人間の脳とコンピューターを接続できるようにする技術は、極めて大きな意味を持っている。それは、関連する倫理的リスクについて政府が検討し、巨大テクノロジー企業による関連技術の開発独占を確実に防がなければならないほどだ。
英国の国立科学アカデミーである王立協会は最近の報告書で、政府が神経インタフェース技術を調査し、関連技術の開発に関する規制や、その技術を利用する際の倫理について検討するべきだと主張した。
神経インタフェースとは、人間の身体に埋め込むか身体の表面に装着することで、脳内の活動を記録したり活性化させたりするデバイスだ。ブレインコンピューターインターフェイス(BCI)とも呼ばれるこうした技術のアイデアは、そう新しいものではない。世界中の多くの人々が、すでに医療用神経インタフェース技術の恩恵を受けている。例えば、人工内耳はおよそ40万人の聴力を助けているし、他にコミュニケーション手段を持たない人が、脳信号だけで意思伝達している。
だが、BCIは今、爆発的成長の兆しを見せている。王立協会は、BCIが1970年代のコンピューティングと同じ段階に来ているとしている。報告書では、神経インタフェースが20年以内に、麻痺後の歩行やうつ病、アルツハイマーなどの疾患の治療支援に使われるようになると予想する。
王立協会は、より洗練された神経インタフェースが出現し、人間がコンピューターや他の人と相互接続できるようになると、「人間はある程度のテレパシー能力者になるだろう」と予測する。
「人工知能(AI)を使って人間の脳とコンピューターを接続することで、人間は意思決定能力と感情的知性をコンピューターのビッグデータ処理能力と統合し、新たな協調型の知性を創造できるようになる。人間はある程度のテレパシー能力者になり、概念レベルで互いの思考にアクセスすることにより、言葉を発しないだけでなく言葉を使わずに対話できるようになる」と報告書には書かれている。
大手テクノロジー企業は、神経インタフェースをもうかりそうな開発分野とみている。Facebookは以前、考えを読み取る技術に取り組んでいると語っていた。ユーザーはこの技術を使って、メッセージをキーボードから入力する代わりに、思い浮かべるだけでスクリーンに表示でき、言語に依存せずに意思を共有できるようになるという。
だが、今のところ最もインパクトがあるのは、Elon Musk氏率いるNeuralinkのプロジェクトだろう。このプロジェクトは、人間の脳とコンピューターを接続する超高帯域BCIの開発している。Musk氏は、AIの台頭は人類にとって最大の脅威の1つだと警告し、神経インタフェースは人間にコンピューターに追いつくチャンスを提供することで、リスクを減らす1つの方法になると語った。
技術開発を手掛けるのが一握りの企業であれば、非商業的技術の開発は二の次になる恐れがあると王立協会は警告した。規制は、あまり面倒だったり、複雑だったり、高くついたりしないものであるべきだと語った。そうしないと、大手のテクノロジー企業がこの新興分野を独占してしまうからだ。
神経インタフェースの恩恵は、健康面だけでなく、記憶力、集中力、人間同士のコミュニケーションにも及ぶ。デメリットとしては、われわれの思考や感情に企業や政府がアクセスする可能性がある。体内に移植した神経インタフェースをハッキングされれば深刻な結果になるだろうし、ハッカーにとってこれほど魅力的な侵入先はないだろう。さらに、神経インタフェースを移植できるのが金持ちだけだとしたら、社会的不平等につながる可能性がある。
どのようなデータを収集するのか、集めたデータをどう安全に保存するか、移植の許可などの問題に対処するために、政府が神経インタフェースがもたらす倫理的問題を調査する必要があると王立協会は述べた。さらに、「巨大IT」企業による独占を防ぐためにイノベーションを推進する方法についても、当局が検討すべきだとした。
英Imperial College Londonの次世代神経インタフェース(NGNI)研究所の所長を務めるTim Constandinou博士は次のように述べた。「脳とコンピューターがシームレスにコミュニケーションできるようになるのがずっと先のことだとしても、われわれの倫理および規制上のセーフガードが将来の開発に十分柔軟に対処できるよう、今すぐ行動する必要がある。そうすれば、これらの新技術が安全に、人類の利益のために実装されることを保証できる」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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