一般社団法人日本レコード協会は7月11日、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽出版社協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟の4団体に加え、AWA、KKBOX、LINE MUSIC、楽天の4社とともに、アップルに対し、著作権者および著作隣接権者などの管理者が想定しない態様による音楽配信アプリ(無許諾音楽アプリ)の対策強化について、要望書を6月28日付で提出したと発表した。
これは、「Music FM」など無許諾で音源を配信する音楽アプリのApp Storeでの配信停止を求めるもの。要望書では、「アプリの事前審査の強化、審査段階におけるアプリストアと権利者の連携、協力体制の強化」と「権利者から削除依頼がなされた場合、明らかに違法もしくはアプリストアの規約違反であるアプリの迅速な削除」を求めている。
Music FMは、中国を中心に2012年ごろから「Music Box」として出回っているもので、アーティストなどの著作権者や事業者に許諾を取っていないまま楽曲を配信している。無料で音楽が聴き放題なうえ、サブスクリプション各社には配信されていない楽曲も聴けること、ダウンロードしてオフライン再生もできることから10代を中心に人気を博しているという。これまで、iOSでは14回、Androidでは3回にわたり更新されており、アプリ名やアイコンを変えながら今もダウンロード可能な状態にある。
ダウンロード数については、アップルやグーグルが公表しないため、被害額などの実態については把握しきれていない。しかし、LINEのパネル調査サービス「LINEリサーチ」を使った、大規模アンケート調査(15〜59歳の男女、有効回答数は22万8613人)によると、「いまスマホで音楽を楽しむとき、最もよく使っているものは?」という質問に対し、全体の11%がMUSIC FMを挙げている。さらに、10代全体に絞ると32%まで上昇する。複数回答を求めない質問に対してこれだけ利用しているという声から、問題の根深さが見えてくる。
こうしたアプリは、CDやダウンロード、ストリーミング配信によって、アーティストや事業者が本来得られるはずの収益が入らないうえ、違法アプリの運営者が、アプリ上に掲載されている広告から不当な利益を得ているのも問題となっている。さらに、ウェブサイトとは異なり、App StoreやGoogle Play Storeといったアプリストアから除外された場合でも、サーバーが生きている限り、一度ダウンロードしてしまえば音楽を聞くことができてしまう。そのため、App Storeに掲載されてから取り下げられるまでの期間が長いほど、サービスを利用できるユーザー数は増えてしまう。
日本レコード協会では、著作権保護・促進センターを立ち上げ、違法アプリの検知やYouTubeなどへの違法アップロードなどを監視している。無許諾音楽アプリについては、App StoreやGoogle Play Storeで見つけ次第、各社に報告しているという。グーグルは、迅速な連携が取れるようになり、報告後1週間程度で取り下げられるようになったというが、アップルに関してはアプリが取り下げられなかったり、1カ月ほど掲載されたままとなるケースが非常に多いほか、似たようなアプリが再び登録されているなどアプリストア側の対応が不十分と協会側は指摘する。
App Storeでの主な取り下げスキームはこうだ。App Store窓口あてに専用フォームから削除依頼を申請。その後、アップルからアプリ開発者あてに削除依頼があったことをメールにて通知し、開発者と日本レコード協会との間で問題解決するように指示があるという。その後、開発者とレコード協会側でメールでやり取りし、アップルはCC経由でそのやり取りを監視する。しかし、開発者から返信があったとしても、レコード協会側が本当に著作権に関連する組織なのかを訪ねてやり取りを間延びさせたり、協会側が動きにくい休日前を狙ってアプリを登録したりと、取り下げが長期化してしまうという。
そのため、ストアの規約に違反するアプリを迅速に削除するよう、また、明らかに違法にアップロードされた音源にリンクするアプリがストアに出品されることがないよう、アップル側に要請する運びとなった。
なお、著作権保護・促進センターのセンター長を務める末永昌樹氏によると、同様のアプリが登録されてしまう理由としてアップル側からは、審査時点ではコンテンツがなく、審査後にリンクされていたりと、あの手この手で審査を通す手段を講じていると説明があったという。また、アプリの広告配信にはGoogle AdSenseが使われているとしており、配信事業者側のフォームから、違法音源にリンクしているため広告掲載は適切ではないとする連絡を逐次行っているものの、今のところ効果が出ていない状況だという。
日本における音楽配信の市場規模は645億円で、前年比113%と5年連続で増加傾向にある。そのうち、ストリーミングサービスが349億円で、配信全体の5割を超えるところまで伸びてきている。日本レコード協会 常務理事の高杉健二氏は、「ストリーミングサービスのさらなる利用が今後増えることにレコード協会としても期待したい」とした一方、配信サービスの成長を阻害する無許諾音楽アプリについて「アプリ対策は、レコード協会としても行ってきた。一番効果的なのはユーザーの手に渡る前に、審査の段階で未然に防止すること。アプリストアに一層のお願いをすべく、要望書を提出した」とする。
LINE MUSIC取締役の高橋明彦氏は、「(配信する)コンテンツに関しては、さらに許諾をいただけるように交渉していく。無料アプリと比べて使い勝手の良さや入って得するサービスを提供したい」とさらなるサービス向上を述べた上で、日本のユーザーのマインドチェンジが無許諾アプリ追放の後ろ盾となるという。「日本の音楽ユーザーは真面目。今回の問題提起で、(Music FMなどが)アーティストが望む形ではないことがもっと知られてほしい。ここ半年から1年ほど、Music FMの名前を出す人は『カッコ悪い』といった認識や、『応援するからサブスクで聴く』といった流れが調査から判明している。ユーザーのマインドチェンジ、音楽が正しく使われていないことに対する警告の空気が醸成されれば」と期待を込めた。
なお、海外での無許諾アプリについては、フリーミアムモデルのSpotifyが登場してから一掃されたという。広告付きであれば無料で聴くことができ、Spotifyに勝る無料アプリがないというのが実情のようだ。
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