学大臣に認可を受けた、AI・IoT・ロボット/ゲーム・CG領域の専門職大学となる。
学長には、元東京大学総長の吉川弘之氏が就任、大卒人材が企業にとって即戦力となりにくい現状の高等教育体系が問題視されるなか、大学/専門学校や産業界とも連携し、学術と実業の最先端から講師陣を招き、時代の要求に合致した高度人材育成を目指す。
専門職大学および専門職短期大学は、2019年4月から開設された新しい学校制度であり、卒業すると一般の大学と同様に国が認めた専門職の学士が取得できる。知識を学ぶ従来の大学と技術を習得する専門学校の長所を取り入れ、特定の職業のプロフェッショナルになるために必要な知識・理論、実践的なスキル、さらにはグローバルを含め広い視点をもってイノベーションを起こせる人材を育成するという理念のもとで誕生した。産業界と連携し、学内や学外での実習を重視しているのが大きな特徴となっている。
東京国際工科専門職大学は、グループ校が入る東京・西新宿のコクーンタワー内に校舎を構え、「情報工学科」と「デジタルエンタテインメント学科」の2学科でスタートする。情報工学科の定員は120人で、「AI戦略コース」「IoTシステムコース」「ロボット開発コース」の3コースがあり、2年時にコースの選択が可能になる。デジタルエンタテインメント学科は定員が80人で、「ゲームプロデュースコース」と「CGアニメーションコース」の2コースとなる。
学習内容については、米国スクウェア・エニックス、バンダイナムコスタジオ、チームラボなど国内外の企業と教育領域で提携し、職業知識・スキルを教育するとともに、従来のインターンシップとは一線を画す、600時間超の実践的企業内実習を行う。校内にAIやVRのシステム、3Dプリンタ、モーションキャプチャー、ハイスペックなワークステーション、産業用ロボットなどを揃え、ハードウェア、ソフトウェアともに最先端のプロフェッショナルが使用するような開発・実習環境を提供する。
グローバル人材を育成するために、欧米、アジアで行う海外インターンシップ制度を用意。興味がある分野の中で自然に英語が学べるため、専門分野や事業で「使える英語」を習得できる。その際に、1年間分の渡航費と学費を「公費留学制度」として支援する。
生徒へのサポート面では、10人に1人以上の担当教員を配置して個の教育環境を充実させるとともに、キャリアサポート面でも担当者がマンツーマンで支援を行う。また、グループ校のHALで実施している「完全就職保証制度」を適用し、卒業時に就職できない場合は2年間必要な学費を負担するなど手厚い制度を用意している。
9月25日に開催された「『東京国際工科専門職大学』開学発表会」では、学長の吉川氏が開学の趣旨について説明した。
専門職大学が登場した背景として、吉川氏は「これまで大学では学問体系のもとで知識を教え、テクノロジーを使う行動力を持った人材は専門学校でというように、融合せずに2種類の人材を育ててきた」ことを指摘。ただし、環境問題や不透明な国際関係といった困難な状況にさらされている現代では両方の資質が求められるため、東京国際工科専門職大学では、「長い歴史の中で分かれてしまった学問・アカデミーと、現実に行動するテクノロジーを融合した統合人材の育成に挑戦する」としている。
同学はコンセプトに、「Designer in Society」を掲げている。ここでいうデザイナーとはモノや施策を作るとともに「行動する専門家」のことであり、吉川氏は「社会の状況・動きを理解し、社会が何を望んでいるか洞察しながら行動し、素晴らしい社会を作っていく。そういった人たちが社会に出て活躍することを想定している。一般の大学は分析志向。考えて行動するというデザイン志向の考え方を持つ人を育てたい」と語った。
またアカデミックな部分では、専門職大学としての活動を行う中で、情報技術の学問としての体系化を目指すという。「情報技術は学問として輪郭がはっきりしていない。4年制大学では扱いにくく、専門学校では実務はできても骨格ができない。それを我々がやろうとしている。実社会の行動と大学の研究が融合した形で進展していくという、知識の新しい進化の形を作る。そのためには協力が必要。各大学内に散在する研究室などに声をかけ、社会に開かれた形で産業界と協力しながら研究開発を続け、同時に教育における協力を企業にお願いしていく。将来的には大学院の設立も視野に入れている」(吉川氏)
発表会では、「テクノロジー時代に求められる教育のあり方について」をテーマに、吉川氏とセガゲームス 代表取締役社長の松原健二氏、ユカイ工学 代表の青木俊介氏が座談会を行った。
その中で、日本のテクノロジー教育に関する問題点として、松原氏は「世界に届けるエンタメであるには、どう育てて、業界に入ってきてもらうかを考える必要がある。大学生になると人気職業のトップ10にエンタメ業界は入らない。職業として意識をするプロセスが、小中高と学問を積む過程において必要」と発言。
癒しに特化した家庭用ロボットを開発する青木氏は、「海外の展示会に出すと日本が作るロボットのユニークさは期待されていると感じる。ただ産業は作り出せていない。せっかく日本でロボットは歴史があるのに、ベンチャーがあまりいない理由には、教育のシステムがなかったことも背景としてある」と述べた。
東京国際工科専門職大学に対する期待として、松原氏は「米国にはアカデミズムと産業界の間を結びつける人がたくさんいたが、専門職大学によって日本でもアカデミズムとプラクティスがつながっていく形が見えた」とし、青木氏は「海外の学生は直接メールでインターンの希望を送ってくる。日本の学生もそうすればいい。それをこの大学で奨励してもらえればグローバルの人材が育つのでは」と語った。
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