筆者と異なり、Musilova氏はここで数十回もEVAを実施した経験があり、この地形を完全に熟知している。筆者は、天窓と呼ばれる地質学的特徴のある場所に向かって進む同氏の後についていった。以前は、この天窓の下を溶岩が流れていたが、現在では地面にぽっかりと空いた巨大な穴のように見える。その洞窟は底が見えないほど深く、赤い岩がその中に落ちていた。
「このような環境は、火星の表面で見られる。月面にも似たような環境がある。われわれがそうした環境をここで研究し、宇宙服を着て研究を行うのはそのためだ。できる限りリアルに感じられるようにする」(Musilova氏)
HI-SEASの居住空間の電力源は太陽電池であり、ソーラーパネルが終日バッテリーパックを充電する。水素燃料電池はバックアップとして機能する。
この居住空間に予定されている次の大きな変更は、水をリサイクルするための閉ループシステムを加えることだ。居住空間の設計者であるVincent Paul Ponthieux氏は閉ループシステムについて、もっと大規模なプロジェクト、つまり完全な「月の村」の予行演習となるものだと筆者に話してくれた。
Mahina Laniという名称になるこの村は、約4平方km以上の敷地におよび、キャンパスや試験施設、隔離研究用のよりアナログ式の居住空間で構成される予定だ。「これは国際的な取り組みになり、現在の居住空間と同じように、すべての国際宇宙機関に開放される予定だ」(Ponthieux氏)
月や火星に多くのものを持って行くことはできないので、長期間滞在するには、現地の資源を使用することが鍵となる。Musilova氏によると、彼らは現在、土壌から水分を抽出し、飲み水として使用するテクノロジーを研究中だという。この水をさらに分解することで、その中から人間が呼吸するための酸素を確保したり、水素を燃料に使用したりすることもできる。
最初はここ地球上で、次に実際の月面上で、地球外の暮らしを練習できれば、火星に着陸した際には、暮らしを始めるのがずっと簡単になるだろう。しかし、ここ地球でシミュレーションしているからといって、そこに現実感が欠けているわけではない。Musilova氏は、ミッションを離れて再び外界の環境に慣れようとする宇宙飛行士について、逸話を話してくれた。
「突然、宇宙服を着ていない状態でドアを開ける状況が訪れると、『あれ?一体何が起きているんだ?自分は死んでしまうのか?』という気持ちに襲われる」(Musilova氏)
そのときの宇宙飛行士と同じように、筆者も居住空間を離れるとき、多少の混乱を感じた。高所でのEVA(と高高度)から低い場所に移動して海抜0mまで戻ったときには、動揺しそうになった。
HI-SEASのシミュレーションを体験したことは、おそらく、筆者の人生で月面歩行に最も近づいた経験になるだろう。この経験を通して、別の惑星で暮らすためには、肉体的(そして、精神的)にいかに強靱でなければならないかということを新たに認識できた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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