楽天・三木谷氏「モバイルネットワークの民主化」を目指す - (page 2)

価格を武器に「モバイルネットワークの民主化」

 そして、今回の講演のメインテーマが、楽天によるモバイル事業への参入である。NTTドコモやauから提供された回線を再販するMVNOから、基地局構築・顧客サポートまですべてを受け持つMNOへ変貌することを意味し、新生「楽天モバイル」として10月にもサービスインの予定だ。

 三木谷氏は「日本の携帯電話料金は高い」と断言する。インドの富豪であるムケシュ・アンバニ氏が創設した新興キャリア「リライアンス・ジオ」は、4G接続が1カ月あたり約3ドル。驚異の価格だが、事業の立ち上げスピードも速く、それまで低速網が中心だったインドの通信事情を刷新。2年で3億5000万ユーザーを獲得した。

 日本においても、1人月1万円前後の携帯電話代は重荷だ。また、端末・サービスの品質改善については、停滞感も漂う。

 「こうした市場に楽天グループは殴り込みをかける。その発想の根本は『モバイルネットワークの民主化』だ。安価で速いネットワークを誰もが使えるようにする」(三木谷氏)

目指すは「モバイルネットワークの民主化」。安価にすることで、誰でも気軽にモバイルネットワークを使えるように
目指すは「モバイルネットワークの民主化」。安価にすることで、誰でも気軽にモバイルネットワークを使えるように

 三木谷氏の表現によれば、既存の携帯電話キャリアは、固定通信網の設備をベースにモバイルネットワークを構築してきた。対して楽天は、ネットワークの設備を“完全に仮想化”する。これまでのネットワーク構築は、わずかな仕様変更であっても専用ハードウェアの取り替えが発生していた。それを仮想化により、ソフトウェアの調整で済むような体制とすることで、ネットワークの強靱性を高め、費用の発生も抑えていく。

 「完全仮想化は世界のエンジニアにとって夢。ただ既存のプレイヤー(キャリアや設備会社)にとっては、(完全仮想化へ移行するための)インセンティブがない。国内にはキャリアが3社しかなく、市場をわざわざ崩す必要もないからだ。ただ楽天はそれじゃいやだ、ディスラプションを起こすんだという覚悟。実際の仮想化作業も1年半で終えられた」(三木谷氏)

 完全仮想化については開発難度が高いとされ、その実現性を危ぶむ声は大きい。三木谷氏も「ダボス会議に出席したとき、世界最大手の通信事業者のCEOからは『グッドラックだ。たぶん失敗するよ』と言われた」と明かす。

 しかし、そのCEOと今年6月にあった際には「実現しそうだな、すごいな」と変節していたという。三木谷氏は「iPhoneが『走る車』としてのレボリューションであったとしたら、楽天は車が走る『道路』そのものを革新する。その実現まであと2カ月だ」と意気込む。

楽天モバイルではネットワークを「完全仮想化」する
楽天モバイルではネットワークを「完全仮想化」する

5G&エッジコンピューティングも視野に

 楽天の携帯電話サービスは4G/LTE世代でスタートするが、その先も当然見据えている。「5Gもその先の6Gであっても、(仮想化していれば)ソフトウェアのコンフィギュレーションでハンドリングできる」(三木谷氏)

 5Gについては、超高速・低遅延・多接続などさまざまなメリットがあるが、楽天ではここへさらに「モバイルエッジコンピューティング」の考えも持ち込む。クラウドでは、サーバーとクライアントの距離が物理的に遠く、自動運転などの実現にあっては速度面で不利とされる。そこで、クライアントとの距離が物理的に近い「エッジ(サーバー)」をクラウドとは別に用意し、スピードを稼ぐ。

 「楽天モバイルでは、日本全国に約4000のエッジサーバーを用意する。ユーザーから見た場合、距離にして2~5kmのところに(クラウドとは別の)大きなコンピューターを持っていると考えてもらえればいい」(三木谷氏)

そもそも低遅延な5Gに、エッジコンピューティングを持ち込むことで、さらなる通信品質向上を目指す
そもそも低遅延な5Gに、エッジコンピューティングを持ち込むことで、さらなる通信品質向上を目指す

 エッジコンピューティングが実現すれば、ハンドセットが処理すべき役割は減る。例えば、グラフィック性能の低いスマートフォンで、本格的な3Dゲームが楽しめるといった具合だ。

 5Gとエッジコンピューティングの組み合わせは、自動運転に寄与すべき点が多い。三木谷氏は「恐らくは10年以内に、運転手が一切いないレベル5の自動運転が実現するだろう。友人のイーロン・マスクは『3年でできるよ』と言っているが、さすがにそこまでは無理じゃないかな(笑)」と、ジョーク混じりに述べている。

 講演のまとめとして、三木谷氏は「今までの延長線上に、必ずしも未来があるとは限らない」と話す。破壊的創造を伴う技術発展により、通貨がなくなり、国の概念も変わり、言葉の壁が乗り越えられ、120歳まで生きる時代があと数年で到来するかもしれない。その起爆剤が5Gだと三木谷氏は主張する。

 楽天では今後、新しいキャッチフレーズとして「WALK TOGETHER」を掲げていく。楽天だけが先進技術を扱うのではなく、楽天市場に出店するビジネスパートナーはもちろん、消費者にも働きかけ、Win-Win-Winな関係作りを真剣に考えていくと三木谷氏は表明し、講演を締めくくった。


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