――100個の新産業を生み出すという目標を掲げていますが、すでに動き始めているプロジェクトについて教えてください。
ひとつは陸上養殖ですね。漁獲量の減少やタンパク質の不足、安全性や品質の問題も含めて、今後産業として大きくなることが誰の目にも明らかな分野です。テクノロジーの進化によって、陸の上で魚が育てられるようになってきた、そこにIoTとかAIを活用することで、さらに美味しい魚にしていくことが可能になるわけですよね。世界的にも注目されている分野ですし、日本から世界に発信していける分野だと思っています。
ここにもやはりアプリケーションとプラットフォームの考え方が必要で、今、金子コードのキャビア事業の6次化をサポートしているのですが、たとえばシェフのネットワークからフィードバックを受けるしくみとか、水質の管理や冷凍技術といったものはプラットフォーム化されていくべきです。そうすれば同じように陸上養殖に取り組みたい方が、そのプラットフォームを使ってもっと効率的に大きくなれるし、世界で勝負できる品質にできます。この分野ではステークホルダーになる会社と一緒に、プラットフォームとなる事業を作り上げて行き、全体として大きくすることを目指しています。
もうひとつは医療のデジタル化。これはまさに皆が注目をしている分野ですが、陸上養殖の例とは逆にアプリケーションが少ないのが現状です。プラットフォームをやりたいプレイヤー、構想はたくさんあるのですが、実際にデータを集めるところがあまりありません。なぜなら現場のドクターが納得するもの、現場に根付いたものでないと広がらないからです。そこでわれわれは今、シェアメディカルの聴診器のデジタル化ユニットに着目しています。
聴診器は診察のプロセスの、最も早いタイミングで出てくる機械です。ですので聴診がデジタル化できればそのデータを共有したり、AIを用いたりすることで診療の効率アップにもつながります。エンパワーされて遠隔診療ができるようになったり、患者さんが自分で診療できるようになったりと、適用可能性がたくさんある。
しかも聴診器のデジタル化ユニットはテクノロジー発想ではなく、医師のニーズを汲み取って生まれたものです。たとえば高齢化が進んで聴力が弱くなってきても、補聴器を入れて聴診することはできないので、デジタル化して聴診音を増幅する仕組みが必要なわけです。
それはこれから医師不足になっていく中で、医師寿命を長くしていくことにも貢献しますし、現場のニーズに根付いていて、デジタル化の効果がとても大きい。こういうキラーアプリケーションになりそうなものを揃えていって、そこからデータを収集することで、医療のデジタル化の産業化というものが、進んで行くんじゃないかと思っています。
――それぞれ単体の事業としても成長が見込めそうですが、それでも産業化することでさらにメリットがあるということでしょうか。
そう思っています。アプリケーションの事業の先駆者は、プラットフォーム側のビジネスで、資本を持てることもあるでしょうし、ビジネス的なメリットは当然あります。さまざまな事業が伸びていても産業化してこないのは、皆が自分のところの事業がうまくいけばそれでよしと、個社に閉じこもっているからです。
課題を定義して、そこにリソースを集めて、マネージしてその課題を解決していくのが経営者ですが、個社だけで課題を解決しきれなくなっています。
産業として考えなければいけないというのはそういうことで、たとえばIoTにしても、いろんなデバイスが全部つながる時代に、誰が全体をデザインするのか。個社に閉じこもった考え方ではなく、課題を正しく定義して全体をデザインすることが、今まさに求められているのだと思います。
僕はずっと「社会に雇われる経営者(経営者3.0)」の時代ということを言っているのですが、今は経営者がクリエイティビティを働かせて、社会の中の課題を提起し、それに対してリソースを集めてマネージしていくことができるようになっているし、求められている時代。そのことが結果として、所属している個社の成長やイノベーションに、ポジティブに働くと考えています。
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