――2018年には、データ分析企業によるFacebookの個人情報の不正使用が問題になりましたが、あの局面をどう乗り越えたのでしょうか。また、長谷川さんご自身はどのような思いでしたか。
会社としてだけでなく、私個人の価値観から見ても、プラットフォームの不正使用に関連して多くの方にご迷惑ご心配をおかけしたことは本当に申し訳ないと思いました。まず、素直にそこに向き合って、オープンな姿勢でしっかりお伝えすることが大事なのだと思いました。
その一方で、僕らがそこに向き合ったことで、すごくスピーディにいろいろな物事が進んでいきました。たとえば、利用者の皆さんに安心・安全に使っていただくために、情報を管理できるようにする機能を実装したり、プライバシーポリシーを改正したり、不正使用を防ぐ対策を早いタイミングでリリースしたりすることができました。また、GDPRなども、多くの会社にとって大きなイベントだったと思いますが、ここにもいち早く対応できました。
利用者の皆さんに安心・安全に使っていただくことが最優先課題で、最優先の注力領域だということが改めて認識できたのは、フェイスブック ジャパンとしてもすごく良いことだったと思っています。当然ながら、ユーザーの皆さんからはいろいろなご意見もいただきましたし、そんな甘い状況ではなかったのですが、そこと向き合い、やるべきことをしっかりやっていくことに注力できたと思っています。
――長谷川さんがこの3年半で最も悩んだ決断は何でしたか。
私が入社した時には、Facebook社はほぼ(SNSの)Facebookの1本柱でした。そこから、InstagramやOculusなどファミリーでFacebookのミッションを実現する方向に舵を切ったのは、大きな決断だったと思います。社員も含めて慣れ親しんでいるのはFacebookですし、僕らは皆、Facebookのことをやると思って入社してきている中で、Facebookだけではないんだと。
世界中の人をつなげてその距離感を縮めようと思うと、Facebook以外にもInstagram、あるいは10年スパンで考えていくOculusのように、地理的な制約をなくして人のつながりを生むようなものが大きな重要性を帯びていく。そんな風に広げるのは当然リスクもあるんですけど、そこが一番大きな決断でしたね。
――日本の代表的な2つのSNSを運営してきた長谷川さんには、現状の日本のSNSを取り巻く状況はどう見えていますか。
FacebookとInstagramは、どちらも僕らの会社が運営していますが、それぞれで見える景色、特徴は大きく違いますよね。Facebookは実名で顔を出しているので、リアルな人のつながりに限りなく近いんですね。だからこそ与えられるインパクトが大きかったり、果たせる役割があると思っています。
それこそ震災や防災といった分野では、リアルに近い人のつながりによっていろいろなパワーが生まれてきます。地方活性化という側面では、人が減って交流人口も含めて課題感を持っているからこそ、バーチャルも含めた人のつながりがハマったりとか。そういったところはすごくユニークな役割なのかなと思います。
Instagramについては、そもそも人と人とのつながり方やコミュニケーションが、日本だけでなく世界中でテキストからビジュアルに移っている巨大なトレンドがあります。その波のど真ん中にInstagramが乗れたからこそ、ここまで浸透しているのかなと思います。
あとこれは個人的な意見ですけど、日本独自の大きな特徴は2つあって、1つはもともとスマートフォンが出る前からケータイで何でもやってきた、そういう社会だったと思うんですよね。乗り換え案内から占い、ショッピング、音楽まで、日本はありとあらゆることをモバイルでやってきた“モバイル先進国”でした。
そして、人と人とのコミュニケーションにおいては、ビジュアルなコミュニケーションはすごく得意な国民性でもある。たとえば、絵文字は日本生まれですし、それこそキヤノンやニコンのような世界に名だたるカメラメーカーが日本から生まれています。ビジュアルなコミュニケーションというものが、文化に根付いている国だと僕は思っているんです。
その「モバイル×ビジュアル」って、まさにInstagramそのものなわけです。テキストからビジュアルへコミュニケーションが移っていくトレンドが生まれたことと、モバイル×ビジュアルっていう脈々と日本で受け継がれてきた土壌があって、そういう中でInstagramが皆さんに受け入れられて、急速に広がっているんじゃないかなと思いますね。
――Instagramというサービス自体の中でも、さまざまなトレンドが生まれてきているように思います。
Instagramを見てて思うのは、カジュアルな投稿がトレンドとしてあるんだなと。僕らの場合はストーリーズという24時間で投稿が消える比較的新しいフォーマットを提供していますが、まだ数年なのに、世界と比べても日本はストーリーズ大国と言えるまでに成長しています。
デイリーアクティブアカウントの7割がストーリーズを活用しているのですが、それはすごくレベルが高いことなんですよね。あまり構えずに、ストーリーズのような気軽なフォーマットで日常のワンシーンを投稿している。それも、単に撮るだけじゃなくてスタンプを入れたりとか、ちょっとエフェクトをかけてより楽しく気軽に自己表現している。
もう1つ特徴的なのが、Instagramにおけるハッシュタグ検索の頻度が、日本は世界平均の3倍ぐらいあることです。これまた日本人らしい、いろいろな情報を知りたい、自分で見つけたい、それもテキストではなくビジュアルでいろんな情報を知りたい、っていう気持ちがその裏側にあるんだと思うんです。
だから旅行先もハッシュタグ検索をして決める。なんなら旅行に持って行く小物やグッズも、Instagramでハッシュタグ検索して決める。レストランも決める。いろいろなものをInstagramのハッシュタグ検索を使ってビジュアルで情報収集をして決断していくっていうのは、すごく面白いトレンドだと思います。
――今後、SNSの使われ方や役割はどう変化していくと思いますか。
トレンドって、そのポイントだけを見るものじゃないと思うんですよね。ちょっと前だったら「動画の時代です」って言っている人がいて、他方では「今はVRの時代だ」という話をしていたりする。でも、大事なことってそれぞれを見るんじゃなくて、全体のトレンドとして何が起こってるのかなんですよね。
特にモバイルのテクノロジーに合わせて、人と人とのコミュニケーションやつながり方がどう進化して多様化しているのか。昔だったら友達とコミュニケーションするのにケータイでテキスト入力していたものが、ケータイにカメラがつくと写真を撮って写メールするようになった。テキストからビジュアルに移って、今度はスマートフォンになるとビデオカメラ機能があるので、写真だったものが動画に進化した。
その先にあるものが、おそらくVR/ARだと僕らは思っている。VR/ARを使うとさらにリッチな環境になって、どこにいても、あたかも一緒に目黒川の桜の下にいるかのようにコミュニケーションをとれるようになる。テキストからビジュアル、ビデオになって、やがてVR/ARの世界になっていく一連の流れだと思います。
テクノロジーやエコシステム自体がどれくらい出来上がるかによって進み方は変わると思うのですが、1つの事象について「この時代が来ます」というよりは、その大きな流れを理解することの方が大切だと思っています。だからこそ僕らも大きな流れを理解して、その流れの中でどう人と人の新しいつながり方を見つけていくかが会社として大事なテーマになると考えているわけです。
個人的には、米国に住んで、日本に住んで、シンガポールに住んでまた日本に戻ってきて、みたいな自身のバックグラウンドの中で、日本とグローバルのつながりみたいなところに課題感をもっているので、人と人のつながり方がより自由になって国境を越えていく。そういう時代の中で、日本の皆さんが自由に国境を越えていろいろな方とつながって、理解もするし、発信もしていく、みたいなことがもっと起こってほしいなと思いますね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果