英語で「照明を点けて」(turn the lights on)というフレーズが「テンダーロイン」(tenderloin)という言葉と同じように耳に聞こえるのは偶然のことだ。だが、そうした一見重要ではなさそうに思える音のつながりは、Amazonの「Alexa Shopping」チームにとって早期の課題となった。Amazonは、照明を点けようとしているだけのユーザーに肉を届けて驚かせることは何としても避けたいと考えたからだ。
そこで、同社は音声コマンドのランキングシステムを考案し、使用頻度の高い、照明に関するリクエストを、頻度の低いテンダーロインに関するリクエストよりも上位に位置付けた。このシステムに磨きをかけるために、同社はAlexaにもコンテキスト認識機能を持たせ、会話の話題がスマートホームの制御ではなく食料品であるかどうかをAlexaが判別できるようした。
Alexa Shopping担当バイスプレジデントのChuck Moore氏は、6月にラスベガスで開催されたAmazonの人工知能(AI)とロボット工学に関するカンファレンス「re:MARS」で筆者に対し、次のように語った。「われわれはユーザーの会話のコンテキストを特定した後、そのコンテキスト内でランク付けを行い、ユーザーが実際に言った言葉が『テンダーロイン』であることを認識する」
この精密な音声認識処理は、倉庫のロボット、レジ係のいない小売店、そしてもちろんAlexaなど、自社事業のほぼすべての層にAIに関する専門知識と自動化を組み入れようとするAmazonの取り組みの一環だ。ユーザーの目に触れないこうした裏側のテクノロジーはすでに、Amazonの顧客に対してより短時間での配達を提供し、買い物リストの作成や牛乳の購入など、人々の雑事を効率的に処理するのに役立っている。
Amazonは、AIにリソースを投入している多くの大手テクノロジー企業の1つにすぎない。AIを利用することで、コンピューターやボットは意思決定や顧客のニーズの予測といった、より高度なタスクを実行できる。AIは私たちの生活を一変させ、向上させることができる、とMicrosoftやGoogle、Apple、Facebookも宣伝している。
re:MARSで、米CNETはAmazonのさまざまな事業を統括する4人の幹部に話を聞いた。彼らはAmazon社内でのAI開発の仕組みの一部について、特別に情報を教えてくれた。そして、AIがいかにして、同社にとってWalmartのようなライバルの小売業者やMicrosoft、Googleのようなクラウドサービスプロバイダーと競うための極めて重要な要素となったかについて、経緯を説明してくれた。
re:MARSに参加したCreative StrategiesのアナリストのCarolina Milanesi氏は、次のように述べている。「(AIは)至る所で使われている。AIは、Amazonが提供するすべてのサービス、製造するすべての製品、運営するすべての事業に欠かせないものだ」
しかし、自動化とAIは多くの人にとって厄介な言葉にもなっている。これらの用語は、ロボットに人間の仕事を奪われてしまうのではないか、という不安をかき立てるからだ。タスクの自動化ははるか昔から行われているが、新しいテクノロジーの急速な発展は、経済の非常に大きな部分を混乱に陥れる可能性がある。Oxford Economicsのアナリストの最新予測によると、2030年までに全世界で最大2000万の製造職が自動化され、消滅する可能性があるという。米国でも、何千万もの雇用、特に輸送や倉庫といった、繰り返しが多く高いスキルを必要としない仕事が消滅のリスクにさらされているとする調査結果もある。
Amazonの幹部陣は、AIと自動化の未来を悲観していないと述べている。そして、今後も倉庫ロボットと共に働く人材や、最新の機械学習コードを作成する人材を多く雇用していくと語った。
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