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“広告界のイチロー”が凱旋帰国--レイ・イナモト氏が考える日本復活のシナリオ

松本恒太朗 山川晶之 (編集部)2019年07月11日 09時00分
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 グーグルやナイキ、アウディ、スターバックスなど、数々の世界的企業を相手に広告業界で活躍し、Creativity誌の「世界で最も影響力のある50人」や Forbes誌の「世界の広告業界で最もクリエイティブな25人」に選ばれ、世界中の賞を総なめにしたレイ・イナモト氏。

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(左から)高宮範有氏、レイ・イナモト氏、間澤崇氏

 2004年から2015年まで、米国に本社を置くグローバル規模の広告代理店「AKQA」の最高クリエイティブ責任者(CCO)として活躍。その後、広告業界の枠を飛び出し、ユニクロやトヨタなどの新サービス開発やブランディングまでを手掛けるビジネスインベンションファーム「Inamoto & Co.」を米ニューヨークに設立。同社は、イノベーションではなくインベンション(発明)を掲げ、プロモーションだけでなく持続可能な新しいビジネスの創出を目的に活動している。

 そんなグローバルで活躍するイナモト氏だが、7月1日に新拠点となる「Inamoto&Co. Tokyo」を設立し、日本に“凱旋帰国”した。元アクセンチュアのストラテジーグループでビジネスコンサルティングやファイナンスに従事していた間澤崇氏、PARTYでチーフストラテジストを歴任した高宮範有氏と共同で、日本企業の“ビジネスインベンション”に取り組む。

 なぜ、新拠点の地に日本を選んだのか、米国や中国に押され、厳しい局面に立たされることの多くなった日本企業が再び世界で輝く時代は来るのか、Inamoto&Co. Tokyoの今後の展望などを含め、イナモト氏、間澤氏、高宮氏の3名に聞いた。

もともと広告を作りたいとは思っていなかった

――「広告界のイチロー」とも呼ばれたイナモト氏ですが、3年前にInamoto&Co.を立ち上げました。立ち上げの経緯を教えてください。

イナモト氏 実はもともと広告を作りたいと思っておらず、広告業界についてもよく分かっていませんでした。大学卒業後、クリエイターのタナカ・ノリユキ氏の元でインターンをはじめて、クリエイティブで新しい物事を生み出すことができると知ったことが、クリエイティブ業界に入ったきっかけです。その当時は広告業界に入ったという認識はありませんでしたし、学んだのも広告は余りありませんでした。インターンとして始まり、その後、R/GAやAKQAでクリエイティブディレクターとして働いてきました。

 20年近く企業の組織の中で働いてきて、ちょうど社会人人生のハーフタイムのように感じ、今後20年何を仕事にしたいかと考えた時、新しい形態の会社を始めたいと2016年に「Inamoto&Co.」を立ち上げました。そこから現在3年目になります。

――Inamoto&Co.は、一言で言うと、どういった企業なのでしょうか。

イナモト氏 「ビジネスインベンションファーム」を標榜しています。

 今、多くの企業がイノベーションを求めていて、広告領域だけでなく、コンサルティング会社やデザインファームなど、企業に対して新サービスの立ち上げをサポートする会社がいくつか出てきています。そうした中で、2010年あたりから気づき始めたことがあります。

 まず企業は、コンサルティング会社に数億円かけて事業分析を依頼します。そこで出てくるのは数百ページに及ぶパワーポイントの資料。そこに書かれてあることは間違っていることはなく、情報の密度も高いのですが、一方で、「じゃあ、具体的に何から始めるの?」とクライアント企業に聞いても、余りしっくり刺さっていなく答えられないことが多くあります。

 次に企業は、デザインファームに「未来の〇〇について考えてください」と頼むと、半年から1年ほどかけて、コンセプトムービーのようなものが出来上がります。とてもかっこよく、コンセプチュアルなのですが、そういったムービーの多くは、「家の壁が一面タッチスクリーン」「無人自動車」「話しかけてくれる冷蔵庫」などのおとぎ話がほとんどで、ビジョンとしてはよく見えても、現実味のある将来のビジネスなのかというと疑問が残ります。

 そうしているうちに時間はなくなり、広告エージェンシーに駆け込み、「時間も予算もありませんが、何かあたらしいものを作ってください」とお願いする、こういったパターンが実は多いのです。結果として、「2〜3年間かけて話してきたことが、結局広告展開だけで終わる・・・」といったことをたくさん目にしてきて、本当にもったいないとAKQA時代から感じていました。

