集英社は6月20日、出版社初となるチャットノベル(小説)アプリ「TanZak(タンザク)」を公開した。LINEのようなテキストメッセージ形式にすることで、キャラクター同士の会話を“覗き見”するような感覚で、気軽に物語を楽しめることが特徴だ。「ONE PIECE」など週刊少年ジャンプの人気漫画のノベライズのほか、完全新作のオリジナル作品も用意する。
「チャットノベル市場は徐々に熱を帯び始め、米国やアジア市場に続いて、いよいよ日本でも一定の市場が生まれつつある」と話す、集英社 デジタル事業部 デジタル事業第1課の漆原正貴氏に、TanZakの誕生秘話や、出版社がチャットノベルを手がける意義などを聞いた。
——サービス名である「TanZak(タンザク)」の由来は何でしょうか。
色々ありますが、TanZakは文字を読ませるアプリなので、文字にまつわる語呂のよい単語を考えました。「短く」「サクサク」という意図と、長方形のチャットボックスから連想して“短冊”から名付けました。
——漫画のイメージが強い集英社から、チャットノベルアプリが生まれた経緯を教えてください。
私はもともと紙の本が大好きで、自宅には壁一面に本棚を設置して3000冊の書籍を並べています。(インターネット電子図書館の)「青空文庫」でも、かなりの数の作品を読み尽くしました。
私が在籍するデジタル事業部は、漫画や小説をデジタル化する部署ですが、漫画と小説のデジタル化はまったく別物です。たとえばキャンペーンの観点で見ますと、漫画は試し読みや1巻無料が多いですが、小説の場合は50%オフやまとめ買い価格といった値引きが中心です。
漫画のデジタル化は“試し読み文化”を背景に市場が発展しましたが、小説は試し読みから購入に至るシナリオが構築されませんでした。もちろんアプリの問題やビューアーの選択肢が少ないといった課題はありつつも、前述のような戦略しか用意されていません。そのため、後ほどお話ししますが、TanZakは"1話目を読む"ハードルを低くしました。
あと、デジタルの小説では偶然の出会いが生まれにくいんですね。紙の雑誌や単行本の漫画作品が、デジタル化することで日の目を見た例は少なくありません。一方で、小説のデジタル化は試し読みする機会がないため、再ヒットするケースは多くないのです。
海外、特に米国ではチャットノベルが盛り上がっています。米国のブックカテゴリでもベスト10に「HOOKED」や「Yarn」がランクインし、全アプリでも100位以内に入るようになりました。このようにチャットノベル市場が盛り上がっている理由は、ティーンエイジャー向けのUI/UXに尽きます。SNSメッセンジャーのように画面をタップすると、チャット形式でストーリーや登場人物の会話が進んでいくのですが、この気軽さが広く受け入れられた要因でしょう。
よく活字離れといわれますが、皆ニュースアプリやSNSの投稿といった(横文字の)テキストコンテンツを毎日のように目にしているため、文字自体は読んでいるんです。ただ小説は、紙の縦組みのレイアウトをそのままデジタル化しており、ビューアーアプリ以外でこのレイアウトを目にすることはありません。スマートフォンが登場して10年以上経つのにも関わらずです。だからこそ、スマートフォンに最適化したチャットノベル市場が生まれたのでしょう。
その上で、今回弊社がチャットノベル市場に参入する理由は2つあります。1つ目は国内市場の拡大。小学館はスタートアップのBalloonと組んでチャット小説大賞を設立しており、講談社も小説投稿サイトをオープンするなど出版社の参入も活発です。もう1つは、アジア圏のデジタル小説市場が成長しつつあることです。ある韓国企業にヒアリングしたところ、小説が漫画など他のコンテンツ売り上げを上回っており、中国でも小説市場に成長傾向が見られました。
そのため、2018年ごろから「日本にもデジタル小説の波がくるのでは」と考えるようになり、小説を読者に届ける手段として、新たな手法に本気で向き合おうと思いました。この2つの理由を背景に、TanZakは生まれました。恐らく2019年は"デジタルノベル元年"になるでしょう。
——確かに、2019年夏にはLINEも「LINEノベル」を開始するなど、日本でもチャットノベル市場が盛り上がりそうです。では、TanZakのコンテンツや機能について詳しく教えてください。
チャットノベルの利点は「手軽に1行目を読める」ことだと思うので、基本的に1話あたり数分で読了できる文字数(約1200〜2000字)にしています。また、「話者が誰か分かるようになっている」こともチャットノベルならではの特徴なので、TanZakでは“話者アイコン”を新たに加えていますが、これがあるとないとでは中断後の読みやすさや読了までの時間が大きく異なります。このほか、1話読了するごとに、読者は「タンザクねこ」のスタンプを通じて、作家に感想を伝えることができます。
作品のジャンルとしては「漫画のノベライズ」「ホラー」「恋愛青春」「ファンタジー(異世界ものなど)」を中心に広げていこうと考えています。4ジャンルに絞り込んだ理由として、米国市場の傾向を見ますとホラーと恋愛系コンテンツを多く見かけます。その背景には多様な理由があると思いますが、短時間で読了感を得るには"物語の形"を理解しなければなりません。刺激が欲しいときはホラー、ドキドキしたいときは恋愛と、期待する感情とコンテンツがマッチしているからこそ、2ジャンルが成長しているのだと思います。
——ローンチ時点でのコンテンツボリュームはどれほどでしょうか。
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