中国・北京に拠点を置くベンチャーキャピタルであるGobi Partners。そのManaging Partner InvestmentであるKay-Mok Ku氏が、8月29日に東京のミッドタウン日比谷で開催される「Next Silicon Valley」に登壇する。世界中のテックベンチャーや市場情報と国内企業をシームレスにつなぐオンラインサービス「SEKAIBOX」を運営するシェアエックスが主催する、世界6カ国のIT投資家や支援者が集うカンファレンスだ。
これに先駆け、Kay氏にオンラインインタビューする機会を得た。中国のビジネス事情に精通する同氏は、中国のテクノロジートレンドや、日本企業と中国企業の関係についてどう考えているのか。聞き手は、SEKAIBOXを運営するシェアエックスの鈴木健吾氏が務めた。
——Gobi Partners(以下GP)やKayさんご自身について教えていただけますか。
GPは、中国、香港、およびASEANの各地で事業を展開するベンチャーキャピタルで、約11億ドル(約1200億円)を運用しています。上海とクアラルンプールに本社をおき、シード、アーリーステージから成長段階までの起業家をサポートしています。主に、新興市場や今後デジタルテクノロジーの介在などで、サービスが拡充される領域に焦点を当てています。
設立はITバブル後の2002年、ちょうど中国でバイドゥやアリババが創設された時期です。これまでに13号のファンドで、250社以上のスタートアップに投資してきました。また、バンコク、北京、ホーチミン、香港、ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、上海、シンガポール、東京とオフィスの数も順調に拡大しています。現在はシリコンバレーにもオフィス設立を準備しているところです。
私自身はシンガポール出身ですが、シリコンバレーとは深い関わりがあります。学生時代は、カリフォルニア大学バークレー校でコンピューターサイエンスを専攻していました。その時はシンガポール政府の奨学金制度を活用して留学していました。実は日本語も2年間勉強したので、少しなら話すことができますよ(笑)。
卒業後はシンガポールに一旦帰国して、政府のCD-ROMを普及させるプロジェクトの仕事をしていました。1990年代後半です。そのビジネスがシリコンバレーのVCから投資を受けることになり、またシリコンバレーに渡りました。その後、ベンチャーキャピタリストとして10年ほど、現地のスタートアップに投資活動を行ってきました。ちょうどITバブルの頃でしたので、市場の興隆と急激な冷え込みの両方を経験しました。
2006年にまたシンガポールに戻り、今度は政府が新しく創設したDigital Media Fundの仕事に就きました。それから2年間で、主にテレビ局におけるデジタルメディア関連の事業を進め、その後GPとともにシンガポールでファンドを立ち上げGPに参画しました。
——Kayさんは急成長する中国市場をどのように見ていますか。また特に注目しているテクノロジー領域があれば教えてください。
皆さんがご存知の通り、中国と米国間でテクノロジー競争が起きています。これは中国が独自でIT製品、ITシステムを構築してきた、ということが言えると思います。特定の技術分野のみということでなく、ITシステムのバリューチェーンそのもの(足元の半導体からスマホ、システム製品そしてOSまで)がすごいスピードで中国製品やサービスに取って変わっています。マクロな視点での市場トレンドの話ですが、まずはこの点を理解しましょう。
次に中国の将来像をどう予測するかです。やはり自動運転や自動化における分野は無視できません。ビッグデータの活用や顔認証といった技術の介入も、基本的には自動化の動きに拍車をかけていくでしょうし、個人レベルではスマホが普及したことにより、これらの自動化分野のサービスがより身近なものになっていくと考えられます。
トレンドの観点で言うと、どういった起業家に投資をするか、と言うことにもつながってきます。特に海外進出を考えているスタートアップを私は「出海(チュウハイ)」と呼んでいます。優秀なスキルを持つエンジニアチームを従え、優秀なサービスを海外市場に出していく起業家に注目しています。ここで言う海外市場とは新興市場のことで、ITインフラ、サービス(例えばペイメントなどの)が整っていない市場を指します。
「ITバリューチェーンの変遷」「テクノロジーの将来像」「海外市場を狙う起業家」、この3点がマクロな観点では外せないトレンドだと私は思います。
——日本企業の視点で、どのように中国企業と付き合うべきか、また中国進出を考えたときに必須となるマインドセット、事業開発において外せない観点はありますか。
まず、日本企業の強みが何かという部分をしっかりと抑えるべきだと思います。私の理解では、例えば、精密技術のIP供給が考えられると思います。日本は1つの要素技術を何十年も研究して形にしていくことが得意ですが、中国は全くそんなことはありません。未完成な要素技術を活用した製品やサービスを、すばやく市場に供給することに優先順位を置くからです。
日本企業が、こういったビジネス文化のギャップを上手く事業機会にできれば、面白いのではないでしょうか。また、中国は日本のIP技術力の高さを理解していますので、日本の要素技術が活用されていることをきちんとブランド化することも大事です。
日本は2000年のITバブル前後までは、国内市場全体が順調に成長してきましたが、過去20年の成長は横ばいでかつ、独特の文化と言語によって守られてきた市場です。そのため、海外市場への進出や海外企業との業務提携は一般的に上手くいっていないと言えます。中国スタートアップとの協業に興味があったり、中国市場への進出を考えている方々は、まずはビジネス文化の違いをしっかり理解し、次の打ち手につなげてもらいたいと思います。
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