 そこで、一連の流れを融合して同時並行で形にできる集団として立ち上げたのが、「ビジネスインベンションファーム」です。軸になるのは、「デザイン」「データ」「テクノロジー」の3つ。これらを掛け合わせて、新しいオポチュニティを確立していきます。

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――東京オフィスには、元アクセンチュアの間澤氏と、クリエイティブ企業「PARTY」の高宮氏が加わりました。お二人が合流した経緯を教えてください。

間澤氏 私はこれまで戦略コンサルタントとして、ビジネスコンサルティングやファイナンスの領域を中心に活動してきました。前職のコンサルティング会社では、多くのことを学んだのですが、課題解決の道筋を立てたとしても、それを大きく育てるフェーズは別の組織が行い、自分は担当できない場合があり、個人的な課題を感じていました。

 そうした中で、「これまでと違うアプローチで仕事をできる会社がないか」と、世界のデザインファームやコンサルティング企業について調べていたところ、Inamoto&Co.を見つけたんです。当時はイノベーションやインキュベーションという言葉が流行っていましたが、「インベンション」を謳う企業は他になく、次の時代のキーワードになると思い、コンタクトを取りました。

 そこから定期的にレイ氏と連絡を取り合うようになり、約2年かけて、意見交換を続ける中で、今回のInamoto&Co. Tokyo立ち上げにつながりました。

高宮氏 前職時代から、PARTYの高宮として「Uniqlo IQ」などでレイ氏と一緒に仕事をしてきて、もう3年以上になります。PARTYは、日本で一番クリエイティブの領域を広げて実績を残している会社だと思っていますし、僕個人も多くのチャンスをもらい、責任のある立場を任されていたので、今回の話があった時に、すごく悩んだのが正直なところです。

 とはいえ、昨年、再度、Inamoto&Co. Tokyo立ち上げの話をもらった時に、「0→1」で新しいことを生み出すチャンスなこと、戦略コンサルタントである間澤氏と組んで、事業開発やブランド支援などを行うことが、僕自身の強みを活かせる道なのではと考えました。

 今は「日本発でグローバルなブランドやサービスを立ち上げる」という目標に向かって、組織づくりを始めています。

――「Uniqlo IQ」は、イナモト氏と高宮氏が携わったチャットボットサービスとの話がありました。

高宮氏 Uniqlo IQは、まさに我々が目指すビジネスインベンションで、単なる「アプリ内のチャットボットサービス」でなく、店舗や、配送センター、お客様窓口をすべてつなぐものになるというコンセプトを描いて、少しずつ実現していっています。短期の広告キャンペーンは、どれだけ話題になっても、その後に無くなってしまいます。Uniqlo IQでは、バックヤードやカスタマーサービスを含め、汎用性が高い長期的なサービスが作れたと考えています。

イナモト氏 実は、東京オフィスを立ち上げたのも、ビジネス領域の間澤とクリエイティブ領域の高宮という「違う畑」のプロフェッショナルを組み合わせたいと思ったからです。本当はもう少し早く発表したかったのですが、ビジネス畑とクリエイティブ畑の二人が揃うことにこだわって、かなり時間をかけて、この日を迎えました。

間澤氏 未来を予測するにあたり、不確実で分からないことがたくさんあります。過去のデータを使って、論理的に考え抜いた答えを本当に信じて良いものなのか…と、最後のひと押しを言い切れないことが戦略コンサルタントをしている時に感じた限界でした。クリエイティブ領域の方々は、そこを直感的かつ感性で読み取る力がとても高い。両方が組み合わさることで、これまでにない価値あるものを生み出せると考えています。

タダでできる“4つのこと”で、日本企業は変われる

――NYを拠点に活躍してきた中で、東京にオフィスを構える意味とは。

イナモト氏 2020年の東京オリンピック以降、日本企業は人口が減っていく国内市場のみではビジネスに限界が来ます。15歳で日本を出てヨーロッパとアメリカで過ごしてきて、日本人には「日本はダメ」というようなコンプレックスもあるのもずっと気になっていました。その一方、改めて日本にはいろいろ素晴らしいところがあると気づかされました。なので、日本の企業、そして人々が僕らのような会社と共に、世界を土俵にしながら戦えるようにしたいのです。

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