“広告界のイチロー”が凱旋帰国--レイ・イナモト氏が考える日本復活のシナリオ - (page 2)

高宮氏 日本にはかつて世界を席巻した素晴らしい企業があります。ずっと日本で育ってきた人間としては、現状に歯がゆい思いもあります。大企業は縦割りになり、部署ごとに意思決定があるために、ドラスティックな事業展開が出来ていない気がしています。「コンサル会社の事業計画、デザインファームのコンセプトムービー、広告エージェンシーのコミュニケーション」という現状のバラバラになってしまっている進め方を僕らがアップデートするお手伝いができれば、日本企業が持つポテンシャルを最大化できるのではないかと考えています。

 僕自身もメルカリの上場に関するコミュニケーションなどスタートアップのブランディングを担当した一方で、一部上場企業の大企業との仕事もしてきました。その中で感じるのは、スピード感の違い。今のスタートアップの速さで意思決定ができれば、日本企業は変わっていけるという手応えがあります。

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ーー大企業は、大きくなりすぎたことでポテンシャルが無くなっているのかもしれません。日本の企業が新規事業を生み出す上で必要なことはどんなことでしょうか。

高宮氏 例えば全自動折りたたみ機、非常に注目されていたにもかかわらず、どうしても自動で畳めない衣類があったことで、開発を中断したという話もあります。そういった例が象徴的で、日本における企業の意思決定において、マイナス点を全てつぶさないと世に出せないという発想があるように思えます。例えば、インスタグラムは登場した当初にはさまざまな機能がありましたが、カメラにフォーカスして機能を削って今のポジションがあります。100点主義を改めて、30〜40点でも世に出していくのが重要で、(100点にする前に)10回先に失敗したほうが実は近道だったりします。成功に固執しすぎている気がします。

イナモト氏 深センの会社などは、失敗することを織り込んでいます。

高宮氏 小さなものをたくさん出していく方が、実は成功確率が上がるというのは、世界のいろいろ事業で見えてくることです。打ち手を増やすことで成功確率が上がります。1個を80〜90%にするのではなく、30%を何個も当てたほうがいい。日本企業は完璧すぎるかもしれません。発想の転換が必要だと思います。

イナモト氏 例えば野球のデータを見ると、1シーズンでホームラン王になった選手と、毎ゲームごとに一塁打を打つ選手を見ると、キャリアを通じて常に一塁打を打っていく選手の方が、殿堂入りしやすいという話があります。大きい成功を狙って進めるよりも、打ち手を増やすことで成功につながる例だと思います。

ーー日本企業が変わるために必要なことは何でしょうか。

イナモト氏 日本企業を変えるのはすごく簡単で、すごく難しいんです。単刀直入にいうと、「50歳以上のおじさん」が日本をだめにしているという傾向があります。もちろん全てのおじさんではないですが。2020年以降、日本がよりグローバル化する必要があるなかで、日本でやるべきことが4つあります。しかも、すべてタダでできることです。

 1つ目は年功序列をなくすこと。日本は、先輩後輩の関係があり、上の人が偉いというしきたりが残っています。ただ、年齢に関係なく責任を持たせることが、グローバルの会社はできています。

 2つ目は男尊女卑をなくす。いわゆる大企業役員を見ると、いまだに9割以上が50歳以上のおじさんばかり。それって2019年の時勢、かなり危険ですよね。

 3つ目は英語を勉強する。海外のビジネスの世界でよく耳にするのは、何故日本では英語の喋れない人達ばかりなのか。これの解決法って実はそれ程難しくない事なんです。英会話教室に行かなくても、頑張ればYouTubeなどである程度まで学ぶことができてしまいます。

 4つ目は「決める」こと。もしくは決定者をハッキリする事。完璧でないと世の中に出せないため、なかなか物事が決められない傾向があります。間違っていても決めることが大事です。これは日本だけではないと思うのですが、ある意味、民主主義的なやり方の度合いが行き過ぎていて、決定者がハッキリしなかったり、物事が決まらなかったりって意外とよくあるのです。

 この4つさえ意識していけば、日本企業は必ず変われるでしょう。すべてタダでできることです。僕が口で言うのは簡単かも知れませんが、日本のおじ様達がリーダーシップをとって進んで実行して頂ければ、必ずいい方向に向くでしょう。

ーーすでに、ナイキのようにプロダクトから顧客コミュニケーションまで一気通貫している日本の企業を挙げるとすればどこでしょうか。

イナモト氏 UNIQLOは、会社のミッションがすごくはっきりしています。服を変え、常識を変え、世界を変えるというビジョンが社員全員に浸透しています。山口県の本社だけでなく工場で働く人も理解していて、別の場所にいても、世界を変えているという意識を持って仕事しています。米国でも、グーグルやナイキはミッションがブレていないので、ビジネスとしてうまくいっていますが、そうではない企業はビジネス的に何かしらうまくいっていない印象です。

 世界を舞台に、世界一のものを作ること。例えば、作るプロダクトが日本でしか売らないとしても、世界一だと自負を持って意識してやっていくべきです。UNIQLOのプロジェクトでも、「世界一のモノを作れ」という柳井氏(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)からの明快なミッションを与えられたのは意義深かったと思います。

日本文化は素晴らしい、ただクールジャパンはやめたほうが良い

ーー今見えている日本の良さとは。

間澤氏 日本文化は素晴らしいということをもっと日本人は自覚して良いのではないかと思います。私もかつて米国に住んでいましたが、海外に住んでいると見える日本の良さはとても多いものです。日本人自身がその良さに気づけていないことはとてももったいないと感じています。

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イナモト氏 今の「クールジャパン」や「Japan Is Cool!」は、海外に住んでいる人間として少しどうかと。ブランドが自身をアピールするときに「私のブランドはクール」と言ってしまう途端、ダサくなります。例えば、トランプ大統領が来日中に相撲を観戦した際、ホワイトハウスが編集した映像って意外と良くて、日本が作る宣伝よりいい宣伝になっていると思いました。

ーー視点が異なると、魅力が炙り出される一つの例ですね。

高宮氏 日本人は海外に向けて、「アニメ」「京都」などをカテゴライズして見せようとしますが、海外では、日本特有の「マッシュアップしたもの」が面白いと思われています。京都のような伝統的な雰囲気ではなく、渋谷や大阪の道頓堀といった、一見ものすごくごちゃごちゃしているけれど整理されている状態に日本の魅力を感じる人も多いのです。海外から来たものをアレンジするのも得意で、カルチャーのマッシュアップが国民性としてあります。

イナモト氏 この「整理されたカオス」が、日本の魅力のように感じます。NYもタイムズスクエアなどの雑踏はカオスですが、それとはまったく異なるものです。

「ロジック」よりも「マジック」を重要視せよ

ーー「デザイン」「データ」「テクノロジー」が、企業の課題解決の核になるとのことですが、イナモト氏はかつて「テクノロジーは人の心に触れるものでなければならない」と発言しています。

イナモト氏 いくつか視点はありますが、人間と機械とで決定的に違うのは感情です。ある脳と感情の調査で、脳の感情をコントロールする部分に何らかの形でダメージがあると、何色の服を着ようか、何を飲もうかなど、基本なことが決められなくなってしまうという結果が出たそうです。

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