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MITメディアラボ・スキャンダル報道の「正しい」読み方 - (page 2)

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Epstein氏を使ってメディアラボの運営資金を集めていた伊藤氏

 まず、伊藤氏がメディアラボ所長の辞任を余儀なくされた理由は「大学当局に嘘をついた」こと――具体的には、MIT全体で「寄付提供者には不適格」とされていたEpstein氏から、そのことを承知で(大学当局には内緒で)長年資金を受け取っていた、あるいはEpstein氏と伊藤氏がほぼ二人三脚でメディアラボの資金集めをしていたこと、と言えよう。The New Yorker記事には、伊藤氏とPeter Cohen氏(肩書きから推測するとおそらく「金庫番」)なる人物が中心となって進めていた隠蔽工作についての記述や、その証拠となる電子メールの画像まで含まれている。また、伊藤氏がEpstein氏に10万ドルの提供を無心するやりとりなどもある。この記事の主な情報源(取材先)が2016年までCohen氏の直下で働いていたSigne Swenson氏なる女性という点も考え合わせると、ほぼ動かぬ証拠という印象を受ける。

 さらに、「嘘」という点では、Epstein氏からメディアラボに流れていたとされる資金の額の違いも問題になろう。MITのLeo Rafael Reif学長が声明で認めていた金額は「20年間で約80万ドル(約8500万円)」、それに対してEpstein氏の斡旋で流れた金額は少なくとも750万ドル(うち200万ドルがGates氏から)とされていて、これでは学長も「メンツ丸つぶれ」である。

 そのほか、興味深いエピソード(たとえばEpstein氏が「お忍び」でメディアラボを訪問した際に、東欧系と思われる若いモデルを同伴して、女性所員たちの眉をひそめさせた等)もあるが、ここではそうしたものは割愛して、より重要と思えるこの騒動の社会的な文脈といった事柄に話を進める。

スキャンダルを報じた新進気鋭のジャーナリスト(実は有名カップルの子息)

 この暴露記事をまとめたのは、Ronan Farrow氏というスタージャーナリスト。2017年に世間を騒がせたハリウッドの大物映画プロデューサーHarvey Weinstein氏のセクハラスキャンダルを報じて、2018年のピュリッツァー賞(Pulitzer Prize for public service)を受賞……などとThe New Yorkerのブロフィール欄にはあるが、ある年代以上の方には「女優のMia Farrowさんと映画監督のWoody Allen氏の間にできた子供のひとり」といった説明のほうが通りがいいかもしれない。


ピュリッツァー賞受賞直後の2018年4月下旬のインタビュー。
右の若い男性がRonan Farrow氏。たしかに口元のあたりが母親に似ている?

 ちなみにこのFarrow氏のWikipediaページには、1987年12月生まれ(まだ31歳)で、「15歳で大学卒業」「2001年(12歳か13歳の時)には国連児童基金(UNICEF)の”Spokesperson for Youth”という仕事をしていた」「2011年には当時国務長官だったHillary Clinton氏から、世界の若者問題に関する特使(Special Adviser for Global Youth Issues)に任命」など、いろいろと面白い記述がある(少なくともかなり「早熟かつ聡明」であることがうかがえる)。

 そんなFarrow氏は、2018年にもCBS(米大手テレビ局、CNET.comの親会社)の最高経営責任者(CEO)、Leslie Moonves氏を辞任に追い込んだやはりセクハラスキャンダルを暴露する記事を記していた。米国外交の影響力低下についてまとめた書籍「War on Peace: The End of Diplomacy and the Decline of American Influence」もあるハードコアなジャーナリストが、「なぜ(一見関係のなさそうな)セクハラ、パワハラ問題を?」という疑問が浮かぶが、このあたりについては「自分の姉妹がスキャンダルに巻き込まれ、被害者であるにもかかわらず大変な目に遭っていたから」などと、2018年春にKara Swisher氏との対談のなかで説明している(もちろん、米国の映画やテレビ業界というのは、彼にとっての「自分の生まれ育った世界」という点もあろうが)。

#MeTooムーブメントがアカデミックな世界にも

 話を本筋に戻すと、以上のような理由から、今回のMITメディアラボをめぐる一件は、「Harvey Weinsteinスキャンダル」「Leslie Moonvesスキャンダル」に連なるもの、簡単に言えば女性軽視に異議申し立てする#MeTooムーブメントの流れに属するものとみなされているといえよう。社会的に大きな影響力をもつ一部の人々(主には白人の年配男性)が弱い立場の人間(女性/未成年者)を搾取している、しかもその影響力を使って、反社会的あるいは倫理的に「好き勝手なこと」をしながら社会的に大目にみられている、という社会的な不正義を告発したものとして人々の記憶に残るはず。

 同時に、この一件がアカデミックな分野におけるほぼ初めての#MeToo関連メジャースキャンダルであり、しかもSTEM分野で米国を代表する名門大学のMITでの出来事というところも注目に値する(STEM分野での女性やマイノリティの少なさや、そうした状況を是正・改善しようとする動きがここ何年も各所で進められ、たとえばシリコンバレー大手各社が毎年(社内の人口構成を報告する)「多様性レポート」を出してきていることなどは既報の通り。

Epstein氏の社会的延命に加担した米科学界の責任

 複数の有名な科学者らを支援していたEpstein氏は、日本の相撲で言うところの「タニマチ」的な存在だった。彼の社会的な力の源泉はその「人脈」――Donald Trump大統領やBill Clinton氏、英国のAndrew王子などをはじめとする他の権力者あるいはBill Gates氏のような人物らにアクセスできる力にあった。そして、その手段となったのが時には女性(を使った性行為)であり、時には有名大学(研究所や研究者)へのアクセスであったりした。

 Epstein氏が未成年者の性的虐待(搾取)というどの社会でも比較的重いはずの犯罪で一度は捕まりながら、比較的軽い処分で済んだのも、あるいはその後Bill Gates氏のような人物にアクセスできたのも、MITをはじめとする「金看板」があったから。

 いっぽう、伊藤氏のほうでは、Epstein氏経由で集めた資金も使いながら「メディアラボ所長」という肩書きを維持し、それをテコにObama氏のような権力者へのアクセスを手に入れた……。まさに「持ちつ持たれつ」の関係で、伊藤氏自身も(Epstein氏のような違法行為はなかったにせよ)倫理的な責任を問われてしかるべきと思える。

 ただ、次の指摘にあるように、この問題はメディアラボ単体あるいは伊藤氏個人の問題にとどまらず、教育・学術分野(とくに女性が少数派であるSTEM分野)における男性優位の風潮と弊害というより大きな問題に発展する可能性も十分感じとれる。

 最後になったが、8月末にBoston Globe紙に掲載されていた伊藤氏の辞任を求める元メディアラボ研究者の寄稿記事からの一節を紹介する。

 これを書いたArwa Mboya氏という女性は、8月下旬に、伊藤氏の責任回避に抗議してメディアラボを辞職すると発表したEthan Zuckerman氏の教え子のひとりだそうだ。

「どうして私たちは(被害者の)若い女性たちを害することに加担したことに対して本当の責任を認めない謝罪をこれほど簡単に受け入れようとするのか?どうして権力をもつ男性たちは説明責任を問われないのか?どうして私は、Epstein氏が傷つけた人々について伊藤氏が関心をもたずに所長の座に居座ることに関心をもつべきなのか?これは権力をもつ男性たちが、私たちに対して彼らの影響力を行使し続けている、自分たちのしたことについて本当にすまないとも思わずに私たちを惨めな気持ちにさせているその実態であるからだ」

【その他の参照情報】

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