Musilova氏は、冗談めかして自分の「dome sweet dome」(いとしき我が家を意味する「home sweet home」のもじり)と呼んでいる居住空間を案内してくれた。この施設では、6人の人員を収容することが可能で、個々の寝室が提供される。ほかにも、ワークステーションや実験室、キッチンとダイニングスペース、2つのバスルームが備わっている。筆者はフリーズドライ食品(パイナップルはおいしいが、ニンジンは歯が折れそうになるほど硬い)からバイオトイレ(いうほど気持ち悪いものではない)まで、あらゆるものを試した。
キッチンには、料理好きの人のために電子レンジや冷蔵庫、コンロが設置されているが、食べ物が乾燥食品で、水を加えて元に戻す必要があるため、風味を加える調味料が重要になる。「鶏肉と牛肉の違いは色だけだ、とよく冗談で言っている」とMusilova氏は話す。
宇宙ミッションを控えた宇宙飛行士は、数週間あるいは数カ月間のミッションでHI-SEASを訪れ、科学実験を行ったり、新しい宇宙服や通信システムのような特定のテクノロジーをテストしたりする。食料の栽培など、比較的単純なことに焦点を当てたミッションもある。
「われわれは実験用のウサギのようなもの」。Musilova氏は、スロバキアの学生たちが先頃、化学処理を施したメンバーの髪の毛を肥料として使用する実験を行ったことを筆者に説明し、そう語った。
ミッションコントロールセンターはこの居住空間から自動車で約50分のところにあるが、電力レベルといったさまざまな要素や、居住空間の内側と外側、宇宙飛行士たちを遠隔監視することができる。別の惑星で暮らすことの心理学的側面を研究するミッションでは、心拍数やストレスレベルを記録するために、胸や腕、手にモニターを装着することもある。
外界との交信には、3秒~20分以上の遅延が発生する。地球から火星までの距離を再現するためであり、これを無効化することはできない。火星へのミッションでは、危機的状況にあるときでも、ミッションコントロールセンターが火星にいる宇宙飛行士に応答するのに最大で45分かかる。帯域幅も意図的に制限されているため、ほとんどのミッションでは、電子メールとメッセージしか利用できない。
ミッションによっては、船外の探査が船内での研究と同じくらい重要になる。こうした探査は船外活動(EVA)と呼ばれ、宇宙飛行士は改造された宇宙服を装着した後、船外へ出て、サンプルを収集したり、将来の探査のために周囲の地形の地図を作成したり、居住空間を整備したりする。筆者は宇宙服に着替えて、保護手袋と膝パッド、ヘルメットを着用した。このヘルメットは完全に密閉されてはいないので、実際の宇宙用ヘルメットとは違うが、それでも閉塞感がある。エアロックを通過して、われわれは外界に足を踏み入れた。
ここは標高が高いため、空気が薄い。海抜約2499mの高さにいる。筆者の体はまだこの高度に完全に順応していない。溶岩をよじ登って乗り越えたとき、肺が十分な量の空気を吸い込むのに苦労していた。雨が降り出した。バックパックに備わっているファンには、息でヘルメットの日よけが曇るのを防げるだけのパワーはなかった。突然、足下の岩が崩れ、筆者は地面に転げ落ちてしまった。幸い、傷を負ったのは、ほとんど筆者の自尊心だけだった。
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